ポロシャツ好きとポロ競技ファンの割合が、ひとつのポロフィールドもない日本では、1000対1より広がるかもしれない。よく行く旅先ではタイやマレーシア、じつはハワイのノースショアにもフィールドがあり、現地在住者にはけっこう人気である。いつも人に薦めているのだが、観戦しようとする人は稀だ。
あらゆる衝撃にも耐えるリシャール・ミルの高級機械式時計
RM 53-01 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ
しかし、例えばアルゼンチンならサッカーと同じくらいの人気がある。正装して観戦に出かけて、試合の間には皆で荒れた芝を踏み慣らす美風は、英連邦諸国を中心に残る、上流社会の嗜みでもある。その魅惑のスポーツの世界的スターにトリビュートする腕時計の最新作「RM 53-01トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」を、リシャール・ミルが発表した。
リシャール・ミルが、ポロのプロ選手を代表する存在であるパブロ・マクドナウのために時計を造るのは、初めてではない。前作ではトゥールビヨンを傾けてセットし、全体をチタンカーバイトで装甲した。30度傾けた文字盤からポロの試合中でも時間が読み取れるこの腕時計は、2012年に誕生した。そのエクストリームな異形の魅力に対して、今回の新作はより時計らしいデザインを採りながら、恐るべき新機軸を開発し、搭載した。トゥールビヨンを備えたムーブメントを、ワイヤーで空中に浮かせた“ケーブルサスペンション機構”で、衝撃から守るのである。そしてガラスはサファイヤを2枚重ねにし、透明フィルムを挟む。
プロのポロ競技では、時速60キロで落馬することがある。硬質プラスティックのボールは最速230キロで飛んでくる。それより怖いのは、その速度を生むマレットの方だ。ボールを打つ柄の長い小槌は、時として凶器に近い。マレットが当たることを想定して、振り子を当てる衝撃テストの強度は5000Gに設定された。それでも、時計は壊れない。もしガラスにひびが入っても、飛散しない。
ポロ競技の頂点に立つパブロ・マクドナウ氏
もっとも優雅なスポーツは、もっとも危険なスポーツだ。パブロ・マクドナウ自身、他人の振ったマレットが当たり、右目の上を大きく粉砕骨折している。パブロ10歳の時のことだ。それでもポロを続けた少年は、アルゼンチンの英雄になった。そして世界のスーパースターとなった時、競技中に彼が着ける腕時計を、リシャール・ミルが製作した。「ポロの試合中でも着けていられる時計」という命題に「世界の最高峰レベルでプレーするスーパースターが」という条件を加え、最強のトゥールビヨンに仕上げてみせた。その時計は、世界で30本だけの限定で一般発売される。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト