今月のMs.Precious……神奈川県湯河原町在住の飲食店経営55歳。3歳から高校卒業までアメリカで過ごす。大学は東海岸の音楽院に進むつもりだったが、ふと「このタイミングで日本を経験するのもいいかも……」と、四谷にある大学に帰国子女枠で入学。ギリギリで就職氷河期を逃れ、新卒で一部上場の飲料メーカーに入社。大きな仕事も経験してそれなりに楽しかったが、リーマンショックを過ぎたあたりで会社員人生がつまらなく思えてきて退職する。夢だったジャズバーを始めてみたら偶然と幸運が重なって大当たり。現在はコンセプトの違う3店舗を運営するオーナーに。最近、妙に昔を思い出すことが増え、「今のアメ車ってどんなんだろう」という興味から情報収集し、今回キャデラックをリクエスト。

今月のクルマ……【CADILLAC LYRIQ SPORT】
1902年に歩みを始めたキャデラック。品質の高さと技術革新によって、初期の自動車産業を牽引した立役者と言っても過言ではありません。アメリカの自動車工業の成功とデザイン史を象徴する存在として、尊敬を集めたブランドとも言えるでしょう。1940年代以降は、アメリカンドリームをつかんだ成功者や経営者たちから好まれ、「キャデラックに乗ることはひとつの目標であり憧れ」となり、特権階級にある人や政府指導者たちのクルマとして愛された話は枚挙にいとまがありません。そんなアメリカ文化のアイコンですが、栄華を享受しすぎた結果、一時期はブランドの停滞期に陥ったこともありました。しかし、2000年頃からふたたび攻勢に打って出ます。純度の高いアメリカン・ラグジュアリーから、モダンなインターナショナルブランドへの変革です。アーティスティックなデザインやスポーティな操縦性を持つ新しいキャデラックの流れは、電動化の現在にいたっては電動SUV「リリック」を生み出しました。単にラグジュアリーなだけでなく、真の技術で勝負する姿は、まさにキャデラックの原点。リリックは、じつに「それらしい」ニューモデルなのかもしれません。

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「アメリカのプロダクトにはジャンルを超えた共通の“匂い”がある」――松任谷

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「キャデラックならではの威風堂々な押し出しの強さもありつつ、イマっぽいソフィスティケートされた印象で、バランスがいい気がします。個人的には存在感ある21インチのイカついタイヤが好み」(Ms.P)

Ms.Precious さすがに松任谷さん、運転お上手ですね。

松任谷 いやいや、そうでもないんですよ。視野が狭くなっていて、真横にクルマがいてびっくり、なんてことしょっちゅうあります。

Ms.Precious あ、それは私もあります。でも最近のクルマはサイドミラーの中のランプが点灯して教えてくれますよね。

松任谷 そうですね。でも焦っている時はそれさえ気付かなかったりして……。

Ms.Precious あら、そんなことってあるんですか?

松任谷 やっぱり運転には適性というものがあって、正直言うと、僕は運転に向いた性格ではないと思っているんですよ。

Ms.Precious 他には何かありますか?

松任谷 言っちゃいましょうか?

Ms.Precious 聞きたいです。

松任谷 感情的になる。

Ms.Precious 意外!

松任谷 方向音痴。

Ms.Precious それはナビがあるでしょ?

松任谷 そういうものが信じられない。

Ms.Precious じゃあどうするんですか?

松任谷 事前に調べてシミュレーションしますね。ここは右折レーンがあるんだろうか、なんてね。

Ms.Precious 大変じゃないですか。

松任谷 だから基本、知っている道しか走らないんです。

Ms.Precious えっ、それではアメリカでは生活していけませんよ。

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「じつは私も目的地に行くまでの経路を予習して頭に入れてから出発する派。大画面だからApple CarPlayとAndroid Autoも使いやすいですね」(Ms.P)

松任谷 いやあ、昔L.A.で道に迷って怖かったことがあるんですよ。やばい、メキシコに来ちゃった、みたいな……。

Ms.Precious ああ、アメリカの地名というか道の名前ってメキシコの名前が多いですものね。

松任谷 そう、ようやく道を聞いたら、なんと毎年宿泊しているホテルはすぐそばだった、なんてね。

Ms.Precious それは大変ですね。確かに運転しない方がいいかもしれませんね。

松任谷 そうおっしゃっていただいたので、ここら辺で運転代わりましょう。

Ms.Precious あら……。

松任谷 ドアハンドルは電動で出てくるけど、結構出っ張ってるから服を引っ掛けないように気を付けてくださいね。

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「SUVだけど、いわゆる箱型のスタイルを強調しているわけではなく、流麗なルーフライン。フォーマルささえも感じされるエレガントなフォルムです」(Ms.P)

