ORIGO イタリア人シェフが金沢の食材で極める食のアート

ほろ苦さとまろやかさが見事に重なり合う菜の花とストラッチャテッラチーズのスープ。金沢の旬の食材で織りなすORIGOの料理は、自然の景色がそのまま切り取られたかのような美しさ
ほろ苦さとまろやかさが見事に重なり合う菜の花とストラッチャテッラチーズのスープ。金沢の旬の食材で織りなすORIGOの料理は、自然の景色がそのまま切り取られたかのような美しさ

ずっと気になっていました。イタリア人シェフが金沢の地で営むレストラン『ORIGO』。アートのように美しいビジュアルの料理、築130年超えの金澤町家を改装して作られたという洗練の空間に目を奪われたのがきっかけだったけれど、調べれば調べるほど、次第にそれを生み出すマテオ・アルベルティさんに心惹かれて。

たまたま訪れた金沢に感じたイタリア文化との共通点

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金沢への愛とリスペクトを静かに語るマテオシェフ。世界的シェフ、アンドレ・チャン氏の招聘で、昨秋、台湾でのポップアップも開催

 「留学していたロンドンで知り合った友人に会うのが目的で金沢を訪れました。城下町の名残が色濃い雰囲気、土地に根づく職人文化、人との温かい関わり、すべてに金沢のアイデンティティを強く感じたんです。その際、能登に住む、友人のお祖母さんの家に6日間滞在したんですが、いただいた料理が美味しくて美味しくて。人の温もりや食材の素晴らしさに、自分が育まれたイタリア文化との親近感を覚えてさらに心惹かれた。この地で料理を創りたいと思いました」(マテオさん)

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甘エビのパスタ、ボットーニにディルと柚子胡椒を添えて。甘エビの頭から取った出汁の風味が優しく広がる
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春、旨味を増すイワシのあおさ揚げにアサツキのマヨネーズソースを添えて。「今」を味わう料理に目も心も奪われる
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イノシシの熟成生ハム、クラッカー乗せ、ともに自家製。ホタルイカのサンドイッチ。

イタリア・ローマからほど近い自然豊かなラツィオ州リエティ出身。写真やグラフィックを学びにロンドンへ留学、そこで料理に目覚め、シェフの道へと大きく方向転換。さらに最近はフォトグラファーとしての才能にも磨きをかける、異色の人。ORIGOの料理、器、空間……、洗練された調和に卓越したセンスが光ります。

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開放感のあるオープンキッチンもORIGOの魅力。カウンターではシェフの真剣な眼差しと鮮やかな手さばきに目が釘付けに

 「金沢で『イタリア料理』を作ろうとイタリアから輸入された食材を手に入れてみたら……、あれっ?食べたいものじゃない。イタリア、中でも田舎出身の僕は、幼いころからまわりで採れた新鮮な野菜やマンマ手作りのパスタやパンで育ってきました。そこで気づいたんです。『自分が何をしたいか』でなく『そこに何があるか』から考えよう、と。すると地元にある、素晴らしい食材がたくさん見えてきた。暮らす人たちにとって当たり前でも、自分にとっては新鮮。先入観のないまっさらな状態で食材に向き合えるのが面白くて仕方がないんです。イタリア人である自分が持つ技術と掛け合わせたらどんな料理ができるか。ORIGOはイタリア料理というより、創作地元料理です」(マテオさん)

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町家特有の天井の高さが生かされ、開放感と重厚感が共存する、居心地のいい空間。6席のカウンターと3つのテーブル、個室もあり

 例えば、マテオさんの故郷の家庭料理が発想源の「ピッツアリントルタ」。金沢のふきのとうで作ったふきみそとリコッタチーズを自家製のピッツァ生地に巻いて焼き、山羊のチーズを乗せた一品は、頬張った瞬間に、まるで味わいの層が解けていくように広がり、チーズの風味が奥行きを生みます。人にも土地にも愛を持つがゆえの、大胆な発想と繊細な計算。だからこそ素材の声が聞こえる……、それがマテオさんの料理に違いないのです。

