長野・JR松本駅から車で約30分。今回は事前にシャトルバスを予約しておきました。国定公園内にある「扉温泉 明神館」への道は、途中から山深くなり、「この先に、本当にお宿があるのかしら……」と、思い始めたころに到着します。

エントランスでスタッフに迎えられ「サロン 1050」へ。ソファに座り、窓の外の豊かな自然を感じながら、ウェルカムドリンクとスイーツをいただき、館内の説明などを受けます。
「扉温泉 明神館」の始まりは1931年。創業当初から湯治文化を大切にし、この地と宿を守るとされる三体の龍神様に守られながら「なにもしない贅沢」を提案しています。
2008年には、高いビジョンを掲げ、食とおもてなしで世界に貢献するホテル・レストランの世界的な会員組織「ルレ・エ・シャトー」に加盟。2009年には国際エコラベル「グリーンキー」認証を日本で初めて取得しています。

ひと息ついたら客室へと向かいます。
新設の客室にステイし、現代の湯治体験を
「扉温泉 明神館」の大きな特徴は客室カテゴリーの多さにもあります。日本の旅館ならではの和室から、和洋室、大きなキングベッドが配されたモダンな洋室まで、さまざまなタイプがあります。
さらに2019年から24年にかけてリノベーションされ、客室温泉風呂のある新しい客室が登場しました。今回、滞在したのは、「然 湯治」。現代の湯治を体感する客室です。

真っ白なドアの先には広さのあるベッドルーム、ブロック壁の奥にリビング空間が広がっています。

リビングで寛いでいると、冷えたシャンパーニュ「ポメリー ブリュット・ロワイヤル」が運ばれてきました。早速、1杯だけ味わい、続きは湯上りのお楽しみに。


展望温泉風呂は、畳スペースの壁の奥にあります。

ゆったりとした浴槽に浸かれば、目の先には国定公園の豊かな森。小窓からの自然の風を感じながらプライベートな湯あみと森林浴を同時に、存分に。薄川(すすきがわ)の水音も耳に心地いい。
湯上りは、シャンパーニュ片手に畳スペースでくつろぎのひと時を。

この客室、「NEKOHAMA ROOM」という通称があります。
2017年に誕生した「NEKOHAMA(ネコハマ)」は、自身のルーツを日本にもつ創立者のMax Ando(マックス・アンドウ)と、妻でモデルのSanne Vloet(サンヌ・ヴロート)、そして友人の、“MATCHA” に魅せられた3人が立ち上げたLA発の抹茶ブランド。縁あって、このカテゴリーの客室を監修することに。
客室には「NEKOHAMA」の抹茶と、茶箱の中に茶器などがギフトとして用意されているので、客室内でカジュアルにお抹茶を楽しむのもよし、持ち帰って家でゆっくりと嗜むのもよし。

現代風の抹茶をいただくのも、現代の湯治の楽しみのひとつですね。
さらに、新たに「NEKOHAMA」の抹茶を使ったスイーツも登場。予約をすれば「サロン 1050」で味わうことができます。

館内の温泉を巡る楽しみも。トリートメントで癒しのひと時を
館内のお風呂は、立ち湯「雪月花」、寝湯「空山」、そして大浴場「白龍」の3か所。全て、2024年に改修工事が完了しています。
滞在中、客室風呂だけでなく時間を変えて幾度となく湯巡りを。野趣あふれる木々を目の前に、川音を耳にしながらの湯あみが楽しめる「立ち湯」が私のお気に入り。スチームサウナも併設されています。

湯温は心身がリラックスして体が芯から温まるという、少しぬるめの38~40度に設定され、湯冷めしにくいのもいいですね。

温泉で体を温めた後に受けたいのがトリートメント。別棟にある「Treatment Room Natura」は自然に囲まれたサロンです。
コンセプトは「標高1050mの扉の山から湧き出る温泉と、伝統療法に基づき陰陽五行をベースとした施術で、心身の調和を唱え自然のエネルギーと人が持つ再生力で大地と繋がり本来の美しい自分へ導く」。
植物療法の第一人者・森田敦子さんが手がける「le bois(ル ボア)」のトリートメントオイルを使用。五臓(肝・心・脾・肺・腎)に対応する経絡を刺激することにより気血水と五臓のバランスを整え、身体に調和をもたらすトリートメントです。

「BODY」は、その日の体調や悩みに合わせてカスタマイズしてくれるボディトリートメント。季節ごとの不調に合わせた「SEASONALY SPECIAL」も人気だそう。
オールハンドのトリートメントで全身をケアされ、また、ついうとうと…。トリートメント後は、パワーチャージもできたようです!
信州の食材をたっぷりと。余すところなく使う食事を堪能する
館内にダイニングは2か所あります。今夜は「信州 ダイニングTOBIRA」を予約しておきました。信州食材をたっぷりと使い、長野県に伝わる発酵文化、発酵食品もうまく取り入れた体に優しいディナーが味わえます。

「ディナーコース」は、先付、前菜、御椀、造り、焼肴、凌ぎ、強肴、食事、甘味といった構成です。
先付として供されたのは温かな「セロリと高麗人参のスープ」。冷たい食事や飲み物で疲れやすい夏の胃腸を気遣う、料理長のおもてなしからスタートです。
“前菜” は、焼きヤングコーン、鱧 木の芽焼き、猪と牛蒡 田舎煮など、5種の味わいがひと皿に。

日本料理を基本に和・洋の技術を巧みに使い、時には斬新な調理法も取り入れたコースです。地酒を中心にその日の料理に合わせた “日本酒ペアリング(¥7,700~)” も用意されています。
“お椀”は、「冬瓜 順才(じゅんさい) 柚子」。前菜で身を味わった鱧の骨を焼いてから、出汁を取ったという澄んだ出汁は、旨みたっぷり。出汁をたっぷりと含んだ冬瓜、大振りでプルプルとしたじゅんさいの食感もよく、夏の魅力を感じました。
メインは “信州プレミアム牛 サーロイン炭焼き 山葵だれ”。


1931年の創業時、まだ「地産地消」という言葉がなかった頃より、あたり前に、食事には自家農園・扉農場をはじめ、長野県の豊かな自然に育まれた四季折々の地元野菜をたっぷりと使ってきたそう。信州の恵みをたっぷりといただきました。
朝は早起きして、周辺を散策。そしてまた湯あみを。お腹が減ったので、和食と洋食から選べる朝食は、「Nature French菜」での洋食をセレクトしました。

滋味深い野菜のスープからスタートする朝食も、土地の恵みを盛り込んだメニューです。会田養鶏場の卵のスクランブルエッグ、サイドディッシュは「池田町金の鈴サラダと原木ベーコン・ソーセージ」を選んで、ボリュームもたっぷり。


2泊目はディナーをフレンチにして、3日目の朝は和朝食を味わうという贅沢も。やはり連泊して、ゆっくりと現代の湯治を楽しむべき宿と感じ、再訪を心に誓って帰路につきました。
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- TEXT :
- はまだふくこさん ライフスタイルジャーナリスト
- WRITING :
- はまだふくこ