イタリアの名サルトリア(仕立て服店)のオーナー兼サルトが来日するオーダー会が盛んだ。なかでも、一、二の人気を博しているのは、ナポリのサルトリア。既製服では成し得ない、軽く立体的な服づくりはもちろん、イタリアの他の地域の仕立てと比べても、やわらかなスーツのつくり込みや、昔ながらの凝りに凝ったディテール表現は、ナポリ仕立てならではの奥深い味わいがある。

伝説に包まれた仕立て屋サルトリア・ピロッツィ

全て手仕事でスーツを仕立てていく

ナポリ湾も望めるサンナザーロ広場の近くに、サルトリアを構える

待望の上陸を果たしたのがサルトリア・ピロッツィ。服づくりのセンスのよさにかけては、地元ナポリでも定評のある名店。しかし一方で、これまで幾度となく、耳触りな噂が流れた。あえて記すと「仮縫いを10回経ても、一向に仕上がらない」「オーナーが交通事故に遭ったため、仕事はストップした」など、いかにもナポリにありそうな冗談めいた話。それでも、ナポリを目ざして、ヨーロッパの各地から名立たるVIPが、足繁く通うというのだから、名店であることに間違いはない。どうやら、服づくりに熱中するあまり、顧客との対話がおろそかになった時期もあったそうだ。

今では、サルトリア・ピロッツィは、そんな悪名を払拭した。オーナーでありマエストロのヌンツィオ・ピロッツィ氏を筆頭に、ベテランサルトの弟のフェリーチェ氏、国内外の営業事務を管理する娘のジョヴァンナ氏、そして巧みな仕立て技を継承する息子のドメニコ氏といった、家族を中心に服づくりのシステムを構築。サルトリア・ピロッツィの仕立て服は、安定的に楽しめようになっている。

ここで改めて、ナポリ伝統の技を生かしたスーツを手がける、ピロッツィ氏の仕立て職人としての道のりを遡さかのぼる。

かつて、ナポリの仕立て職人がたくさん住んでいた、カサルヌォーヴォで生まれたピロッツィ氏は、腕利きの職人から、10歳で仕立ての手ほどきを受けた。12歳で小さなジャケットを完成させるほどの技術を習得。その後、ナポリを代表する名サルトのパスクァーレ・ソレンティーノの弟子を経て、多くの有名店の下請け仕事をこなす。この頃に、時代に鑑みたスタイルはどういったものかをあわせて体得していったのだ。

この道60年を超えるピロッツィ氏は、ギャザーの入った雨降りそでや、ジャケットのすそ先まで入れるダーツなど、より軽快な着心地と美しいシルエットを描くナポリスーツをつくり出す匠だ。

ナポリの老舗が仕立てるしなやかなネイビースーツ

イタリア名門生地ブランド、ヴィターレ バルべリス カノニコのネイビーのウール素材で仕立てた、シングル3ボタン段返りのスーツ。少し大きいラペルで存在感あるスタイルに。薄手の生地と仕立てがあいまったしなやかなラインは、サルトリア・ピロッツィの真骨頂だ。スーツオーダー価格¥700,000~(ストラスブルゴ)※税抜き

そんなピロッツィ氏が手がけるオーダーメイドを日本でも味わえるようになったことは、うれしいニュースだ。1回の仮縫いを経て、納期は1年。スーツのオーダーメイド価格は、70万円からの展開をしている。

サルトリア・ピロッツィの極上仕立てのスーツを着ることなくして、ナポリ仕立てを語ることなかれ。巧みな技が詰まったスーツの上陸だ。

※2014年夏号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
BY :
MEN'S precious2014年夏号艶やかなる、〝サルトリア・ピロッツィ〟のオーダースタイルより
ヴィットリオ矢部こと本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
Twitter へのリンク
クレジット :
撮影/小池紀行(パイルドライバー) スタイリスト/武内雅英(code) 構成・文/矢部克已(UFFIZI MEDIA)