三十歳も過ぎた大学同窓会は、いつしかエ
リート同士の異業種交流会になり、俺はその
雰囲気が嫌いになってきた。それでも行った
のは、同じ小中学から同じ大学に入り、途中
から海外留学したN子が来ると聞いたからだ。
 華やかに洗練されたN子は人に囲まれてい
た。俺とは遠くから目が合ったがまわりが放
さなかった。
 散会になって歩き始めた後ろから「Kくん」
とN子が追ってきて言った。
「ちょっと飲まない?」
 なじみのバーに連れ、並んで座った。
「わたし、キール」
「ぼくはウイスキー」
 かるく乾杯する彼女は間近で見ると、昔とは
別人の大人の美貌で、手にするキールの深紅が
あでやかだ。
「Kくんはあれからどうしたの?」
 学生時代と同じに、女性に君づけで呼ばれる
のはいいものだ。自分は平凡に商社に就職して
勤務している。N子は留学を終えて現地の研究
財団に入り日本と行ったり来たりという。
「N子は頭よかったからな」
「あらKくんだって」
 次第に名前を呼び捨てにできるのも嬉しい。
やはり幼なじみは遠慮がいらない。
「小学校のときあなたにいじめられたわ」
「そんなことないよ、それよりお前はあいつ
が好きだったんだろ」
 酒もすすみ、やや頬を染めて組み換えるき
れいな脚に目が行く。
「結婚したの?」「したよ。でもバツいち、
子供なし」「……あ、そう、ごめんなさい」
「お前は?」「まだひとり、外国と行ったり
来たりじゃだめ」
 空になったグラスを見つめていた顔をあげ
て聞かれた。
「どこに住んでるの?」「近くのTマンショ
ン」「え、何階? 私そこの十二階」「ええ!」
 同時に笑い出した。
「じゃ一緒に帰れるな」「そうしましょ」「よ
し、飲もう飲もう」
 いい夜になったぞ。


キール Kir

女性からの人気が高い、白ワインベースのカクテル、キール。誕生は第二次世界大戦後、フランス・ブルゴーニュ地方にあるディジョン市の市長、キャノン・フェリックス・キール氏が、辛口の白ワインにカシスのリキュールを加えて作ったのが始まりとされる。白ワイン:カシスのリキュールの割合は4:1が一般的だが、今宵は9:1と、白ワインを多めにしてミックス。白ワインの風味が生きた、大人の女性にふさわしい一杯に仕上げました。バーテンダー/ BAR GOYA 山﨑 剛

この記事の執筆者
1946年生まれ。デザイナー/作家。元東北芸術工科大学教授。日本各地のバー、居酒屋を訪ね著書を発表。『日本のバーを行く』(講談社)、『銀座の酒場を歩く』(ちくま文庫)、『今宵もウイスキー』(新潮文庫)、『みんな酒場で大きくなった』(河出文庫)、『居酒屋百名山』(新潮文庫)『ひとり旅ひとり酒』(京阪神エルマガジン社)、『居酒屋を極める』(新潮新書)、『日本の居酒屋―その県民性』(朝日新書)など。最新刊『老舗になる居酒屋―東京・第三世代の22軒』(光文社新書)
EDIT :
堀 けいこ
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