広報のプロをも驚かせた、みんなが知りたいキャサリン妃のファッション
「キャサリン効果」という言葉が、決して大げさな宣伝的キャッチでないことを実感させたのが、今年頭に出されたケンジントンパレスの広報からのメッセージに対する反響であった。

「キャサリン妃の服装及び、王室関係者が公式行事で着用する服装について、今後は詳細を発表することはない」と広報の基本方針を発表した直後から、反発にも近い、大きな反響を呼んだのだ。
この方針に対してマスコミを中心に多くの質問が寄せられ、発表から1か月も経たない2月1日付けのサンデータイムズ紙に「服装ではなく、妃の活動やプロジェクト、目を向けた人々に注目してほしい」という異例のコメントが改めて掲載され、「この方針に変わりはない」とも書き添えてあった。
そう、そこまでケンジントンの広報を慌てさせるキャサリン妃の魅力と国民へのアピール力。国民の高い評価はわかってはいたものの、キャサリン妃のファッションの影響力は、広報のプロの予測を遥かに超えていた。

あんなにスタイリッシュなのに派手な印象にならず、しかもさりげない。何をどう着こなすと、同じように素敵になれるのか、知りたくなるのは当たり前ではないだろうか。むしろ、王室がそれに気が付かなかったことのほうが不思議なくらいだ。。
気丈な姿に世界中が心を打たれ、快復のニュースに安堵したがんとの闘い
キャサリン妃にとって2024年は辛い年であった。そして英国王室の、チャールズ国王、キャサリン妃の相次ぐがん罹患の知らせは、その年の最も心が痛むニュースの一つでもあった。
そのうえ、キャサリン妃は、急な公務欠席など、理由が明かされないまま姿を見せなくなったため死亡説やウィリアム王子の不倫説など心無い憶測が飛び交い、事態を収集するために、自らが、ケンジントンパレスの公式動画でがんを告白するという事態になってしまった。

幼い三児の母親であり、42歳という若さで罹患し、どれほど不安であっただろう。動画では夫ウイリアム皇太子への感謝と、治療を終えるまでの間、家族の時間、空間、プライバシーが必要であることに理解を求め、同じ病に苦しむ人々に「どうか希望や信念を失わないでください。あなたは一人ではありません」と締めくくった。
率直に事実を語り、家族や他者への思いやりに満ちたメッセージからは、心の強さや賢明さが伝わってきた。動画の効果は絶大で、マスコミやSNSの対応は手のひらを返すように、賛辞と激励で溢れかえった。ボーダーニットとデニムパンツという普段着の、化粧気のない姿で語りかける率直な態度は、見る人の心を静かな感動に誘った。
その後、9か月にわたる化学療法による予防的な治療ののち、今年頭に「寛解」の状態になっていることが明らかにされ、世界中のキャサリン妃ファンは胸を撫で下ろしたことだろう。

フォーマルドレスだってリユース!着回し力の高さも愛される理由に
復帰に向かって活動を始めた妃の最初の王室の公式行事のひとつは、夫のウィリアム王子と共に訪れた、治療を受けていたロンドンのロイヤル・マーズデン病院の医療スタッフと患者へのお見舞いであった。
「寛解」後の初公務とあって注目が集まるのは当然だが、その写真が掲載されると同時に、ハイヒールまでボルドーカラーで統一されたシックでトレンド感溢れるスタイルはあっという間にブロガーたちによってブランドが特定された。

タートルセーターは「ガブリエラ ハースト」、スカートは「エデリン・リー」、コートは「ブレーズミラノ」製。ダブルウインドペンのチェックコートは2021年のクリスマスミサのときにも着用したキャサリン妃愛用のコートであった。
着回しはキャサリン妃の着こなしの特徴で、愛されポイントの一つでもある。フォーマルで高価なドレスは、肩や袖を仕立て直してワンショルダーなどに変化させ、華やかな行事に再登場。かと思えば、映画のプレミアでは、目を奪うようなゴージャスなゴールドのドレスで映画スターも顔負けのロイヤルならではの圧倒的なオーラを放つ。


