高畑充希さん、中島健人さん、キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼインさん、プロデューサー・福間美由紀さんが登壇「第38回東京国際映画祭」公式プログラム、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トーク開催
今年も大好評のうちに幕を閉じたアジア最大級の映画祭「第38回東京国際映画祭」の公式プログラムとして、文化・芸術の世界で活躍する女性に光を当てるトークセッション、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークが開催され、俳優の高畑充希さん、俳優でアーティストの中島健人さん、国内外で映画やドラマの企画・製作・海外展開を手がけるプロデューサーの福間美由紀さんが登壇されました。
さらに、米アカデミー賞に来年から新たに『キャスティング賞』が創設されることから、ハリウッドのCSA(キャスティング協会)に所属するキャスティング・ディレクターのデブラ・ゼインさんがスペシャルゲストとして初来日し、キャスティングの重要性に焦点を当てたトークセッションが繰り広げられました。
「グッチ」や「サンローラン」などを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループ「ケリング」がオフィシャルパートナーを務める「カンヌ国際映画祭」で2015年より創設された「ウーマン・イン・モーション」プログラムは今年、記念すべき10周年を迎えました。東京国際映画祭とは2019年より提携がスタートし、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークは今年で5回目の開催となります。
トークに先立ち、今年5月のカンヌ映画祭での「ウーマン・イン・モーション」トークにて、日本人で初めてスピーチされた映画監督の是枝裕和さんが登壇され、
「映画監督という仕事はどうしても外の世界に触れる機会が少なく、世界が狭まっていく危機感を感じます。こういう形で外の世界と連携しながら、何が課題なのか、何が欠けているのかを見つめていく機会がとても重要だと気づき、まずは自分の現場から変えていこうとしています」と話されました。
また現在、最新作を撮影中の是枝監督は、「土日の撮影で、保育園が休みで子どもの預け先がないスタッフやキャストが撮影所に連れてきて、保育の仕組みをちゃんと作ったうえで、お昼ごはんをみんなでワイワイ食べていると、現場がすごく和むんです。そういうひとつの変化が撮影の質をも変えていくということを目の当たりにしています。イベントはまだ始まったばかりですが、自分自身の意識改革にもつなげていきたいし、さらに皆さんにも、いま映画業界でいろいろな変化が起きているんだぞということを受け取って帰ってもらえればと思います」と、イベントの開幕を宣言しました。
高畑充希さん、中島健人さんが考える「映像業界における女性を取り巻く環境や問題」について
今回のケリング「ウーマン・イン・モーション」トークでは、来年3月に授賞式が行われる第98回アカデミー賞(米)で新たに「キャスティング賞」が創設されることを受け、キャスティングの重要性と、映画やドラマで描かれる女性像の変化、さらに女性たちの活躍をテーマに、それぞれの視点、立場から熱い議論が交わされました。
まずはじめに、大ヒットを記録中の映画『国宝』にもご出演の俳優の高畑充希さんが、「ウーマン・イン・モーション」が掲げる、映画界における女性を取り巻く環境について意見を求められ、
「私自身、これまで女性だから働きづらいと現場で感じたことはなかった」としながらも、「今は妊婦状態で登壇していますが(現在、夫の俳優・岡田将生さんとの間に第一子を妊娠中)、これから子育てをしていくなかでいろんな課題が立ちはだかったり、試行錯誤したりぶち当たっていかなければいけない問題が出てくるかもしれない。なので自分にとっていいタイミングで(イベントに)呼んでいただけてうれしく思います」とトークセッションへの意気込みを語りました。
今回のテーマとなる【キャスティングの重要性】について、トークセッションに先立ち、ハリウッドを代表するキャスティング・ディレクターの先駆者、マリオン・ドハティ氏の功績を称えたドキュメンタリー映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』(12)が特別上映され、“キャスティング・ディレクター” という職業を確立したといっても過言ではないドハティ氏のこれまでの歩みと、米アカデミー賞に『キャスティング賞』が新設されるまでの長きに渡った道のりが紹介されました。
今回、スペシャルゲストとして招かれたゼインさんは、ハリウッドで30年にわたりキャスティング・ディレクターを務め、映画『アメリカン・ビューティ』や『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、『ドリームガールズ』、『オーシャンズ』シリーズ、『猿の惑星』シリーズなど、多くのヒット作に携わってきたキャリアを誇ります。
