心の清々しさを映し出すような「白」のコーディネート
最近、晴れやかで無垢な「白」のファッションがお気に入りなんだろうな、と思うほど公務で「白」の登場回数が急に増えたブリジット・マクロン大統領夫人。モロッコやノルウェーへの公式訪問では、白のケープドレスやレースのドレスなど「白」のもつ特別感や、シンプルで瀟洒な雰囲気がブリジットを若々しく清廉な印象に見せていた。

いろいろな厄介ごとが一段落ついて、ようやく爽やかでクリーンな白で装いたい気分になったのだろうか?

この1年ほど、ブリジットは心無い邪推に晒され続けていた。精神的にもさぞストレスが溜まっていたのに違いない。AIで合成した下品な画像を捏造され、ブリジットのジェンダーについて、これ見よがしにSNSで拡散し続けていた悪質なYouTuberが突き止められ、訴えて、昨年9月に勝訴したのだ。
ベトナム訪問時に降機直前のマクロン大統領の頬に手をおいたおふざけがカメラに映って、「夫婦不仲か!」とあらぬ噂が飛び交ったり、シャープなスタイルのよさが、「やはり男では」などと揶揄されたり、他にもいろいろと、よくもまあと呆れる話がSNSで飛び交っていた。
だが、裏を返せば、捏造でもしない限り欠点が見つからないというブリジットへの行きどころのない意地悪な気持ちが生み出したハラストメントだったのだ。パリ在住のジャーナリストが、ブリジットは、いつ、どの角度で写真を撮っても「変顔」が一枚もないと感嘆していたのを思い出した。どんなときも穏やかな笑顔を絶やさない品のいい落ち着きがそう見せるのだろう。

24歳の歳の差(ちなみに米国トランプ大統領夫妻も同じ歳の差)や、「あまりありふれていないカップル(夫のエマニュエル・マクロンが結婚式で述べた言葉)」であることは周知の事実だし、フランス人はそれについてとやかくいう国民性ではないだろう。
強い絆が二人を結びつけているかは、あらゆる場所での二人が自然に寄り添う姿を見れば、明らかだ。どれほど長く外の世界と二人きりで戦ってきたことか。さりげなく背中に手を添えたり、腕を差し出したりする仕草などお互いへの信頼感と愛情の深さが見てとれる、その仲睦まじさは、見ているだけでも心に灯がともる気がする。

自身の長所を生かした、マチュアなファッションスタイル
二人で共に登場するときの着こなしもバランスがいい。マクロン大統領は白いシャツに濃紺のスーツという王道の着こなしがよく似合い、この基本色からぶれることはほとんどない。強いリーダーシップを感じさせる装いだ。

白いシャツ姿で腕まくりしている執務姿の精悍さや、ワールドカップで勝利したときに、勢いよくデスクに飛び上り、勝利を叫んだ姿などは、歴代最年少の若さみなぎる大統領という印象を強く世界に焼き付けた。時を超える白シャツの魅力を見せているのも、さすがにフランス男だ。
対してブリジットは、直線を生かした、軽やかで、シンプルな服を好んでいる。ひらひらとしたフェミニンさよりかっちりボクシーなタイプが好みで、アクセントは大きめのボタンやジップだけというミニマルな機能美のあるデザインが多い。

時として表情の柔和さが、内に秘めた本来の強さを覆い隠すが、芯の強さをさりげなく引き出し、甘辛のベストなバランスに整えてくれる絶妙な補完要素のあるデザインを選んでいる。
また、自分に似合う、そして大統領夫人として好感度の高いカラーの選択眼も確かだ。
ブラキッシュなブルーを始め、落ち着いたボルドーなどのダークカラーや、キャメルのようなベーシックカラーが公務ではよく登場する。特にブルーはミッドナイトブルーから、ネイビー、アクアブルーまで幅広く着こなしており、お気に入りのカラーでもある。

ブリジットの、自然体で、知的なイメージとぴったりのこれらのカラーは、無地でのトータルカラー、同系色使いがスタイリングの基本になっている。つまり、過度に慎ましくはしないが、派手ではない、シックで上品な着こなしである。
たまに大胆なグラフィックなモチーフや、柔らかなプリントのドレスを着るようにもなったが、シャープでモダンな服のほうが、ブリジットらしさを、より引き出しているように思う。
なぜなら、ブリジットは、故カール・ラガーフェルドに「パリで一番の美脚の持ち主」と言わしめた、とびきりの美しい「脚」を持っているから、ミニマルな方がスタイルのよさが引き立つのだ。ミニ丈のドレスやスカートにハイヒールでにこやかに足を強調、何の違和感もないどころか、むしろ、潔いミニ丈がすっくと伸びやかな若々しさを演出している。

