【目次】

【第27回のあらすじ】

「よいか、わしの首…決して敵の手に渡すでないぞ」
「お任せ…くださいませ」

(C)NHK
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』最大の見せ場のひとつ、「本能寺の変」が終わりました。小栗旬さん演じる信長と市川團子さんの森乱による本能寺の変は、今後語り継がれるであろうほどの名場面でした。燃えさかる炎の中、覚悟を決めた信長を、声を震わせながら見つめる森乱の姿は、まるで一幅の宗教画のよう。厳かな美しさに包まれていました。

今回、「本能寺の変」に向かうターニングポイントとして描かれたのは、安土城で行われた徳川家康(松下洸平さん)饗応の宴でした。接待役を務めたのは明智光秀(要潤さん)。ところが、信長が自身に供された鯉の煮付けのほうが家康のものより大きいと指摘して皿を取り替えさせたところ、料理に毒が混入していたことが発覚。場は騒然となります。

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状況からは、真っ先に疑われるべきは光秀なのですが、信長はそこはまったく疑いません。ある意味、絶対的な信頼感。ではなぜ、常に理不尽ともいえる怒りを光秀に対してぶつけるのか。これはもう理屈ではなく、相性なのでしょうね…不幸なことに。

ここまで光秀は、20年もの間、親を殺された恨みを信長に対して抱き続けていた信澄(緒形敦さん)の気持ちを「何も聞かなかったこと」としてスルーしていました。そのため彼自身、うすうす信澄の犯行と気付いていても、激しい暴力を振るう信長に対して無言を貫きます。

それにしても、元仮面ライダーの要さんにたれた、小栗・信長の華麗なライダーキック(?)は圧巻。ワイヤーアクションまで使った演出に、NHKの本気が見えました。

さて、失意のうちに、かつての主君・足利義昭(尾上右近さん)に斎藤利三(内藤剛志さん)を通じて書状を送った光秀に、返ってきた返事は…「もうわしを巻き込むな」という冷ややかな言葉でした。

もともと光秀には、義昭に命じられて信長に仕えたという経緯があります。信長の下、己を殺し罪なき人々を手にかけ、あまたの屈辱にも耐えてきたわけですが、それもこれも、原点は「わが主・公方(義昭)さまのため」。今は離れたとはいえ、心の奥底では「つながっている」と信じていた義昭に自分には関係ないからと突っぱねられてしまうとは…。

「信長を討て」という義昭(を装った信澄から)の密書を握りしめ、「これは上意である」と、ついに信長討伐を決意する光秀。もしも本当に義昭が謀反の黒幕で、「信長を討て!」と命じたのであれば、光秀は喜んで命を捧げたでしょうに…切ない。

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「敵は本能寺にあり!」

一方で信長も、弟・信勝(中沢元紀さん)を討ったことへのトラウマに苦しめられていました。さらに信頼していた甥・信澄にも裏切られ、気持ちは落ち込むばかり。「安寧の世を一日も早くおつくりくださいませ」と話す市(宮崎あおいさん)に対しても、「血塗られたこの手で、安寧の世などどうつくれというのか。わしには壊すことしかできぬ…」と、怒りをぶつけてしまいます。

自分では信長の慰めにならないと悟った市に後を託された小一郎は、信勝の位牌からすべてを察します。

「信勝さまは信長さまを恨んではおりませぬ。到底敵わぬ兄をもったわしにはわかるのです」

うーん、この辺り、空気を読み、人の気持ちを察する小一郎の個性が光った演出でした。

半ば嘘とはわかっていても、小一郎に慰められた信長は、備中高松城攻めをしている秀吉の元へ行くこととし、わずかな手勢を連れて本能寺に入ります…この行動が、まさかの悲劇を生むことになるなんて…!