自身と同じキャスティング・ディレクターの歴史的背景を描いたドキュメンタリー映画を観て、ゼインさんは「(マリオン・ドハティ氏は)キャスティングという仕事を作り上げた人です。伝説的な彼女の存在は非常に大きいです。これまでキャスティング・ディレクターは、女性の(秘書的な)仕事だと思われてきた部分もあると思います。ようやくその価値が理解されました。記念すべき年になると思いますし、(来年のアカデミー賞で)どんな結果になるのかとワクワクしています」」と偉人の功績に敬意を表しました。
さらに、自身が担う職について聞かれ、
「この仕事は世界中の俳優の知識が必要です。(キャスティングの)最終決定は監督が行いますが、キャスティング・ディレクターの意見が作品にかなり大きな影響を及ぼすこともあるんですよ。(誰をキャスティングするか)意見が食い違った時は、監督と喧嘩することもあります(笑)」と、これまでのエピソードを明かしました。
海外作品に意欲的に取り組み、Huluオリジナルドラマ『コンコルディア』では全編英語でのセリフにも挑戦された、俳優でアーティストの中島健人さんもこの映画を鑑賞し、
「これまでフォーカスされてこなかったキャスティング・ディレクターの重要性はすごく高いなと感じています。僕自身も数年前にロスで(キャスティング・ディレクターと)お話しさせていただいて、その時、キャスティングで一番大事なことは『50%は演技力で、残りの50%は現場にいて楽しいか、(役に対して)ありとあらゆる準備をしてきたかどうかだ』と教わりました。キャスティングは、その映画の物語と感情をしっかり形作る芸術のひとつであって、それがあってこそひとつの作品が完成するんだと感じました」と、キャスティング・ディレクターにスポットライトが当たったことへの賞賛のコメントを述べられました。
是枝監督率いる「分福」にて、映画『ベイビー・ブローカー』『真実』『阿修羅のごとく』など、多くの作品の企画・プロデュースを手がける福間美由紀さんは、米アカデミー賞に新設される『キャスティング賞』について
「今、このタイミングでアカデミー賞の一部門として認められたのは非常に大きいと思います。ここ数年、特に2020年以降の#MeTooムーブメントとも並行して、社会全体がより多様性、ジェンダーへの意識が強まってきました。(映画を)作る側も観る側も、評価する側も、明らかに女性の仕事に対する視点や、キャスティング・ディレクターという仕事に対する見方が変わってきたということかと。とても喜ばしいことだと思います」とコメントされました。
また、現在公開中の映画『遠い山なみの光』でもプロデューサーを務められた福間さん。時代の価値観を反映し、アートフォームとして社会を牽引する映画やドラマを制作する立場として、近年、作品のなかで描かれる女性像がどのように変わってきているかを尋ねられると、制作時のエピソードを交えて、次のように率直な意見を述べられました。
「もちろん、時代の移り変わりと共に女性の描き方は変わってきてはいますが、昔の成瀬巳喜男監督も、川島雄三監督にしても、魅力的なヒロインや素晴らしい女性を繊細に描いた作品はたくさんありました。ただここ数年、より意思をもって自分から主体的に行動していく女性像が描かれるようになってきているとは思います。私自身も制作のプロセスのなかで、とても意識している部分ではあります。
「映画『遠い山なみの光』は複数の女性が描かれているんですけれども、当初、監督も原作者も企画、プロデューサーも私以外全員、男性だったんです。物語を描いていく時に、女性がクリエイティブの中枢に早い段階から入って、リアリティというもの、女性の視点を物語やキャラクターの造形にちゃんと反映させていくということは、きっとポジティブに作用するだろうという思いがありました。結果的にプロデューサーが6人になり、男女3人ずつバランスよくストーリーを作っていけたと感じています」
最後に「今後、さらに女性が映画業界で活躍するためには、どんなことが必要か?」という問いに、これから出産というライフイベントを迎える高畑さんは、
「当事者としても、転換期を迎えていると感じています。子どもができて子育てをしていく中で『もっとこうだったらいいのに』と思うことが増えていくかもしれません。そうなったら、我慢せずに声に出していくことで、働きやすい環境作りに貢献できたらうれしいです」と話し、同じく俳優として制作現場の最前線に立つ中島さんは、
「まずは食事の時間をしっかり作るとか、ファミリーデーを設けてみるとか、少しの変化が現場を充実させていくきっかけになると思います。みんながそれに気づき始めているので、時代の真ん中にいる一人の映画人として、推奨していけたら良いなと思います」と、よりよい未来への提言を示しました。
トークセッションを締めるにあたり、ゼインさんは「期待以上に多くのことを学べたイベントでした。皆さんにとっても、たくさんの発見があったらうれしいです」と参加への感謝を述べ、続いて福間さんが
「自分とは違う国や立場から見ると、ひとつの映画制作でも全然違う風景が広がっているんだなと、とても新鮮で、刺激的な学びが多かったです。本当に映画を愛し、支えているどんな人も、自分の言葉で、自分の声で、こうして話していっていいんだと思える機会になってくれたら、うれしく思います」とイベントを締めくくりました。まさしくこの言葉の通り、一人ひとりの言葉がより働きやすい映像業界の未来へとつながっていくと信じたい、有意義なトークセッションとなりました。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 松野実江子(Precious.jp)

















