【目次】
【第19回のあらすじ】
大河ドラマも3分の1を過ぎて、物語はいよいよ中盤へ。今回は、今まで不審な行動が多かった慶(吉岡里帆さん)の謎が解き明かされ、小一郎(仲野太賀さん)との仲に雪解けが訪れた様子が描かれました。
大河ドラマは主人公の生涯を描くため、劇中の時間が過ぎるのが早いのも特徴ですが、慶が小一郎に嫁いでから、すでに8年が経過しているそうですよ…。人生50年といわれた時代に、仮面夫婦を8年間って、長すぎでしょう。とはいえ、失った時間を補って余りある、ドラマティックな展開となりました。
ときは天正3(1575)年12月。織田信長(小栗旬さん)は、岩村城での武田との戦いで功績をあげた嫡男・信忠(小関裕太さん)に織田家の家督を譲り、自らは翌天正4年の1月から、「天下布武(武力で統一し平和な世を築くこと)」の象徴として、近江安土城を築城することを宣言します。
戦国時代、「天下」は朝廷と幕府がある京を中心とした畿内、つまり現代の京都、大阪、奈良、兵庫の一部と、さらにその影響力が及ぶ範囲を指す言葉でした。そして「天下」に君臨し、地方を束ねる執政者が「天下人」とされ、戦国時代にその立場にいたのが、室町幕府第15代将軍・足利義昭(尾上右近さん)将軍だったのです。
ところが信長は天正元年(1573年)に義昭を京都から追放し、事実上の室町幕府崩壊をもたらしました。つまり当時、「天下人」のポジションは空いていたのですね。その後、朝倉氏と浅井氏、武田氏を次々と降(くだ)した信長に、ついに朝廷は天正3(1575)年、従三位権大納言(じゅさんみごんだいなごん)兼 右近衛大将(うこんえのだいしょう)の官位を授け、義昭に代わる「天下人」として信長を公認したのです。
つまり、信長が織田の家督を嫡男に譲ったのは、「現役をリタイアするよ」という意味ではなく、「大名は卒業して、天下人としての活動に専念するよ」という意思の表れであり、その象徴が五重六階地下一階という、当時の高層建築の最先端・安土城の築城だったのですね。これは実質、「織田政権政庁」の建設です。
画面に映し出されたのは、琵琶湖のほとりで高く積み上げられた石垣。その築法に物言いをつけたのは、小一郎の家臣となった藤堂高虎(佳久創さん)でした。実は高虎は「築城三名人」と称されるひとり(ほかのふたりは加藤清正と黒田官兵衛)なんです。このシーンは後への伏線となっているのかもしれませんね。
新たな時代の幕開けの裏で、羽柴家にも変化が訪れます。子に恵まれなかった秀吉(池松壮亮さん)と寧々(浜辺美波さん)は、信長の勧めにより、前田利家とまつの四女・豪姫を養女に迎えることに。
しかし、めでたい気分もつかの間。天正5(1577)年の北陸には暗雲が垂れ込めていました。能登の七尾城救援のため派遣された4万の織田軍ですが、それを迎え撃つのは「越後の龍」こと上杉謙信(工藤潤矢さん)。総大将の柴田勝家(山口馬木也さん)は「七尾城はすでに陥落しており罠かもしれない」という秀吉の報告を信用せず、ふたりの間には深い亀裂が入ってしまいます。しかも、勝手な戦線離脱は信長の命に背く行為です。藤吉郎は大丈夫なのでしょうか?
一方、長浜では小一郎の妻・慶に、他国の間者と密通しているのではという不穏な疑いがかかっていました。小一郎が男の素性を問いただすと、翌朝、慶は姿を消してしまいます。彼女が向かった先は、前夫・堀池頼広との間にもうけた子、与一郎(高木波瑠さん)のもとでした。
皆さん、覚えているでしょうか? 慶の前夫・頼広が、美濃の斎藤家に仕えていたことを。ところが慶の父・安藤守就(田中哲司さん)が織田方に寝返ったために斎藤家は滅亡。堀池家も没落し、頼広の父・頼昌(奥田瑛二さん)とその妻・絹(麻生祐未さん)夫婦は、慣れない百姓暮らしを余儀なくされていました。
頼昌にとって敵も同然の慶は家を追われ、与一郎とは離ればなれに。やむなく頼昌に仕える村川竹之助(足立英さん)を通じて、遠くからわが子を見守っていたのです。実は、慶の体にある刀傷も、かつて頼昌から受けたもの。頼昌は家の存続や過去の恨みに強く囚われるあまり、与一郎自身の幸せや将来を、客観的に判断する視点を完全に失っていました。
「与一郎を養子にしたい」という小一郎の申し出を知り、激高する慶。そりゃそうですよね、結婚して8年近くもほぼ放置しておいて、いきなり「息子を自分の養子に」とお願いされたら、誰だって怒ります。「わしは慶のことをまだ何もわかっとらんかった…」って小一郎、ちと鈍すぎやしませんか。
慶が「子どもが嫌いだ」と言ったのは、与一郎と離ればなれにさせられたトラウマから。織田の家臣である小一郎のもとで、自分だけが幸せになってよいはずがない。自分の命はもはやどうでもよいけれど、与一郎を見守っていたいから生きている。織田への恨みは深いが、幼い与一郎までもが憎しみを糧に育てられていてよいものか…。慶はこんな葛藤に苦しんでいたに違いありません。
そんな慶の思いを察したのでしょうか。小一郎は静かに、亡き直(白石聖さん)との思い出を語り始めます。
「大切な人を失った気持ちはよくわかる。夫婦なのに気付いてやれなくてすまなかった」
大切な伴侶を亡くして希望を失い、それでも「生きる」ことを選んだ者同士だからこそ、わかり合えるものがある。小一郎の、直への断ち切れぬ想いを知って、「この人にならば、愛する与一郎を託せるのでは」と、慶の心は解けていったのではないでしょうか。
「与一郎に織田への恨みを晴らさせるようなことだけは、もうお止めください。憎しみだけで生きていくのはあまりにも苦しい。与一郎にそんな思いはさせたくありません」
自分の命と引き換えに、与一郎を恨みの呪縛から解放してほしいと頭を下げる慶に向かい、頼昌は刀を構えます…。第19回のサブタイトルとなっている「過去からの刺客」は、過去の遺恨に囚われた慶の義父・頼昌だったのですね! この緊迫した場面に終止符を打ったのは、妻の絹でした。実は頼昌自身、慶を斬りつけケガをさせて以来、刀を抜けない人間になっていました。彼もまた、トラウマを抱えながら生きてきたのです。「息子はいつも優しく笑っていた」と、夫に憎しみの連鎖を断ち切るよう進言した絹の涙に、筆者は涙腺崩壊です。奥田瑛二さん、麻生祐未さん、渾身の演技、お見事でした!
