【目次】

【第7回のあらすじ】

桶狭間の戦いから5年後の永禄8(1565)年、織田信長(小栗旬さん)は犬山城を攻め落とし、ついに尾張統一を成し遂げました。藤吉郎(のちの豊臣秀吉/池松壮亮さん)も侍大将となり、織田家重臣のひとりとして「評定(ひょうじょう)」への参加を許されます。「評定」とは、皆で相談して決める、いわば会議のこと。

(C)NHK
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ドラマ冒頭、評定の場面では、トップである信長から見て最前列左に、家臣団ナンバー1の佐久間信盛(菅原大吉さん)、右にナンバー2の林秀貞(諏訪太朗さん)、2列目左にナンバー3の柴田勝家(山口馬木也さん)…そして末席とはいえ、7番目の家臣として、得意満面の藤吉郎が座っていましたね。驚くべき、超スピード出世です!

そして物語の主人公である小一郎(仲野太賀さん)も、信長から「木下小一郎長秀」の名を与えられています。「長秀」の「長」は信長の名から、「秀」は秀吉から、ひと文字ずつとったもの。彼はのちに「長秀」から「秀長」に改名しますが、それは本能寺の変で信長が死去したあとだといわれています。

さて、「評定」で取り上げられていた議題は、かの有名な「墨俣(すのまた)築城」でした。豊臣秀吉のサクセスストーリーを語るうえでは外せないエピソードとして知られ、時代劇ファンであれば、「さて“今回の大河では”どう描くのか」と着目する見せ場のひとつです。

当時、美濃攻略を掲げる信長にとって、木曽川沿いの要衝・墨俣への築城は悲願ともいうべきものでした。史実としても、信長は墨俣の築城を足掛かりに、美濃を支配下に置くことに成功したとされています。

しかし、墨俣の築城は鬼門として知られ、今回の大河ドラマでも、佐久間信盛に続き、柴田勝家も手痛い敗北を喫しています。激怒する信長を前に及び腰になる重臣たちを尻目に、「ここはチャンス!」とばかりに「墨俣築城」に名乗りを上げたのが、藤吉郎でした。小一郎は兄が取り付けた無謀な約束に驚きつつ、その実現のために知恵を絞ります。

(C)NHK
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墨俣築城を困難にしている理由は3つ。
・墨俣は平地のため、敵からはこちらの動きが丸見えであること
・敵は最初、ほとんど攻めてこないが、砦の完成間近になって、一気に攻め寄せてくること
・砦をつくりながら敵と戦うのは非常に難しいこと

この3点を解決するためのヒントを与えてくれたのは、母・なか(坂井真紀さん)でした。下ごしらえしてあれば、味噌汁をつくるのは簡単であるように、墨俣の上流で材木を切り出し、運べるギリギリの大きさまで組んだものを、水運を利用して筏(いかだ)で運び、一気に墨俣で組み立てる……味噌汁の下ごしらえならぬ「砦の下ごしらえ」作戦です!

しかし、これを実行するには、「川並衆(かわなみしゅう)」の力が不可欠。「川並衆」とは、平時は船頭や水運業を営み、戦が始まると武器を手に取り、形勢が有利なほうに味方をして戦場稼ぎをする、地侍の集まりです。

藤吉郎と小一郎は、かつて川並衆だった織田家家臣・前野長康(渋谷謙人さん)の仲介で、川並衆の棟梁・蜂須賀正勝(高橋努さん)のもとを訪ねます。ところが、「裏切り者!」「織田の犬!」と、正勝はいきなり長康に斬りかかってくるのでした。

…初っぱなから交渉は決裂…かに思われましたが、そこは空気を読むことにかけては天才的な嗅覚を発揮する藤吉郎。長康をライダーキックさながらに川に突き落とすと、自分たちは長康とは無関係だからと、砦構築の交渉を持ちかけます。

実は、正勝と長康は、共に木曽川筋を仕切る「川並衆」の盟友であり義兄弟の関係でした。ところが、負け戦が続き、長康はやむを得ず、正勝と袂を分かって織田の家臣に下っていたのです。疫病神扱いされた正勝は長康は無論、誰も信じることができなくなっていました。

しかし、藤吉郎は、長康が残していった屋敷が、空き家であるにもかかわらず、手入れが行き届いていることに気付きます。そう、正勝はその言葉とは裏腹に、長康の帰りを待っていたのです。この気付き、細やかな観察眼こそが、のちに天下人となる藤吉郎最大の武器だったに違いありません!

