有人動力飛行を実現したのがライト兄弟ならば、本格的なパイロットウォッチを世に送り出したのは、ホムバーガー兄弟であった。1930年代、IWCのオーナーであったエルンスト・ヤコブ・ホムバーガーの息子、ハンスとルドルフは、空を愛する男たちだった。

ふたりは、レガッタのオリンピック選手であったと同時にパイロットとしても活動していた。ハンスは、のちにIWCの経営を引き継いだが、ルドルフはスイス空軍の中尉として活躍。ドイツ空軍の砲撃を受け重傷を負いながらも、無事に帰還したという武勇伝の持ち主であった。

初代から現在まで脈々と受け継がれるIWCの機能と美しさ

男たちの冒険心をかき立てるロマンあふれる時計

フランスの飛行家アンリ・ギヨメ(右)とサン=テグジュペリ(左)。彼らもまた大空に魅せられた男たちだった。
フランスの飛行家アンリ・ギヨメ(右)とサン=テグジュペリ(左)。彼らもまた大空に魅せられた男たちだった。

パイロット・ウォッチ・マークXVIII

まさに「ザ・パイロットウォッチ」と呼びたくなるような質実剛健な雰囲気でありながら、モダンさをも漂わせる。入門機でありながら、到達点ともいえる完成度。40ミリのケースは実用性も高い。●自動巻き ●SSケース×SSブレスレット ●ケース径/40㎜ ¥600,000(IWC)※参考価格
まさに「ザ・パイロットウォッチ」と呼びたくなるような質実剛健な雰囲気でありながら、モダンさをも漂わせる。入門機でありながら、到達点ともいえる完成度。40ミリのケースは実用性も高い。●自動巻き ●SSケース×SSブレスレット ●ケース径/40㎜ ¥600,000(IWC)※参考価格

1936年、IWCが発表した初代「スペシャル・パイロット・ウォッチ」には、このふたりのパイロットの知見が注ぎ込まれていた。磁界の影響や温度や気圧の変化に耐え、狭いコクピット内でも正確に時間を読み取ることができる。

IWCのパイロットウォッチのアイコンとでも呼ぶべき「トライアングル・インデックス」は、飛行時間を知る目安として、初代では回転ベゼルで採用されている。さらにその4年後、現在のすべてのパイロットウォッチのオリジンともいえるケース径55ミリの「ビッグ・パイロット・ウォッチ52T.S.C.」を発表。

さらに1948年には、イギリス空軍のために「マークⅪ」を開発。以後、30年以上にわたって軍用時計として愛用されることになる。

初代「スペシャル・パイロット・ウォッチ」の外見は、80年前の腕時計とは思えない完成度の高さだ。シンプルで見やすく、洗練された美しさを感じさせる。究極の実用品でありながら、それを超えた色気を携えている。それこそが、初代から今に続くIWCのパイロットウォッチの伝統なのだ。

機能やデザインはより現代的になった。しかしそこに込められた思いは、ホムバーガー兄弟の時代から、恐らく変わってはいない。その時計を手首に巻くと、青空のなかに描かれた飛行機雲を見上げた、あの頃の気持ちがよみがえってくるのだ。

※価格は税抜きです。※2016年夏号掲載時の情報です。

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この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2016年夏号 大空への憧憬を宿す パイロットウォッチ伝説より
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭、唐澤光也 文/川上康介 構成/岡村佳代
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