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身近にある材料を生地で巻いて焼く「もったいない」から生まれたラツィオ地方の料理。器は金沢を含め、 マテオさんが訪れた日本のさまざまな土地で買い集めたもの  

 「巻鰤(まきぶり)」という伝統を自らつないでいく革新

故郷の生ハムが恋しくなったあるとき、イタリアの海の近くで魚を干して「魚の生ハム」を作る文化があることを思い出し、日本にもきっとあるに違いないと探したところ、能登の伝統食「巻鰤」に行き着いたのだといいます。この写真は、その出合いに感動したマテオさんが撮影した一枚。

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マテオさんが自主出版したORIGO JOURNAL創刊号『巻鰤 MAKIBURI』¥3,000。撮り下ろした写真は国際的フードフォトコンテストで金賞を受賞した
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レストランの裏で伝統製法そのままに作られている巻鰤。天然の寒鰤を塩づけにし、藁と縄で巻いて熟成。1月に仕込み、およそ半年。なかなか味わえない貴重な味

「こんなに近くにあるなんて!と興奮しました。実際にいただいて、奥深い味わいはもちろん、手間や時間をかけて作られた、まさに日本の職人文化を象徴するものと感じて、さらに感動したんです。地元でも知らない人がいるほど途絶えかけている伝統と知り、今、その方法を伝授していただいて、自分で手作りしています。丁寧な手仕事や古きよきものを敬う日本の文化は素晴らしい。これからもずっと伝えていきたいと思います」(マテオさん)

金沢の文化に、地元の食材に、関わるすべての人たちにリスペクトの念を向けるマテオさん。ORIGOの料理にはその感情も「表現」されているから、私たちの心を奪うのでしょう。

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イタリア語が堪能な、金沢生まれのパートナー、英(はなぶさ)亜紗里さんが通訳を務める。料理を起点に会話が広がる 

「料理は、『エクスプレッション(表現)』というより、食べてくださる方との『コミュニケーション(対話)』。日本の方々と言葉で通じ合うのは難しいけれど、料理がツールになると思いが伝えられるんです。加えて、料理が限られた人にしか伝えられないのに対し、写真ならより多くの方々に伝えることができる。自分にとってはすべてがコミュニケーションです」(マテオさん)

石川県の自然がもたらす旬の食材にこだわり、その日の仕入れに合わせて緻密に構成された全8品のフルコースディナー。金沢をとことん愛するから、金沢にとことん愛される人。そんなマテオさんの思いが込められた一皿一皿にときめいて、五感で料理との対話を楽しんでほしいと思います。日本に生まれた誇らしさを感じながら。

漆の新境地を切り拓く杉田明彦さんの作品に出合う

東京・白金台のコンセプトショップ『雨晴』で、初めて杉田明彦さんの作品に触れたとき、「えっ、これが漆?」と驚きました。陶器のような色や面の揺らぎ、柔らかさを感じさせるマットな質感、オブジェかのようなユニークな形……。誰もが抱く漆の概念を覆すものだったのです。

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赤木明登氏に師事し、独立。金沢に自身の工房を構える

 「輪島塗をはじめ、『塗』と呼ばれる伝統的な漆は、ろうそくの光のもとで抑えられた輝きを放つのが美しいとされ、そのため、映すと鏡のように歪みがない、平らで滑らかな、いわば『完璧』を目指して作られています。ところが、工業製品が当たり前になった今、完璧であればあるほど、区別がつかなくなっているのも現実。卓越した技術を持つ職人の方々を敬いながら、そこに勝負を挑むのではなく、自分は漆の可能性をもっと広げて面白い漆器を創りたいと思っているんです」(杉田さん)

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杉田さんの漆器は、洗練と温もりが同居する佇まいが印象的。触れるほどに愛着が増す。 プレート¥18,700〜、椀¥17,600〜

 海外でも評価が高い杉田さんの漆は「唯一無二」と言われています。日常使いに向く椀や皿などは、杉田さんが注文したデザイン通りに「荒型師」によって丸木から荒型が削られ、「木地師」によってきめ細かく整えられて、そこに杉田さんが漆を塗っては乾かし、塗っては乾かしと、職人技をかけ合わせ、想像を超える時間と手間をかけてそれはそれは丁寧に作られています。

