「涅槃会」という言葉を聞いたことがありますか? 「涅槃会」は、お釈迦さまの「入滅」を偲ぶ仏教の法会のひとつです。そもそも「入滅って何?」と疑問に思われる人もいるかもしれませんね。この記事では「涅槃会」に関する基礎知識を解説。ビジネス雑談にも役立つ、素朴な疑問を解決します!
【目次】
【「涅槃会」とは?「意味」と「由来」】
■「読み方」
「涅槃会」は「ねはんえ」と読みます。「ねはんかい」ではありませんよ。
■「意味」
「涅槃会」とは、陰暦2月15日に行われる法会(ほうえ)、つまり仏法を説くための法要を指します。
■「由来」
「涅槃会」は、陰暦2月15日のお釈迦さまの命日に由来します。お釈迦さまの命日は「入滅」とも呼ばれます。そして、その「入滅」は、人間の迷いを離れて悟りの境地に入ること、という意味です。実はお釈迦さまの命日は不明なのですが、中国で2月15日に行われる「涅槃会」が日本にも伝わり、そのまま定着したとされています。
【「涅槃会」では何をする?】
■涅槃図を掲げ、法要を行う
「涅槃会」は、涅槃図の前で行われます。涅槃図とは、お釈迦さまが入滅する様子を描いた図(絵画)で、涅槃会の本尊として用いられます。一般に、お釈迦さまが頭を北、顔を西、右脇を下にして臥(ふ)し、周囲に諸菩薩(ぼさつ)や仏弟子、善男善女、動物などが集まって悲嘆にくれるさまが描かれています。この法要では涅槃図を前に、ありし日のお釈迦さまを偲びつつ法要を営むのです。
現存する、わが国最古の涅槃図は1086(応徳3)年の金剛峯寺所蔵のもので、それに続くものとして東京国立博物館や和歌山県浄教寺などのものが、平安時代末期から鎌倉時代初期の作として知られています。また、奈良の興福寺では、天平年間である750年頃から「涅槃会」が行われています。
■お供え菓子の授与
お供えした菓子を参拝者にくださるお寺もあります。お供え菓子は地域によって異なり、「花供曽(はなくそ)」と呼ばれるあられや、「涅槃団子」など、いろいろな種類があります。
■涅槃図の一般公開
涅槃図の特別公開を行う寺院もあります。
【「涅槃団子」とは?】
■お釈迦さまの遺骨(仏舎利)にちなんだ「涅槃団子」
「涅槃会」でお供えする団子は「涅槃団子(ねはんだんご)」と呼ばれ、お釈迦さまのご遺骨である仏舎利(ぶっしゃり)を意味しているそうです。涅槃会を行う寺院によって形状や色味は少しずつ異なりますが、基本的には丸い形です。特に大阪では、「涅槃会」のあと、境内で五色の団子をまく地域もあり、「この団子をいただくことで一年間健やかに過ごせる」とされています。これは、お釈迦さまの遺骨(仏舎利)が「五色に輝いていた」という言い伝えに由来します。
涅槃団子の五色は、青・赤・黄・白・黒。仏教においてはこの五色が神聖な色とされることから。それぞれ、青(緑)は「冷静さ・慈悲」、赤は「活力・正義」、黄は「知恵・調和」、白は「清らかさ」、そして黒は「忍耐・強さ」を象徴しているそうです。
【「涅槃会」にまつわる雑学】
■「涅槃会」という名前はどこから?
お釈迦さまとなった「ゴータマ・シッダールタ」は、紀元前6世紀ごろ北インドの王族として生を受けました。29歳のときに身分を捨てて出家し、修行者として6年間の厳しい苦行を積みました。35歳のときに菩提樹で禅行を行った際に悟りを得たとされています。
以後45年間は各地を巡り、人々に仏教の教えを授け、弟子を増やしました。そして80歳になったころ、あと3か月で自身が入滅することを弟子に伝え、終焉の地であるクシナガラで涅槃を迎えたと伝えられています。
「涅槃」とは、肉体を捨て、迷いのなくなった境地であり、苦しみが消滅した状態を意味します。お釈迦さまがこの世での命を終えた(入滅)ことにより、身体的な苦からも脱して完全な「涅槃」に至ったことから、「涅槃会」が生まれたのです。
■「涅槃会」が有名な寺院といえば…
・四天王寺
大阪の四天王寺では、毎年2月15日に涅槃会の法要が執り行われています。当日は金堂において法要が執り行われ、14時からは丸池西の仏足石釈迦如来石像前で献花式が行われます。涅槃図もご開帳され、「二歳参り」という子どもの成長を願う行事も併せて行われます。
・本法寺
京都の本法寺は室町時代に建てられた寺院で、本阿弥家の菩提寺です。日蓮宗において、さまざまな仏教画を描いてきた画人、長谷川等伯が1599年に描いた三大涅槃図のひとつが収められています。ユーモアを感じさせるデザインも特徴で、お釈迦さまが仏教を布教していた当時、南蛮人が連れていたとされる2匹のコリー犬も描かれていますよ。ご参拝のときは探してみてくださいね。2025年の「釈尊涅槃会」は3月14日(金)10時から。「特別寺宝展 涅槃図公開」は、3月14日(金)から4月15日(火)です。
・東福寺
東福寺は、京都市東山区本町にある臨済 宗東福寺派の大本山です。鎌倉時代の摂政である九条家によって発願されました。東福寺の涅槃図も、三大涅槃図のひとつに数えられ、東福寺の僧侶である明兆により、描かれたものだそうです。縦約12メートル、横約6メートルと非常に大きな涅槃図であり、さらにほかの涅槃図とは異なり、猫が描かれているという大変珍しい特徴があり、別名「猫入り涅槃図」といわれています。この猫は絵の具をくわえて明兆を訪れたとされており、東福寺ではこの猫を「魔除けの猫」としています。
※残念ながら、こちらの涅槃図は現在修復作業中です。2025年の「涅槃会」でも拝見できませんのでご注意を。
・泉涌寺(せんにゅうじ)
京都・泉涌寺の境内には天皇の陵墓を擁し、皇室の菩提所であることから、「御寺(みてら)泉涌寺」とも呼ばれています。真言宗泉涌寺派の総本山です。掲げられる涅槃図は日本で最も大きく、長さ約16メートル、幅約8メートル。天井を覆うように広げられますが、全容をひと目で見ることができないことから、「大涅槃図」とも呼ばれています。狩野派に学んだ明誉古礀上人によるもので、こちらも三大涅槃図のひとつです。「涅槃会」は3月14日(金)から16日(日)。大涅槃図の公開日程は、3月8日(日)から17日(月)。
■三大仏事とは?
三大仏事は、お釈迦さまがこの世に誕生された日を祝う「花まつり(灌仏会)」の4月8日、お釈迦さまが悟りを開かれた日である「成道会(じょうどうえ)」の12月8日、そしてこの「涅槃会」の2月15日の3つです。
■「涅槃会」開催の時期は事前に確認を
「涅槃会」は、寺院によっては開催時期が異なることがあります。お釈迦さまが入滅した旧暦の2月は、現在の暦の3月にあたることから、3月15日に涅槃会を行うお寺もあります。事前に参列を検討している寺院での開催日を調べてからお出かけくださいね。
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「涅槃会」では、お釈迦さまが入滅された際の様子を描いた「涅槃図」が公開され、多くの参拝者が訪れます。この機会にお近くのお寺を訪ね、「涅槃会」にご参拝してみてはいかがでしょうか。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) :