「説得の余地はある」と見た藤吉郎は、正勝の屋敷前で座り込みを始めます。そして藤吉郎の見込み通り、実は正勝は、藤吉郎からの申し出に、ひそかに心動かされていました。

おぬしは疫病神ではない。勝ちをもたらす軍神じゃ。共にこの世を見返してやろう」と、力強く説得を試みる藤吉郎。そこに飛び込んできたのが小一郎です。長康の屋敷が兵に囲まれ、ピンチだというのです。

「行きましょう。前野殿を死なせてはなりませぬ!」「わしには何が起こっているのかさっぱりわからん。でも兄者が言うならそうなんじゃ」「前野殿も蜂須賀殿を待っております!」

兄を信じて運命を託す小一郎の言葉に、心を打たれた正勝。弟分・長康を想う気持ちに、長年のわだかまりも溶けていきます。敵の手から長康を救出し、墨俣築城という危険なプロジェクトにも「力を貸す!」と高らかに宣言する正勝。藤吉郎、小一郎たちは歓喜の雄叫びを上げるのでした。


【藤吉郎と小一郎を支えていく人物解説】

さて今回は、「墨俣築城」に向かう情勢と並行して、すれ違っていく小一郎と直(白石聖さん)の関係も描かれていました。

一方的に「里へ帰る」と言い放った直の気持ちを全く理解できない小一郎に対し、寧々(浜辺美波さん)は「おなごはただ、祈って待つだけ」と、戦国の時代、侍と結婚した女性たちの辛い現実を語ります。ましてや小一郎は、兄のためなら己の命も差し出しかねない男ですから、「あたしと藤吉郎さん、どっちが大切なの?」と、直が詰め寄りたくなる気持ちももっともです。

いずれ自分が小一郎にとっての大きな重荷になることを懸念し、身を引こうとした直を、「どこにも行かないでくれ。おぬしがわしの帰る場所なんじゃ」と、涙ながらに抱き寄せる小一郎。よかった! これでうまくいくといいのですが…。

ある意味、侍の伴侶としての覚悟を決めている寧々と、自分が置かれた立場に迷いを見せる直。このふたりの違いは、武士の娘であり、母(武士の妻)の生き方を見てきた寧々と、土豪(豪族)の娘である直の、育った環境による意識の違いと言えるかしれません。

■実は先見の明あり? 浅野長勝

寧々の養父は、宮川一朗太さん演じる浅野長勝です。

(C)NHK
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跡継ぎとなる男子がおらず、寧々を養女にしました。秀吉と寧々は当時としては珍しい恋愛結婚だったうえに、自分よりも家柄で劣る秀吉に、娘を嫁に出した長勝は、かなりの先見の明の持ち主と言えるでしょう。秀吉は事実上、浅野家の入り婿だったようで、彼が異例の出世を駆け上がっていくのも、浅野家の支援あってのものともいわれています。

愛娘の結婚がよほどうれしかったのでしょうか。藤吉郎との祝言では酩酊し、「年寄り扱いするでにゃい!」とにゃん語を発していた長勝でしたが、放送日の2月22日は、くしくも「猫の日」でした!

■蜂須賀正勝(通称「小六」)

今回初登場となった蜂須賀正勝と前野長康は、一般的によく知られている「墨俣一夜城」成功の立役者です。

『豊臣兄弟!』で蜂須賀正勝を演じるのは高橋務さん。(C)NHK 
『豊臣兄弟!』で蜂須賀正勝を演じるのは高橋務さん。(C)NHK 

史実としても、初期の秀吉軍団を根底から支えた「最古参の重臣」ですが、「蜂須賀家」と聞いて、昨年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』を観ていたファンは、ピン!ときてしまったのでは?

蜂須賀家といえば…阿波徳島藩蜂須賀家お抱えの能楽師だった斎藤十郎兵衛(生田斗真さん/一橋治済(はるさだとふた役)…あの、蜂須賀家?… ピンポン! 正解です!  正勝はあの、蜂須賀家の祖にあたる人物。ただし、彼自身は秀吉から阿波国(現在の徳島県)を拝領したものの、秀吉の側近として生涯仕えることを熱望し、阿波国は子の家政に譲り渡しています。

■前野長康

秀吉の重臣として、のちに但馬国(現在の兵庫県北部)の出石城主となる前野長康は、蜂須賀正勝と義兄弟の契りを結んだ間柄です。そのため、ドラマでも長康は正勝を「兄」と呼んでいますね。

左が前野長康(渋谷謙人さん)。(C)NHK
左が前野長康(渋谷謙人さん)。(C)NHK

なるほど。「豊臣兄弟!」は、織田信長・信勝兄弟に始まり正勝・長康と、豊臣兄弟が次々に兄弟たちと出会い、それぞれふたつとない有り様を描きながら共に絆を深め、天下人へと登っていく物語なのですね。

それにしても、藤吉郎と小一郎の周りに協力者が次々と現れ、手を携えていく…という展開は、まるで少年漫画のよう。なかでも、ツンデレがすぎる柴田勝家と蜂須賀正勝は、一周まわってむしろキュート! 人気キャラとなっていく予感です。


【次回 『豊臣兄弟!』第8話「墨俣一夜城」あらすじ】

(C)NHK
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小一郎(仲野太賀さん)らは墨俣へ出陣。だが信長(小栗旬さん)の真の狙いは墨俣ではなく、美濃三人衆のひとり・安藤守就(田中哲司さん)が守る北方城だった。藤吉郎(池松壮亮さん)は、美濃国主・斎藤龍興(濱田龍臣さん)の目を北方城から逸らすための捨て石と承知のうえで、墨俣に砦を築く大作戦に着手する。

一方、直(白石聖さん)は、小一郎と夫婦になる許しを得るため中村に戻る。意外にも父・喜左衛門(大倉孝二さん)から手厚く迎えられるが…。

※『豊臣兄弟!』第7回「決死の築城作戦」のNHK ONE配信期間は2026年3月1日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟!~ 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) :