「祝の酒は香にあふれ錫の堤子をひたしけり」

日本酒の香りが、心地よい酔いを誘うような、島崎藤村の詩である。

日本の美意識を込めた、錫の酒器

ろうがた型ぐい吞み四つ脚各¥10,000・ 石目片口2合¥16,000(清課堂)※すべて参考価格、編集部調べ
ろうがた型ぐい吞み四つ脚各¥10,000・ 石目片口2合¥16,000(清課堂)※すべて参考価格、編集部調べ

酒や水をおいしくするといわれ、古くから茶器や酒の器として用いられてきた錫。天保9年(1838年)の創業以来、そんな錫をはじめとした、金属工芸品を製作販売手掛けてきた、京都・寺町の『清課堂』。宮中の御用品や神社仏閣の荘厳品を手がけてきた銘店だ。

店主も、熟練の職人と共に製品づくりに勤しむ。

「錫の塊を溶かすと、甘い、メロンのような香りが立ち込めるんです」

酒を甘くまろやかにするという科学的には曖昧な蘊うんちく蓄をもつ錫だが、主の話を聞けば、この説もさもありなん。

ショーウィンドーからひとつ、ぐい吞みを取り出してみる。手によくなじむ丸みのある形と、存在感を示すような重さが愛おしい。それが和の手仕事の伝統の重みであり、酒の旨さを醸し出す錫のエネルギーなのであろう。

※2014年春号掲載時の情報です。 

この記事の執筆者
TEXT :
堀 けいこ ライター
BY :
MEN'S Precious2014年春号 和が生む、粋なる「モノ」語りより
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。近年ではレストラン取材やエンターテイメントの情報発信の記事なども担当し、ジャンルを問わないマルチなライターを実践する。
クレジット :
撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー) 
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