リサイクル、リユースからビスポークまでと、振り幅が広く、親近感から憧れまでかき立てられてしまう、現代らしいプリンセスなのである。
一方、プライベートな家族写真では、ペザント風のドレスのようにリラックスしたガーリーなドレスやデニムパンツなど、カジュアルで清潔感のある服でくつろいでいるのも、自然体で好感度が高い。


ファストファッションでさえエレガントに着こなす姿が好感度を牽引
基本はドレスが大好き。公務でもプライベートでも、ドレスの着用が目立つ。花柄や水玉、チェックなど、英国風のアイコニックな伝統柄がお気に入りだ。白衿使いやリボン、ボウ、フィット&フレアなど、フェミニンさが過剰ではなく、程よくブレンドされたデザインが、安心感や優しさをまとって上品さが際立つ。
誰からも好意をもたれる服だが、といって無難や退屈ではなく、長身の妃が着ると、すっきりとしたエレガンスが漂う。

英国のデザイナーたちを愛用していることでも知られる。ウエディングドレスを製作した「アレキサンダー・マックイーン」のサラ・バートンをはじめ、イブニングドレスのジェニー・パッカム、エミリア・ウィックステッド、キャサリン・ウォーカーなどが知られているが、あっという間に売り切れになることが多いので、デザイナー達にとっても、ありあまるほど広告等的な存在である。

同世代が愛用する「ZARA」などのファストファッションも妃のクローゼットの定番で、これらのドレスやブレザーなどを着て、外交や公務の場に出ることも度々ある。こちらも問い合わせ続出で完売が続く。うれしい悲鳴だ。

思い返せば、婚約発表のときからすでに「キャサリン効果」の兆候は現れていた。
2010年の婚約発表のときに着たロイヤルブルーの「イッサ ロンドン」のラップドレスは即完売し、その後2013年に「イッサ ロンドン」と「バナナ・リパブリック」の提携でレプリカが販売され、買いやすい価格もあって、こちらも即完売。2015年には、英国の高級百貨店「ハーヴェイ・ニコルズ」がシルクに素材を変えて再販。高価格であったにも関わらず、世界中のファンがネット販売に殺到しあっという間に完売した。

ファッション好きだからこそ成し得る、果たすべき役割と個性の見事な両立
1982年に英国バークシャー州レディングで生まれたキャサリン妃は、ファッションブランドの「ジグソー」でアクセサリーのバイヤーを務めるほどファッション意識が高く、大学のファッションショーでモデルとして登場したとき、それを見たウィリアム王子が一目惚れしたというのは有名な話。
そして、「スローニー」と呼ばれる、英国独特の上流感覚のマナーがきちんと感じられる装いが学生時代からのキャサリン妃の基本だ。義母にあたる故ダイアナ元妃が1980年代に「スローンレンジャー」と呼ばれていたが、同じ系譜のお洒落である。
ちなみに語源は高級有名ブランドが軒を連ねるロンドンの「スローンストリートを闊歩する人」からきている。上流階級らしいファッションやライフスタイルという意味では、フランスのBCBG(ボンシック、ボンジャンル)と同じだ。
キャサリン妃の、愛らしくも気品のある美貌、民間からの輿入れ、大学の同級生同士の恋愛で結ばれたなど、好感度を高める要素もピカイチだけど、なんといっても、立場を心得ながら、自分の好みや個性を反映させ、結果的にはトレンド要素も入れ込んだファッションは、役割を担っている女性達には格好のロールモデルである。

華美ではなく、求められるマナーやルールを察知し、外交の場では、相手国の国旗の色を服に取り入れるなどさりげない心遣いも話題を呼ぶ。華やかでありながら、足が地についたその場に応じた装いは、人々を熱狂させ、愛されている。
そして、何よりの愛される秘密は、これまでロイヤルには見られなかった大きく口を開けて笑う、邪気のないとびきりの笑顔ではないだろうか。その笑顔がずっと輝き続けることを願ってやまない。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images
- EDIT :
- 谷 花生(Precious.jp)