夏の午後、畳の上に大の字になったときに感じた気持ちよさ。こどもの頃の記憶に、こんな至福の感触があるのではないだろうか。それを叶えるのは畳がもつ、吸湿性、断熱性、弾力性といった多くの優れた機能。そしてもうひとつ、畳にしか有りえない“美しさ”に気づかせてくれるのが、デザイン畳「XT」なのだ。

宮城県石巻市ある畳専門「草新舍 」

草新舍が手がける美しいデザイン畳「XT」

部屋の大きさに合わせて施工する「敷き詰めタイプ」と、板張りの洋室などに敷くことができる「床置きタイプ」がある。デザインは4つのパターンがあり、その中から、我が家にあった「XT」選ぶことができる。

 日本固有の床材、畳は、イグサを敷物状に編んだ「畳表」で芯材となる「畳床」をくるみ、縫い合わせて作られている。稲わらを何層にも重ねて板状にする昔ながらの「わら畳床」の全国一の生産地が、宮城県なのである。

 デザイン畳「XT」を考案した草新舎は、わら畳床の製造から始まった1946年創業の会社。現在、3代目の高橋寿さんが職人ふたりを率いて行っている仕事は、近隣の住宅や公共の施設の畳作り。もう一方で、高橋さんが力を入れてきたのが、日本の伝統畳の継承。これまでに、国宝・重要文化財を含む全国200以上の寺社・仏閣への畳の施工を行ってきている。こうして培った畳作りの知識と技術が、過去1300年にわたる日本の畳文化に存在しなかった、変形加工のデザイン畳「XT」を生み出したのだった。

全国の寺社仏閣の畳を手がけてきた確かな技術力

これまで200以上の寺社仏閣への施工を行ってきた草新舎。「XT」は、その経験から培った畳の変形加工の技術をもとに実現している。

 小振りなサイズの変形加工をしたパーツ畳をパズルのように敷き詰める「XT」は、それぞれの畳の目の向きが違うため、全体を眺めると、光の入射角度による濃淡が模様のように現れる。その光景の美しさを極めるために、より表面密度が濃い「琉球表」と呼ばれる畳表を使用。わら畳床は、50cmもの厚さに縦横交互に積み重ねたわらを圧縮し、縦糸と横糸で丹念に縫い合わせている。これによって適度な弾力性がもたらされ、歩いたときの足腰への衝撃を吸収。座布団なしの直座りも、大の字での昼寝も、より快適にできるのだからうれしい。 

 さらに注目したいのが、これまでの畳にはない「XT」の実用的な機能。一枚のパーツ畳が、一般的な一畳よりも小さめなサイズのため、手軽に持ち運ぶことができる。だから、ベランダや窓際などでの陰干しが手軽に行える。また、フローリングなどの上に敷ける「床置きタイプ」もあり、こちらは、必要に応じて、片付けておくことができる。そう、現代の住宅事情に合った画期的な畳でもあるのだ。

高橋 寿さん
草新舍 社長
イギリスのメディアからの取材をうけるなど、海外からも注目されはじめている「XT」。社長の高橋寿さんは、海外にも和菓子文化を広めてきた「虎屋」をリスペクトしているという。

 高橋さんがこのデザイン畳「XT」の開発に本格的に着手したのは、2012年の春。その前から、それまで培ってきた知識と技術を生かした新しい製品ができないものかと、試行錯誤を繰り返していた。が、その夢は、2011年3月11日に発生した東日本大震災で途絶えてしまう。石巻の被害も甚大なものだった。高橋さんの工場も一部が損壊、大切な友人を津波で亡くした。しかし、呆然としてはいられなかった。3月13日には、知人の紹介で、床上浸水をした家に新しい畳を入れて欲しいという注文が入る。その後も仮設住宅への畳の大量納入など次々と注文が押し寄せ、文字通り、寝る間も惜しんでという生活が続いた。それがひと段落したのは翌2012年3月。心身ともに余裕ができはじめた頃、必死で納入を続けながら痛感した、畳のある生活の大切さを、あらためて噛み締めた。

 こうして始まった開発には、頼もしいふたりの若い職人が大きな力となってくれた。というのも、寺社仏閣の仕事では、丸柱や斜めの廊下などがあり、四角い畳では収まらないことがある。その過程で習得した彼らの高い変形加工の技術が、デザイン畳「XT」の実現につながったのだ。

 使う素材は選りすぐった天然素材にこだわる。高い技術と手間を惜しまず、丁寧につくる。だから、「XT」の価格は、一畳相当のスペースあたり12万円から、と、かなり高い。‥‥この姿勢には、世の中に認められている一流ブランドと通じるものがある。なにより、背景には日本の伝統文化がある。「XT」は、優れた審美眼の持ち主の目に叶う、世界に認められる日本ブランドとなる予感がする。

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この記事の執筆者
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。近年ではレストラン取材やエンターテイメントの情報発信の記事なども担当し、ジャンルを問わないマルチなライターを実践する。
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