一方、大きなオブジェや平面作品は、「乾漆」という特殊な技法で生み出されており、大まかな型を作ってから麻布や和紙を躯体に漆を何層にも貼り重ね、膨大な工程数を踏んでようやく「ひとつ」ができ上がります。漆の概念が覆される秘密はアートのような視点にありました。

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珪藻土の下地に漆を重ねた陶器のようにも見える独特の質感も、杉田さんならでは

 手にした人が自由に使い方を楽しめる抽象的なオブジェ

「実用的なものを作りたいと思う一方、具体的にしすぎて用途を限定したくないとも思っているんです。例えば、洋食と和食だけではない現代にあって、洋食器と和食器の線引きもなくていいのかな、と。だから、自分としては、抽象的なオブジェのような感覚で作っていて。器としてだけでなく、インテリアとしてもアートとしても、手にした人に『その先』を委ねたいと思います」(杉田さん)

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杉田さんは舞台役者としての活動や手打蕎麦店での修行経験がある、ユニークな経歴の持ち主
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自ら手を入れたという広い中庭を望み、柔らかい光と自然の音に包まれる古い武家屋敷を改修した工房には、所狭しと作品が並ぶ

骨董だったり映画だったり、たまたま触れた紙や壁の質感だったり。インスピレーションの源は多岐に及ぶと杉田さん。漆のイメージにとらわれず、ひとつひとつに強い個性が宿るのは、きっとそのため。

「自分の作ったものに縛られたくないんです。見方を変えて、考え方を変えて、常に新しいものにチャレンジしたい。『自分に飽きる』余裕を持ちたい、そう思っています」(杉田さん)

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unefig.×Akihiko Sugita バングル各¥50,600、フレームトレイ¥60,500

 ファッションブランドとのコラボレーションででき上がったバングルにも心奪われました。金沢の伝統、そこから新たに紡ぎ出される金沢のモダン。漆の可能性を拓き続ける杉田さんの「たったひとつ」には、ずっと傍らに置きたいときめきと温もりがあります。

注目のパティシエ・平瀬祥子さんが金沢にインスパイアされたサブレ

手土産も充実している金沢で、話題のサブレに出合いました。ミシュラン掲載のフランス料理店「レストラン ローブ」(東京・六本木)のパティシエ、平瀬祥子さんが、金沢の歴史や文化にインスパイアされて作ったという『パティスリー ローブ 花鏡庵』の『お酒と楽しむテイスティング・サブレ』。

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9種のサブレはどれも個性豊か。¥4,536 昨秋、金沢の百貨店にショップを移転オープン 

棒茶や酒粕、金沢味噌などに加え、焼きのどぐろの出汁を練り込んだ「のどぐろ」や熟成、発酵させた石川の魚醤とイカ墨を合わせた「いしる」など、どれも金沢の名産品を使用したユニークなもの。スイーツ好きにもお酒好きにも喜ばれるアソートメントを、友人に、自分自身に。金沢の旅の極意がぎゅっと詰まっています。

ORIGO
住所/石川県金沢市笠市町10-1
TEL:080-1786-3996
営業時間/18:00〜22:00(前日までに要予約)
定休日/日曜
料金/¥15,000(税込・サービス料別)

杉田明彦漆器工房
住所/石川県金沢市菊川2-30-21
訪問はakihikosugita.works@gmail.comまでメールにて要予約(展覧会など不在時は対応できない場合があります)

パティスリー ローブ 花鏡庵
住所/石川県金沢市香林坊1-1-1 香林坊大和B1F
TEL:076-220-1111(香林坊大和・代表)
営業時間/10:00〜19:00
定休日/不定休

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

この記事の執筆者
雑誌やWEB、広告において、美容記事やインタビュー記事の編集・ライティング、エッセイ執筆、コピーライティングなど幅広く活動。『顔は言葉でできている!』(講談社刊)ほか著書多数。自ら立ち上げた出版レーベル、BOOK212より初の絵本『ピンクのカラス』を刊行。
PHOTO :
志賀真人
COOPERATION :
金沢市観光協会
EDIT&WRITING :
松本千登世