【目次】

【第12回のあらすじ】

しばらく血生臭い回が続きましたが、今回は人間ドラマとしての見応えたっぷりな『豊臣兄弟!』でした。

本圀寺の変で勝利した信長(小栗旬さん)は、第15代足利将軍となった義昭(尾上右近さん)を護衛するため、城郭づくりの二条御所をなんと70日で建造。ところがその屋敷には隠し部屋があったりして、信長も将軍義昭も互いのことを信用していないことは明らかです。

信長の上洛に伴い京都奉行に任命された藤吉郎(池松壮亮さん)。明智光秀(要潤さん)や丹羽長秀(池田鉄洋さん)と同じ役職ですからスピード出世です。妻同志もバチバチのライバル、前田利家(大東駿介さん)を飛び越えてしまいましたが、戦の現場へ出向いたり、京でのさまざまな雑務や公家との付き合いをしたりなど、小一郎(仲野太賀さん)も巻き込んで今まで以上に大忙し! 「お奉行さま」なんて、優雅なものではありませんね。

(C)NHK
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義昭に仕える光秀、信長に仕える藤吉郎。境遇は違えど、主のために生きているという点でふたりはそっくりです。こういうところを丁寧に描くのが、本作『豊臣兄弟!』の魅力ですね。

そして、しばらく岐阜に帰れていない藤吉郎は、京でま・さ・か・の女遊び! 妻の寧々(浜辺美波さん)にぞっこんの藤一郎ではありますが、そういえば女にだらしない…のでした。

政略結婚として浅井長政(中島歩さん)に嫁いだ妹・市(宮崎あおいさん)が暮らす小谷城へ、信長は藤吉郎と小一郎を“土産”として伴って出かけます。今回のタイトル通り「小谷城の再会」という訳です。はじめは顔を見せるどころか文のひとつもよこさない信長にむくれていた市ですが、やはりこの妹も兄上のことが大好き! 藤吉郎と小一郎のサプライズ登場で心もほどけます。

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長政や子どもらとの穏やかな生活に、「ずっと兄上のために生きていくことしか考えていなかった自分が噓のようじゃ」とほほ笑む市。本作で、口角が上がった宮崎あおいさんを見るのは珍しいですね。某ハンバーガーチェーンのCMでの、可愛すぎる宮崎さんを彷彿させる笑顔でした。

久しぶりに岐阜の家族のもとへ戻った藤吉郎と小一郎。京での女遊びもバレており、淋しい思いをしている寧々は藤吉郎の酒に毒を盛ったと戯言を言います。戦や政治という活躍の場がない女性のほうが夫や親兄弟への依存が高かった時代ですから、寧々のほうが藤一郎にぞっこんだったといえるかもしれません。

ふたりが互いの想いを確認するこのシーンで印象的だったのは、遊びではなく本気の女性ができたら遠慮なくどうぞ、「私には子ができぬかもしれませんから…」と言う寧々の言葉。事実、藤吉郎(秀吉)と寧々の間に子どもはできませんでした。秀吉が溺愛するも3歳で亡くなった嫡男・鶴丸は、市の娘の茶々(今回はまだ乳飲み子でした!)との間にできた跡継ぎ候補。それを私たち歴史の授業などで習っているわけですから、この寧々の悲しい発言をスルーできなかった人も多かったのではないでしょうか。

一方の小一郎は、結婚前に愛する直を失い「わしはもうおなごはええ」と。ところが信長は主命として嫁をとれといいます。相手は安藤守就(田中哲司さん)の娘・慶(ちか、吉岡里帆さん)。なにやら訳ありな女性のようですが…。次回の「疑惑の花嫁」というタイトルも、サスペンスドラマ的で期待が高まります!


【次々と運ばれるあの桐箱は…】

第10回レビューでも触れましたが、戦国時代の政治の場に「茶の湯」は欠かせませんでした。武将たちは茶室という特殊な密室で膝を突き合わせ、名器といわれる茶道具を賄賂的に贈りあいます。ひとつの茶碗や茶入で城が傾く時代だったのです。

■来歴が重要!「箱書き」という文化

買い物をした際に品物が収納されていた箱、捨てられないという人もいますよね。戦国武将にとっても、箱は大切なものでした。今回の放送でも、市の機嫌をとるためのたくさんの贈り物の箱が座敷に並べられていましたね。

茶道具や刀剣に顕著ですが、そのもの自体の価値に加え、誰の所有だったかという来歴はとても重要です。そのため所有者の名前だけでなく、「誰から誰にいつ贈られたものか」といった情報が、箱のふた裏などに記されました。これを「箱書き」といいますが、茶入「つくも茄子」の箱にはさぞ大勢の名前が記されていたでしょう。

日本には包む文化が根付いていたため、箱や布も大切に扱われてきました。茶道具の多くは神聖さや清浄さを表す桐箱に真田紐を十字に掛けて収納したり運んだりします(器物を直接重ねるなんていうことはしません)。西洋では、美術品の裏や底などに署名したり、鑑定書を発行するのが一般的ですね。

「箱書き」は、作者本人やその所有者、後世の鑑定者などによって書かれるもので、中の品の名称や作家の署名、押印などが記されています。「真正性」を保証するものであり、「書」「真筆」としての価値もあります。品物を「保護」するだけでなく、直接目に触れさせないという日本ならではの「奥ゆかしさ」の表れでもあるのです。

画面に映るか映らないかにかかわらず、そこにあるべきものを用意する――のが、小道具さんの腕の見せどころ。中身は見えずとも、箱があるということの意味に気付いてほしい! この先の『豊臣兄弟!』では、もっと茶道具が登場するかもしれないので、注目して見ていてくださいね。

■秀吉が手にしていた茶入

三好勢から信長へと寝返った松永久秀(竹中直人さん)が、信長に献上した小さな桐箱。その後のシーンで信長が丸いナス形の茶色い器をしげしげと眺めるシーンがありましたが、あれは「つくも茄子」と呼ばれた名茶入でしょうか。室町幕府3代将軍足利義満から松永家に伝わり、久秀から信長へ。そののち、秀吉、家康と、天下人の手中にあり続けながらも大破するなど数奇な運命をたどりますが、見事に修復されて明治17(1884)年に三菱2代社長・岩崎彌之助の所有に。

現在は三菱家の収集品を管理する静嘉堂文庫美術館が、大名物「唐物茄子茶入 付藻茄子」として所有しています。ちなみに、2026年4月7日(火)から始まる当美術館の展覧会「美を味わう―懐石のうつわと茶の湯」で鑑賞することができますよ。


【次回 『豊臣兄弟!』第13回「疑惑の花嫁」あらすじ】

信長(小栗旬さん)の指示で、小一郎(仲野太賀さん)は守就(田中哲司さん)の娘・慶(吉岡里帆さん)をめとることに。藤吉郎(池松壮亮さん)は喜ぶが、慶には悪い噂があり、しかもある理由から織田家を憎んでいた。そんな中、信長は越前・朝倉氏との戦を決意。息子の万福丸を朝倉へ人質に出している長政(中島歩さん)と会い、出陣せず後方の守りに徹してくれればいいと告げる。だが戦が始まると、長政は父・久政(榎木孝明さん)から朝倉方につくよう迫られる。

※『豊臣兄弟!』第12回「小谷城の再会」のNHK ONE配信期間は2026年4月4日(日)午後8:44までです。

※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:参考資料:参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館) :