「ブルー」特有の好感度が“理想の政治家”のイメージを後押し
「ブルー」と「パール」、そして「サクセス」のゴールデントライアングル。
高市早苗氏が、同党結党以来初の女性総裁、かつ憲政史上で初の比較第1党の女性党首として、第29代自由民主党総裁に決定したとき、頭に浮かんできたのがこの3つのキーワードであった。
にこやかに微笑みながら、ロイヤルブルーのスーツにパールのネックレス、イヤリングで装った高市首相が、四方にいる議員たちに深々と頭を下げる姿を見ながら、「この光景は、以前にも見たことがあるような…」と過去のいくつかの光景が交錯し頭をよぎった。
著名な女性政治家がよく着用するスタイリングのイメージに、ピッタリと重なるのだ。順当に考えれば、高市首相が尊敬する英国の故マーガレット・サッチャー元首相が愛用していた保守党のシンボルカラーである「ブルー」のジャケットにパールネックレスをお手本にしたのかもしれない。
だが、サッチャー元首相だけではなく、ほかの先人たちにも例がある。アメリカ民主党が、初の女性大統領候補としてヒラリー・クリントンを正式指名したとき、ヒラリーが「ガラスの天井を突き破る」と騒がれ、マスコミにオバマ大統領と抱き合う写真が大きく取り上げられたときに着ていたのも、深く鮮やかなコバルトブルーのスーツ。金髪にブルーがよく映えて見事な見映えであった。その後、大統領選のキャンペーン中にも好んでブルーで装っていた。ブルーはアメリカ民主党の公式イメージカラーでもある。
また最近では、カマラ・ハリス元アメリカ副大統領も、大統領候補に指名されたときにネイビーブルーのスーツを着ていたことが記憶に新しい。
なぜ、重要な決断のときに、ブルーを着るのだろう。どうして政党や国連をはじめとした国際機関がシンボルカラーとして起用するのだろうか? そこには単なる好みや偶然ではなく、明快な理由がある。ブルーで装うのは、色彩心理やイメージ戦略の面から見ても、とても意味深い選択なのだ。
強いリーダーシップを発揮しようとするとき、必要とされるのは信頼感、安定感、冷静さだ。ブルーが象徴するのは知性や格調、誠実さ。まさに政治家にとって理想的なメッセージを問わず語りに伝えるカラーなのである。特に好んで着られるロイヤルブルーは、ぱっと見は華やかだが、存在感があり、強い意志を感じさせる。
しかし、気になるのは、ここまでブルーが愛され、選ばれる理由。どうしてなのかを知っておきたいところだ。
ブルーは、いつの時代も、どの国でも評価が高い色である。遡れば、作家メーテルリンクの『青い鳥』は幸せの象徴、「ブルーヘブン」には天国の意味もある。「ブルーリボン賞」という最高賞もある。「ブルーブラッド」は名門の血筋を表す。「青春」に結びつく若さの象徴でもある。
もちろん「ブルース」や「ブルーデイ」など、英語ではマイナスイメージの側面もあるが、見方を変えれば、それだけ多面的に、細やかに人間の感情と結びつき、情緒を呼び起こす、極めて親しみやすい色といえよう。
ファッション的に見ると、ヒラリー・クリントンやマーガレット・サッチャーが好んだ鮮やかなブルーは原色に近いコバルトブルーであるが、同じような原色であってもオレンジやイエローのもつ俗っぽさは感じられない。つまり、プラスイメージが圧倒的に強い「好感度」の高いカラーなのである。
“たおやかな堅実さ”をアピールする「パール」のジュエリー
そして、パール。清楚で、気品があり、優美だ。保守的な側面はあるものの、まったく攻撃性がない。宝石だが、無難であるがゆえに、誰からも嫌われず、ブランドや値段を詮索されることはない。よき伝統を継承するイメージは、外見や持ち物で批判されがちな女性政治家にとって、「女性性」を絶妙なバランス感で訴える最適なアクセサリーではないだろうか。
そのうえパールには物語がつきものだ。高市首相のパールは母親の形見、カマラ・ハリスは、大学生当時に黒人系女子学生のための社交クラブ「AKA(アルファ・カッパ・アルファ)」のメンバーだったことの証し、マーガレット・サッチャーは夫デニスからの贈り物である。
女性政治家の「三種の神器」と言っていいファッションのうち、「ブルー」と「パール」のふたつは共通している。あとひとつはそれぞれの個性に合わせてのものだ。ヒラリーやカマラはパンツスーツやスニーカーとアメリカらしく、逆にサッチャーは政務で炭鉱に入ったときのただ一度しかパンツは履かず、すべてスカートとパンプスで通した。
さて今のところ高市首相は、米海軍横須賀基地で原子力空母にトランプ大統領と共に滞在したときは状況を考慮したパンツスーツだったが、基本はスカート。そしてペンダントも含めてパールのバリエーションを愛用中だ。
キャリア女性も参考にすべき、イメージ戦略の必要性
就任して10日間で、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会談、米国のトランプ大統領来日、その後APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議へ出席という凄まじい外交日程を軽やかにこなし、場面に応じた絶妙なコミュニケーション力を発揮し、初対面の相手を笑顔にしてしまう。
山積みの問題をかつてないほどの早さで対応してゆくスピード感は国民の共感を呼び、さらにSNSを通じてあっという間に拡散されるという、新政権発足時によくある「ハネムーン効果」だけではなく、熱狂的な幅広い年齢層のファンも生まれて「サナ活」なども騒がれている。
再び世界に目を向ければ、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、ピンクや赤のジャケットやミントグリーンの揺れるスカートなど、自由にフェミニンな着こなしを楽しんでいるが、首相の宣誓式ではミッドナイトブルーのワントーンコーディネートに、長いドロップ型のイヤリングをしていた。
女性宰相が出てくると、すぐ「ファッションパトロール(ファッションチェック)」が出てくるから、政策に注目してほしいと、あえていつも同じイメージのノーカラージャケットなどを着ていたドイツのアンゲラ・メルケル元首相も同様だ。メディア露出やホワイトハウスでの会談をはじめ各国要人との会議の席ではセルリアンブルーなど、ブルーのジャケットを多用していた。
こうやって見ると、やはり「ブルー」は普遍的でありつつも、人の心をつかみ、敬意をもたれる「サクセスのユニフォーム」になりやすいカラーであるのは間違いない。
高市首相は、総裁選をはじめ、過去の例を見ても、メディア出演や公式イベントなど、節目の際にはブルーで身を包んでいた。一貫性がありながら、意図的にブルーのもつパワーを駆使しているようにも感じられるのだが。
偶然にも、2026年春夏のコレクションでは「ユニフォーム」が多く提案されている。ミウッチャ・プラダは、「情報過多の時代ゆえ、動きが取りづらい。ユニフォームは着ているだけで、どこで何をしているかがわかるシンプルなアイデンティティの表現」と語っていた。
言い得て妙。まさに高市首相の着こなしは、まずグローバルスタンダードなアイデンティティの表明からスタートしている。
一見当たり障りのないように見えるブルーとパールの組み合わせ。実は、そこに秘められた戦略性は、働く女性にとっても、イメージメイキングの大きな参考になりそうだ。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images

