斎藤利三率いる光秀軍の強襲を受けた信長は、弓や槍を手にして森乱らと迎え撃ちます。とはいえ、多勢に無勢。炎の中、半ば錯乱した信長の前に、次々と幻覚が現れます。光秀、浅井長政(中島歩さん)、無数の市井の人々、そして信澄の刃から信長を守ったのは、弟・信勝…ではなく、小姓の森乱でした。

自分に信勝の幻影を重ねた信長に、真っすぐな、曇りなき眼で微笑んでみせる森乱。自分の脇差しを信長に渡してしまった以上、もはや自害はできません。信長の首を敵に渡さぬよう、信長が燃え尽きるまで敵と戦い続けるために、森乱は信長の元から走り去ったのでしょう。主君を格上げする程の美しい所作も映え、見事なお小姓ぶりが切ない森乱でした。

弟・信勝の幻影に「われらの一生はろくなものではございませんでしたな」と言われて信長の脳裏に浮かんだのが、よもや陽キャでお気楽なお猿兄弟の笑顔になるとは思いませんでした! 「もしかしたら、自分に代わって天下を取るのは秀吉かも…?(まぁ、あいつなら)是非もなし(仕方ないかな)」とも受け取れる、信長の微笑みでしたね。

実は死の間際、信長が放った「わしの首、決して敵の手に渡すでないぞ」というセリフはかなり重要。森乱がこの言葉を守った故に、のちに「信長は本当に死んだのか?」「実は逃げ延びたのでは?」という風説が広まっていくのです。


【「本能寺の変」の裏で何が起こっていたのか】

■史実。光秀は本能寺襲撃に立ち会わなかった

天正10(1582)年6月2日の明け方に起こった「本能寺の変」。明智光秀は重臣の明智秀満と斎藤利三の軍勢2000人を向かわせて、京都四条西洞院(現・京都市下京区)にあった京都本能寺を急襲しました。そのとき、光秀自身は摂津国大坂近辺で四国渡海に向け待機していた織田信孝や宿老の丹羽長秀が率いていた軍勢を警戒し、「鳥羽」に陣取っていました。「鳥羽」は、現在の京都市南区とされ、京と大坂を結ぶ街道上に位置しています。

光秀が「鳥羽」にいたことについては、江戸時代初期の加賀藩の兵学者・関屋政春がまとめた編さん物『乙夜之書物(いつやのかきもの)』に記されています。この説を採用し、今回、本能寺襲撃に立ち会わない光秀を描いたのは、NHK大河としては初めての試みでした。

■「本能寺の変」はなぜ起きた?

今回のドラマでは、信長の理不尽な要求やたび重なる折檻など、信長に対して積もり積もった鬱憤が光秀を謀反に駆り立てたという怨恨説に加え、かつて信長に謀反を起こし討たれた弟・信勝の忘れ形見である「信澄」が主導する「黒幕」説も一部採用されていましたね。筆者は25回のレビューで、四国の長宗我部元親(ちょうそかべもとちか/磯部寛之さん)を巡る「政策不一致」説が、今回のドラマで描かれる本能寺の変の主要な引き金になるのではと予測していましたが、こちらは見事に外れました。

実は、「本能寺の変」が起きる直前、京都には織田政権の最高主導者(信長)とその後継者(信忠)など、権力中枢の人物たちが集中していました。光秀はこのタイミングを突いて謀反を起こし、実際に信長だけでなく信忠も討ち滅ぼしています。その後、安土城に入った光秀は、畿内平定を進める一方で、周辺の諸将に事後承諾のかたちで協力を求め、連携を模索します。

これらのことから、「本能寺の変」の背景には、織田家と光秀との間に四国政策などを巡る対立があり、その事態の打開策として起こったことは間違いがないものの、事前に周到に準備されたものではなく、「織田政権の中枢が京都に集結した」タイミングを優先して実行されたものと考えられているのです。

ドラマでも、協力者や連携とか勝算とか…そんなことを考える余裕もない程、光秀が追い詰められていた様子が描かれていました。これで「チャンス!」のときが来れば…それは実行してしまっても、なんら不思議はありませんね。

■小一郎がSNSで「本能寺ワープ」と言われた理由

天正10年6月、秀吉は毛利方との境界にある備中(現在の岡山県西部)の高松城を攻めていました。湿地に囲まれた難攻不落の城を落とすため、秀吉たちが選んだ策は、堤防を築いて川の水を引き込むという前代未聞の「水攻め」。銀山を手中に収め、軍資金が豊富なことで知られた、いかにも秀吉軍らしい大規模作戦です。

ドラマでは、勝利を確信した秀吉が、小一郎に安土へ戻って信長を連れてくるよう頼みます。毛利攻めの総仕上げを飾ってもらうことを、信長と約束していたのだと言うのです。

一方で、史実としても、信長が6月4日に京都を発って中国・四国方面の視察をする計画は進められていました。そのために5月29日には、一説には100人とされるわずかな手勢を連れ、本能寺に入ります。このとき、秀吉は毛利軍との対陣に備え、水攻めで追い込んだ備中高松城を前に、信長の到着を待っていました。ところが、誰も予期せぬ事件、「本能寺の変」が起こってしまう…ここの経緯は、今回のドラマの時代考証を担当する柴裕之氏をはじめ、歴史学者も認める事実とされています。

で、肝心のわれらが主人公の小一郎がどこにいたのかと言えば…歴史家たちの間では、秀吉と共に備中高松城の前にいた、という説が有力なのです。

実は、『豊臣兄弟!』の公式Xが、「本能寺の変」が第27回で描かれると発表したのは、6月30日のことでした。オンエアの10日以上前に公開された異例の予告編では、燃え落ちる本能寺の前で呆然と立ちすくむ小一郎の姿が写し出されていました。この映像にSNSは瞬時に反応。「なぜ小一郎が本能寺に!」「本能寺ワープか!」といったコメントが並んだ、というわけです。

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とはいえ、高松城の水攻めにおいて小一郎が大きな役割を果たしたのは事実としても、「本能寺の変の当日、小一郎は備中にいた」という確たる証もないのです。ドラマの脚本は、この隙をついて組み立てられたストーリーだったと言えるでしょう。

次回以降で描かれる「中国大返(おおがえ)し」の際には、小一郎は秀吉軍の殿(しんがり/軍隊の最後尾で追撃してくる敵を防ぐ役)を務めたともいわれています。ドラマの設定ではすでに京にいる小一郎にその役目が果たせるはずもなく…どう描かれるのでしょうか。楽しみです!


【次回 『豊臣兄弟!』第28回「急げ!秀吉」あらすじ】

(C)NHK
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信長を討った光秀(要潤さん)は家臣の斎藤利三(内藤剛志さん)に、小一郎(仲野太賀さん)を捕らえるよう指示。京に潜伏する小一郎は、備中の秀吉(池松壮亮さん)と、家族のいる長浜に急を知らせるとともに、畿内周辺の諸将が明智方につかないよう足止めをはかる。

事態を知った家康(松下洸平さん)、勝家(山口馬木也さん)らもそれぞれの思惑で動くなか、秀吉は信長の生存を信じ、毛利との和睦を急ぐ。そしてついに“中国大返し”が始まる!

※『豊臣兄弟!』第27回「本能寺の変」のNHK ONE配信期間は2026年7月19日(日)午後8:44までです。

※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『秀吉と秀長』(NHK出版新書) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 /北近江豊臣博覧会実行委員会「戦国を攻略せよ」(https://www.nagahama-sengoku.jp/story/hidenaga/#:~:text=◾%EF%B8%8F本能寺の変(1582),-天正10年&text=この時、秀吉と秀長,包囲していました%E3%80%82) /福知山光秀ミュージアム(https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/site/mitsuhidemuseum/) /『戦国武将 群雄ビジュアル百科』(ポプラ社) :