Ms.Precious 大丈夫です。あ、これ外には宇宙船みたいな音がしてるんですね。

松任谷 たぶん無音だと歩行者とかに対して危険だからじゃないですかね。

Ms.Precious なるほど。確かにこれならそっと気付くことが出来るかも。

松任谷 どうですか? 印象は。

Ms.Precious まず、匂いが懐かしいです。

松任谷 ほう。

Ms.Precious 私が幼い頃は住まいがアメリカだったせいもあって、子供の頃からずっとアメリカ車で、私が高校の頃かな、我が家のクルマはドイツ車になっちゃって……。

松任谷 その頃は日本ですか?

Ms.Precious いえ、帰ってきたのは大学からですね。

松任谷 でも匂いの記憶はある……と。

Ms.Precious はい、この独特の匂い。アメリカですよね。

松任谷 でも実を言うと僕も分かります。匂いフェチなもので。これって、子供の頃、買ってもらったアメリカ製のプラモデルや本の匂いに似てますよね。

Ms.Precious そうなの! なんか雑貨屋でもこういう匂いがしていたの。

松任谷 不思議ですよね。クルマに使っているものとは素材が違っても同じ匂いがするなんて。

Ms.Precious 正確には匂いは違うと思うんですよ。でも方向性が似ているんだと思う。

松任谷 匂いの奥にどこか甘さがあるような。

Ms.Precious そう、それ!

「子供の頃に憧れていた富の象徴アメリカ。それはイコールキャデラックでもあったな」――松任谷

松任谷 アメリカで使われていたアメリカ車の中にキャデラックはあったんですか?

Ms.Precious なかったと思います。少なくとも私が生まれてからは。

松任谷 今回、なぜキャデラックを指定されたんですか?

Ms.Precious 何かで読んだんだと思います。松任谷さんが憧れていた、というような記事を。

松任谷 そうですか。まあ戦後すぐ生まれの世代はアメリカの占領政策ですっかり洗脳されてましたからねえ。貧乏な日本に対してリッチなアメリカ。当然、子供はリッチなものに憧れる訳で、その代表格がキャデラックでしたねえ。

Ms.Precious 父は当時アメリカに住んでいましたけど、日本人だから結構苦労したみたいです。

松任谷 確かに、きっと大変だったでしょうね。

Ms.Precious まあでも時代はあっという間に変わっちゃうから。

松任谷 そうですよね。怖い街があっという間に平和な街になったり、その反対になったり、いろいろありますよね。

「車両感覚をつかみやすくて大きさを感じさせない快適なドライブができそう」――Ms. Precious

Ms.Precious これ、パワーはオンになっているのかしら。

松任谷 はい。そのまま走れます。

Ms.Precious では行きますね。見晴しが良くていいですね。運転しやすそう。

松任谷 そうですね。幅が2メートル近いなんて思えませんよね。

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「ハンドルから手を放さずに右手でシフトチェンジできるのはやっぱりラクね。目の前に広がる33インチのカーブドディスプレイは、やっぱり大きい。今風に言えばこれがイマーシヴな体験ってことなのかしら」(Ms.P)

Ms.Precious あ、このウィンカーのタッチ。

松任谷 やはり気づかれましたか。

Ms.Precious ウィンカーレバーのタッチってそのクルマをよく表していると思うんですよね。

松任谷 これ、独特ですよね。じわっと柔らかくて、ちょっと重量感があって。でもそういうところに気付かれる女性は初めてです。

Ms.Precious こういうところって女性は大事だと思うんです。

松任谷 ウィンカーの音とか?

Ms.Precious 音は普通ですね。

松任谷 確かに……。シートはどうですか?

Ms.Precious そうですね。重量感があってソファのような感じもしますね。

松任谷 一時、キャデラックはごく普通のシートになっちゃったんですけど、また独特の感じが出てきたのかもしれませんね。

Ms.Precious いい感じです。これって電気自動車でしょ? 実は私、電気自動車初めてなんですけど、言われないと気付かないかもしれない。

松任谷 そうですね。そうかも、です。でも静かでしょ?

