ハイエンドなアイウェア(眼鏡)に使われる金属素材として、思い浮かぶものはなんだろうか。近年その軽さや強さで話題に上るのはチタンだ。また高級アイウェアとして、ゴールド、金張りや金素材のフレームの人気も根強い。ではリングなどのアクセサリーではポピュラーなシルバーはどうかというと、いまひとつアイウェアとの関連で語られることが少ない。銀素材のしっかりとした質感から、アイウェアにするにはちょっと重いのではないか、素人目にはそんな風にも感じられる。
ありそうでなかった銀製のアイウェアを実現
「GL153」
「GL152」
「確かにシルバーはチタンよりは重量がありますが、ゴールドと比べると30%程度軽い素材です。18金のフレームはこのフレームよりずっと重たいですよ」
このように語るのは、今回スターリングシルバー(シルバー925、純銀)を使った自身のアイウェア・ブランド「GERNOT LINDNER」をスタートしたゲルノット・リンドナー氏。「このフレーム」とはもちろん自身が生み出したアイウェアのことである。
リンドナー氏は、1990年にドイツのアイウェア・ブランド「ルノア(Lunor)」を設立した人物として、アイウェアの世界ではよく知られた存在。スティーブ・ジョブスも顧客のひとりだったというルノアは、アンティーク・アイウェアのコレクターでもあるリンドナー氏が、クラシックなスタイルやディテールを現代のライフスタイルにも違和感なく馴染むようモディファイしたアイウェア・ブランドとして人気を博した。昨今の「ネオ・クラシック」なアイウェアの潮流を先駆けたブランドのひとつとも言えるだろう。2005年以降ルノアはウルリッヒ・フックス(Ulrich Fux)とその息子ミカエル・フックス(Michael Fux)が経営を引き継ぎ、2010年を過ぎた頃からルノアのデザインから身を引きはじめていたリンドナー氏だったが、実はこのシルバーという素材に特化したアイウェアづくりに活動をシフトしていたのだった。
ブランド創業者ゲルノット・リンドナー氏
「以前から銀素材には魅力を感じていて、アイウェアに使ってみたいと思っていました。その一方で素材特性ゆえの難しさもよくわかっていたので、いつ、どのように本格的に取り組むかなかなか踏ん切りがつかなかったのです」とリンドナー氏。本来柔らかな金属であるシルバーは、他の金属素材よりも剛性やバネ性のコントロールが難しく、部位によってそれらの特性が求められるアイウェアには不向きとされてきた。リンドナー氏は技術者のヘルムート・ミッテルバウワー氏とともに2年の歳月をかけて、各パーツをつくる金型の種類を多くしたり、プレス加工の荷重を吟味するなどのさまざまな技術開発を経て、純銀のアイウェアを実現させた。
リムレスモデル「GL403D 」
素材の特性上細くすることには限度があるというが、十分に繊細なシルエットを実現したフレームと、銀素材特有の色味や光沢は、軽快感があり、爽やかなエレガンスを生み出している。スターリングシルバーは、劣化が少なく金属アレルギーも起きづらいが、さらに表面をコーティングすることで、より幅広い使用や経年による変化に対応している。
優れたデザインとそれを実現する高い技術、さらに貴金属のラグジュアリー性が組み合わされた、クラシックながらもまったく新しいアイウェア。眼鏡をよく知る人こそ驚き惹かれる逸品に違いない。
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- TEXT :
- 菅原幸裕 編集者