こうして、与一郎と慶、そして小一郎は家族となって、城に帰ってきました。仲睦まじく肩を並べる親子の傍らには、曼珠沙華が…かつて、直の父・坂井喜左衛門(大倉孝二さん)が、娘と自分は「小一郎が万事円満の世をつくれれるかどうか」で賭けをしたのだと語った、直の墓前で咲いていた、あの花です。
赤く鮮やかな花は、小一郎の胸の奥にある、決して消えることのない直への思いと誓いを表しているかのよう。それでも、いえ、だからこそ、小一郎は今、自分が守るべき家族と、新たな道を歩み始めます。
【1570年代は「室町時代」「戦国時代」? どちらが正解?】
ドラマでは、足利義昭の追放により室町幕府が滅び、信長が安土城を築く「天正」の世となりました。ところで、舞台となっている1570年代とは、「室町時代」? それとも「戦国時代」? どちらだと思いますか?
■どちらも正解!
「室町時代」なのか、「戦国時代」なのかは、「時代区分(政治体制)」で呼ぶか、「時代背景(社会情勢)」で呼ぶかによって異なります。
「戦国時代」は独立した時代区分ではありません。そして厳密には、足利義昭が追放される1573年までは「室町時代(末期)」。室町幕府が事実上滅亡したことで「室町時代」が終了したとみなすのが一般的です。同時に、応仁の乱から続く「戦国時代」の真っただ中でもある、というふたつの時代がグラデーションのように重なっている時期でもあるのです。
■1573年以降は…?
社会情勢やライフスタイルに注目する場合、1570年代は間違いなく「戦国時代」の真っただ中です。「応仁の乱」(1467年)以降、幕府の権威が失墜し、各地の大名が武力で領土を奪い合う「下剋上」の状態が続いていたためです。そして「時代区分」としては、信長が義昭を追放した1573(天正元)年以降は、信長の本拠地「安土」と、のちの秀吉の本拠地「伏見城(桃山)」の名を取って「安土桃山時代」と呼ばれます。
■木下長秀から羽柴長秀へ
今回、慶の義父・頼昌が、「羽柴殿、与一郎のことをどうかお頼み申します」と、小一郎のことを「羽柴姓」で呼んでいたことにお気付きでしたか? 史実としても、天正三(1575)年には、小一郎が自らを「羽小一郎長秀」と記していたことがわかっています。「羽」とは「羽柴」の略記です。兄の藤吉郎秀吉と同じ苗字を名乗ることで、織田家の直臣から、秀吉を支える一門という立場になったことを表しているのです。
ドラマでは、天下統一を見据えた信長が信忠に家督を譲り、安土城築城を宣言しました。つまり、歴史はここから「安土桃山時代」という新しいフェーズへ突入していきます。私たちはまさにその「時代の変わり目」の瞬間を目撃しているのです。
【次回 『豊臣兄弟!』第20回「本物の平蜘蛛」あらすじ】
信長(小栗旬さん)は、上杉攻めから離脱し勝手に帰国した秀吉(池松壮亮さん)に激怒。蟄居のうえ、死罪に処すと申し渡す。羽柴家一同が助命嘆願に奔走する中、松永久秀(竹中直人さん)が再び裏切ったという知らせが入る。
九死に一生を得た秀吉と小一郎(仲野太賀さん)は久秀との談判に臨み、唯一無二の茶器・平蜘蛛を渡せば謀反は不問にするという信長の意向を伝える。だが破格の条件にもかかわらず、久秀はなぜか応じないと言い張る。
※『豊臣兄弟!』第19回「過去からの刺客」のNHK ONE配信期間は2026年5月24日(日)午後8:44までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 河西真紀
- 参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『秀吉と秀長』(NHK出版新書) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 :

