Ms.Precious そう言われればそうなんですけど、さっき暫く隣に乗っていて慣れちゃったのかもしれません。人って何でもすぐに慣れちゃいますよね。

松任谷 オーディオかけてみましょうか。これはAKGとあるけど、録音なんかによく使うAKG製品と同じなのかなあ。

Ms.Precious あら、いい音。アメリカですね。

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「電動シートのアジャストがドアにあってすぐに調整できるのは地味にうれしいかも。スピーカーはオーストリアのAKG。スタジオやレコーディングのマイクなんかはこのブランドらしい(松任谷さんの受け売りです)」(Ms.P)

松任谷 このブンブン言う低音が確かにそう感じさせますね。よくL.A.では窓開けてヒップホップをブンブン言わせている人たちを見ました。だけどこのイコライザー、その割には低音、中音、高音、の3つしかコントロール出来ないんですね。

Ms.Precious でも音がいいから、そんなもの必要ないって考えているんじゃないでしょうか。

松任谷 ああ、そういう考え方もありますよね。それより、実は気になっていたことがあるんです。

Ms.Precious なに?

松任谷 このクルマ、最近のクルマらしく車内のアンビエントライトがコントロール出来るようになっているんですけど、ちょっと見てください。これ、モード切り替えなんですけど、静穏、安堵、幽玄、放射発光、白輝光とか、これ、日本語だと思います?

Ms.Precious 確かにピンと来ませんね。チャイナテイストな感じも。

松任谷 そこなんですよ。これ、中国をターゲットにしているのか、それとも日本人と中国人をごっちゃに考えているのか。

Ms.Precious 面白いところに気付かれましたね。中国の電気自動車って、今すごいんでしょ?

松任谷 すごいですね。だいいち安いですからね。安くて、でもクオリティは高い。いいエンジニアがいっぱい行っているみたいだから。

「大型電気自動車独特の乗り心地の良さがありますね」――Ms. Precious

Ms.Precious テスラはどうなんですか?

松任谷 テスラも中国工場がありますから、一概にアメリカ車とは言えないですね。まあ、もちろん独自の哲学でクルマを作っていて、老舗のメーカーもそれに習え、みたいなところもありますよね。つまり自動車業界に大いに影響を与えているって事ですよね。

Ms.Precious 私は早くに日本に戻って来ちゃったからテスラ体験がないんです。今はテスラじゃないけど自動運転のタクシーが走り回っているらしいです。

松任谷 ちょっと乗るの怖いですよね。ギャングがプログラミングしていて、変なところに連れて行かれて、金を出せ、なんて言われたりして。

Ms.Precious えっ? そこですか?

松任谷 誇大妄想気味なところもあって……。

Ms.Precious だんだん松任谷さんのことが分かってきました。

松任谷 いや、これはそういう企画じゃなくて、クルマのことが分かってほしいんですけどね。

Ms.Precious もちろん、分かってます。私、このクルマ、とても好きです。男性の大きな手に包まれているような安堵感があり、動きがゆったりしていて、でも実は、いざとなるとものすごく運動神経も良さそう。第一、運転していると楽しいです。ストレスがないというか。

松任谷 後ろの席もそこそこ広いですしね。メルセデスのSクラスのショートくらいの広さはありそうです。

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「アニマルフリーのサスティナブル素材・Inteluxe(インタラックス)のシート。人工皮革とは思えないほど手触りや質感が素敵で、リアルレザーだと思ってしまいました。スカイクールグレイというカラーですが、限りなく白に近いグレーで、これがまたおしゃれです。後席は広くて快適。ショーファーカーにもよさそう!」(Ms.P)

Ms.Precious 昔のキャデラックの面影はありますか?

松任谷 昔と言ってもいろいろありますが、僕が憧れた60年代のキャデラックは女性形だったと思います。これは完全に男性形ですね。

Ms.Precious というと。

松任谷 当時のキャデラックのエンブレムを見れば分かるんだけど、全てが繊細で華奢で、線が細くて……。これを言うと問題にされるかもしれないけど、扱いが難しい。

Ms.Precious なるほど、それが女性的と? 確かにその表現は今は微妙かも、ですね。

松任谷 そういう意味でも時代を象徴しているのかも、なんて思いますね。

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今月のクルマ
【CADILLAC LYRIQ SPORT】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,995×1,985×1,640mm
車両本体価格:¥11,000,000(ベース価格)~

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

キャデラック

TEL: 0120-711-276

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子