第8弾は市川染五郎さん主演の『本所の銕』、第9弾は松本幸四郎さん主演の『密告』。この二作品を上映する特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』(日本映画放送)の公開にあたり、第8弾で主演を務めた歌舞伎界のプリンス・市川染五郎さんと、今回二つの作品で物語の鍵を握る二役を演じ分けた、注目の若手俳優・駒木根葵汰さんにお話をうかがいました。

市川染五郎さん
歌舞伎俳優
(いちかわ そめごろう)2005年生まれ、東京都出身。十代目松本幸四郎の長男。祖父は二代目松本白鸚(はくおう)。2007年6月に歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見え。2009年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目松本金太郎を名乗って初舞台。2018年1月歌舞伎座 高麗屋三代襲名披露興行にて『勧進帳』源義経ほかで、八代目市川染五郎を襲名。2024年に映画『レジェンド&バタフライ』(23年/東映)で、第47回日本アカデミー賞 新人俳優賞受賞。2026年に自身初のストレートプレイとなる舞台『ハムレット』で主演。7月10日公開の松本幸四郎主演シリーズ最新作である特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』の『本所の銕』では、若き日の長谷川平蔵・銕三郎役で主演。
駒木根葵汰さん
俳優
(こまぎね きいた)2000年生まれ、茨城県出身。スカウトを受け、2018年よりモデル・俳優活動を始める。スーパー戦隊シリーズ『機界戦隊ゼンカイジャー』(21年/EX)で主演を務め注目を集めて以降、W主演のドラマ『25時、赤坂で』(24年/TX)など数々の話題作に出演。主演した『天狗の台所』(23年〜24年/BS-TBS)は2期を超える人気シリーズとなり、Season3が10月期より放送。2026年から2027年にかけて、自身初の舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』がワールドツアー中。特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』では、御家人・横山小平次と、盗賊・伏屋の紋蔵の一人二役を好演。

「父が演じる平蔵へのつながりを意識して、セリフ回しや歩き方を真似てみました」(染五郎さん)

──『本所の銕』は、原作の『密告』で描かれた若き日の長谷川平蔵・銕三郎(てつさぶろう)時代のエピソードに着想を得たオリジナルの物語かつ、『密告』につながる前日譚であるという、趣向を凝らした構成となっています。出演にあたって、それぞれ感じたことを教えてください。

映画『本所の銕/密告』に出演された歌舞伎俳優の市川染五郎さん
自分を含めて4代にわたるご縁に不思議なつながりを感じています(染五郎さん)
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染五郎:「『鬼平犯科帳』は、池波正太郎先生が自分の曾祖父にあたる初代松本白鸚を長谷川平蔵役としてイメージして書いてくださった作品です。これまで曾祖父、大叔父(二代目中村吉右衛門)、父(十代目松本幸四郎)が演じてきた作品ですから、自分を含めて4代にわたるご縁に不思議なつながりを感じています。

時代が今とは異なっていても、人のもつ普遍的な感情が鮮やかに描き出されるところも魅力的な作品です。平蔵自身も“鬼の平蔵”と呼ばれる人物ながら、人間らしさも持ちあわせている人物として描かれているのが素敵だなと思いますし、作品が今も愛されるゆえんなのかなと感じています」

駒木根:「僕の場合は、ちょうど時代劇に出演させていただく機会が増えてきた時期に、今作のお声がけをいただきました。その時代を生きることへの意欲が高まっているときに、『本所の銕』、『密告』と、二つの作品でふたりの悪役を演じさせていただけることは、決して簡単なことではないと受け止めています。このタイミングで役に導かれたことに、運命的なものも感じました」

──おふたりそれぞれの役作りについて教えてください。染五郎さんは、長谷川平蔵の若き時代、銕三郎を演じられました。表現するにあたって、何か意識されたことはありましたか。

染五郎:「自分が演じたのは、放蕩無頼な日々を過ごしていた時代の銕三郎ではありますが、彼は心の深い部分では情に厚く、根っからの悪(わる)ではない人物だというイメージがありました。それが“鬼”と呼ばれる平蔵時代につながっていく。その過程をグラデーションにして見せることを今回特に意識しました。

これまで“鬼平”シリーズでは、第1弾『本所・桜屋敷』と第2弾の劇場版『血闘』に出演させていただきましたが、そのときはとにかく、銕三郎という人物をしっかり演じきることを目標におきました。

今回は、時系列的にも前回より少し平蔵に近づいており、また演じる自分自身も年齢を重ねているので、より平蔵につながる銕三郎として見ていただけるように工夫をしました。前回が自分なりの銕三郎だとしたら、今回は“あえて父の真似をしよう”と意識しました」

──ちなみに、どのような部分を意識されたのでしょう。

染五郎:「それは観てくださったお客様にぜひ感じとっていただきたいところなのですが、具体的にはセリフ回しや歩き方に気を配りました。自分は父とは体つきが違いますが、フォルムを似せたいと思い、歩く姿を近づけるよう留意しています。そのあたりにもご注目ください」

「小平次が非道な人間に見えるように、僕自身の個性は消して振り切りました」(駒木根さん)

──『本所の銕』で駒木根さんが演じたのは“なぜか銕三郎に執着する”無頼を従えた悪御家人・横山小平次という、印象的な役柄でした。小平次を演じる上で、何か意識された点はありましたか。

映画『本所の銕/密告』に出演された俳優の駒木根葵汰さん
ジャケット¥1,300,200、インナー¥246,400、パンツ¥170,500(すべてゼニア)、その他/私物

駒木根:「良くも悪くも、観る方の記憶に残るようなキャラクターに仕上げることはできたかなと思っています。ほんのりと怪しい匂いが漂うように、そのバランスを意識しました。小平次は非道に振り切ることのできる人間なので、“銕三郎に成敗されるシーンは、気持ち良く成敗されたい”と思いながら演じていました。染五郎さんに“こいつ本当に嫌なやつだな”と思ってもらいたい自分と、そうは思ってほしくない自分がいて、内心少しだけ葛藤がありました(笑)」

染五郎:「駒木根さんとは、現場で直接お話しする時間がなかったので、ご自身が本当はどういう方なのか、知ることができませんでした。しかし、取材などでご一緒してみると、実は柔らかい方だと気づけました」

──駒木根さんの“憑依力”がうかがえるエピソードですね。染五郎さんは、今作では「見せ方」にもかなり気を配られたとお聞きしました。

染五郎:「舞台では、声の出し方や表情の付け方、動きなど、少しオーバーにしないと伝わらない部分があります。それをそのまま映像のお芝居にするわけにはいきませんので、毎回難しさや悩みどころがありました。

“今どれぐらいのアップで撮られているのか”とか、“引きで撮っているなら、これぐらい大きく動いても大丈夫だろうか”などと、その塩梅をカットごとに調整します。監督がどのような意図で、どんなふうに見せたいのか。それを自分なりに汲み取って、役者としてどう見せるのかを、その都度考えながら演じていました」

映画『本所の銕/密告』に出演された俳優の駒木根葵汰さん
良くも悪くも、観る方の記憶に残るようなキャラクターに仕上げたかった(駒木根さん)

──殺陣のシーンはいかがでしたか。前作までは“刀を抜かない銕三郎”として、殺陣の場面では木の棒を駆使していましたけれど、今回はついに真剣も手に取りました。

染五郎:「殺陣は今回さらに激しく、シーンも多かったので、とても大変なパートでした。木の棒を用いる場合は“殴る”動きですが、今回は刀の峰を使う“峰打ち”での殺陣も加わりました。斬るでもない、殴るでもない、“打つ”という感覚でした。

基本的には相手を刀で触れずに、いかに峰打ちをしているように見せるか、というあたりに苦心しました」

──殺陣のシーンは2回あり、どちらも銕三郎と小平次が対峙する場面がありました。駒木根さんはいかがでしたか。

駒木根:「僕が演じた小平次は、殺陣のシーンで自ら先頭に立って刀を持つ場面は少なく、大半は子分たちを盾にして逃げ回る芝居でした。“皆さんが一生懸命やってるのに申し訳ない”と思いながらも、染五郎さんと殺陣チームが立ち回りですごくいい汗をかいている様子を、羨望もこもった眼差しで見つめていました」

──幸四郎さんが『本所の銕』をご覧になって、『若き日の銕三郎、おまさ(中島瑠菜)、左馬之助(阿佐辰美)たち、3人の大きな成長に熱い涙がこぼれた』とコメントされておられました。

染五郎:「父と同じ人物を演じるわけなので、必然的に共演はないのですが、だからこそ、文字通り父と一心同体となって作品を作っている感覚がありました。撮影が同じ日だったことが1日だけありまして、そのときに平蔵の姿をした父と、銕三郎の格好をしている自分が、意図せずすれ違った瞬間があったので、そのときは“ああ、未来の自分だ”と、不思議な気持ちになりました。

映画『本所の銕/密告』に出演された歌舞伎俳優の市川染五郎さん
平蔵の姿をした父と、銕三郎の格好をしている自分が、意図せずすれ違った瞬間、不思議な気持ちになった(染五郎さん)

自分も試写を見てみたところ、『本所の銕』は“なるほど、こうやって『密告』につながっていくのか”と、ゾクゾクするような終わり方になっていました。駒木根さんは同時にどちらの撮影もされていたので、本当に大変だったと思います。

“鬼平”の魅力のひとつに、銕三郎時代の出来事や因縁が、めぐりめぐって平蔵時代につながるような展開があげられますが、今回は駒木根さんが演じた二つの役柄を通して、そんな魅力をより堪能していただけることと思います。

また、これまでの”鬼平”とは異なり、今作では“銕三郎時代”にフォーカスしています。そうした意味でも、作品をご覧になった方には新しい“鬼平”が生まれたな、と関心をもっていただけるかもしれません」


若き日の平蔵である銕三郎(市川染五郎)と、後の“鬼平”こと長谷川平蔵(松本幸四郎)を父子で演じ、二つの作品をつなぐふたりの悪人を、駒木根葵汰さんがひとりで二役を演じ分けることで、キャラクターの連続性に強い説得力を付与している特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』。Vol.2では、時代劇である“鬼平”シリーズの、現代的な魅力を深堀りします。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

『本所の銕/密告』7月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー

(C)日本映画放送
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原作:池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
監督:山下智彦  脚本:大森寿美男  音楽:吉俣良
キャスト:松本幸四郎 市川染五郎
仙道敦子 中村ゆり 和田聰宏 尾美としのり
本宮泰風 浅利陽介 山田純大 久保田悠来 山口馬木也
中島瑠菜 阿佐辰美 北澤響 黒沢あすか 松尾貴史 駒木根葵汰 山田真歩

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この記事の執筆者
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PHOTO :
トヨダリョウ
STYLIST :
中西ナオ(染五郎さん)、杉山凌(駒木根さん)
HAIR MAKE :
川又由紀(染五郎さん)、吉村健(駒木根さん)
取材・文 :
谷畑まゆみ