教師時代の“偶然”から生まれた「ルイ・ヴィトン」との縁
これらの公務で愛用される服のほとんどは、「ルイ・ヴィトン」ブランドだ。デザイナーのニコラ・ジェスキエールの服を着ると、「勇気が出るの」とあるインタビューで答えており「人前に出ると緊張する私にとってニコラの服は鎧のようなものよ」とも言っている。
ブリジットと「ルイ・ヴィトン」の関係の始まりは、LVMHグループ総帥のベルナール・アルノーの長女で、現在クリスチャン・ディオール・クチュールの会長でありCEOも務めるデルフィーヌ・アルノーとの出会いがきっかけであった。二人の会話のなかで、奇しくもデルフィーヌの弟二人を、ブリジットが教えていたことがわかったのだ。

故郷アミアンの高校から、パリへと移り、16区にある最も格式の高いカソリック系のリセの一つである「サン=ルイ・ド・ゴンザーグ」(王侯貴族からド・ゴール将軍、ノーベル文学賞のアナトール・フランスまで輩出した名門リセ。クリスチャン・ディオールもここの出身)で、教鞭を執っていた。そのときに、ベルナール・アルノーの三男フレデリックと四男で末っ子のジャンにフランス語を教えていたのである。
そのことから話が弾み、「LVMHグループの服をぜひ着てほしい」との要望から、ブリジットには「ルイ・ヴィトン」や「ディオール」の服が貸与されることになった。

ファーストレディとして、女性として、憧憬を集めるファッションアイコン
フランスではこのところ、前任者には華やかな大統領夫人(汚職で有罪になったサルコジ元大統領夫人のカーラ・ブルーニは除く)が不在だったこともあり、また公務に顔を出さない夫人であったり、出てもあまり映えなかったりと夫人が話題になりにくかったので、ブリジットのファッションは「最年少の大統領」という話題やラブストーリーもあり、久々にファッション界を活気づけ、人々の関心を惹いている。
最近は、黒、紺、白という三大フォーマル色(紺は黒白のフォーマルに続くセミフォーマルカラー)だけではなく、レッドやコバルトブルーなどカラフルなカラーも着こなし始めた。白も純白だけではなく、象牙色のような優しく、温かい色調へと広がっている。ベージュのドレーピーなドレスも、多分最近の傾向ではないか?


緊張や悩みごとから解放され、リラックスして、公務や立場を楽しめるようになってきた表れなのではないかと感じる。
最初は好奇の目で見られていた異色のカップルが、特にブリジットは、いまや「プロトコールにふさわしいエレガンス」(仏・芸能誌『クローザー』)と捉えられ、受け入れられ国民に愛されている。公務だけではなく、パリファッションウィーク等にも、顔を出すことが増えた。

今年3月のパリコレクションでは、偶然ブリジットに間近で遭遇する機会があった。アントワーヌ・アルノー氏(クリスチャン・ディオールCEO兼副社長、ベルナール・アルノー氏の長男)にエスコートされ、隣はアーティストのジェフ・クーンズという席だった。VIP中のVIP である。
その姿は、芸能セレブ席に見られがちな気取ったり、えらぶったりすることはなく、もちろんポーズを取ったり、立ち上がったりと自ら目立つような行動は一切なく、仲のよいアントワーヌとくつろいでいる様子が手に取るように伝わってきた。

ツンツンとアントワーヌの肩をつついて話し始めたり、頭をくっつけるように話しこんだり、自然体というより、アントワーヌもリラックスしていて、「いつものとおり!」という兄弟のような親密さが、見ていてとても心地よかった。
黒のチェスターコートに黒のボウブラウスという、目立たないが、いかにもブリジットらしい静かに周りに溶け込む上質な気品に金髪が美しく映えていた。やっぱり、醸し出されるこのエレガンスは本物だ!!
カップルとしても、ますます円熟味を増してきたブリジットとエマニュエル。かつて「それは、私だったから、それが彼だったから」とモンテーニュの有名な言葉を引用しながら、一つの魂を分け合って生まれた二人が出会ったという奇跡に近い宿命を語ったブリジットの、これからの心模様を映し出す装いは大いに気になるところ。
教養に溢れた二人が紡ぎ出す、これからの彼らの未来のストーリーを彩るファッションは、私たちに、見たこともない新しい可能性を指し示してくれるのではないだろうか。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images
- EDIT :
- 谷 花生(Precious.jp)