【目次】

【第31回のあらすじ】

信長(小栗旬さん)の次男・織田信雄(のぶかつ/山脇辰哉さん)と3男・信孝(結木滉星さん)との評定で、家臣たちが合議で政にあたると宣言され、清須会議は一応の終結を見せました。しかし、新体制の構築や所領の再配分を強引に進めた秀吉(池松壮亮さん)に対し、柴田勝家(山口馬木也さん)、丹羽長秀(池田鉄洋さん)、池田恒興(堀井新太さん)には、強い警戒感と不満が噴出。信雄と信孝の兄弟間での後継者を巡る権力争いも激しさを増していく――と、ここまでが前回のお話。

(C)NHK
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最愛の兄・信長を失い茫然自失だった市(宮崎あおいさん)も、いよいよ覚醒です! 表向きは秀吉の進言のもと“鬼柴田”へ嫁いだ市ですが、実は秀吉の野望を阻止すべく立ち上がったのです。「この秀吉が、上様に代わって織田家をお守りいたしまする!」という言葉の裏に潜む「織田家を守るためではなく、天下一統を自らの手で成し遂げるため」という真意を市は見抜いていました。だって、お市さまは20年も前から“サル”の戯言を聞いてきたのですから。「信長の妹であるこの私を旗頭として、逆臣を討つ」という思いが市を立ち上がらせました。軍師・黒田官兵衛(倉悠貴さん)も、「秀吉と小一郎は市と親しき仲なれば、勝家と問題が起こったときには市が味方になってくれるでしょう…」なんて、甘いな~。

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そこへ、信孝が織田家の幼き当主・三法師(清水伊織さん)を勝手に岐阜城へと連れ去ったという知らせが届きます。三法師を取り込み、兄の信雄や家臣らへ牽制を図ろうという魂胆ですね。カリスマすぎる父をもった息子の空回りというかダメダメっぷり、信雄&信孝兄弟も見事に演じています。

三法師奪還と家中の統制を図るため、小一郎(仲野太賀さん)は諸将の説得に奔走しますが、単独で専行を強める秀吉への不満と不信感から「秀吉と共に三法師様をお支えすることはできない」と拒絶されまくります。手詰まりとなった小一郎でしたが、反立する諸将を一堂に集めて話し合いの場をもつための奇策として「亡き主君の葬儀を盛大に執り行う」という名目を打ち出しました。秀吉・寧々夫婦の養子となっていた信長の4男・勝秀(柊木陽太さん)を喪主に、葬儀というビッグイベントで家中を集め、己が信長の本当の後継者だと威光を示したかった秀吉。「ほぅ、ナイスアイデア!」と思ったのですが、なんと市が喪主となって京都の妙心寺で極秘に信長の法要を済ませていたのです。その葬儀に呼ばれなかった秀吉の心中は…。大義名分をそがれた秀吉企画の葬儀に対し、勝家や利家ら主要な面々や諸将は欠席を表明。秀吉陣営は大きな政治的打撃を受けることになります。

窮地に立たされた秀吉でしたが、大徳寺での大規模葬儀を強行。市が葬儀を仕立てた妙心寺も秀吉の大徳寺も、京都の名刹ですね。

この葬儀は、堺の商人・今井宗久(和田正人さん)の手引きと、茶人・千宗易の暗躍があったとか。千宗易とは、のちの千利休のことです。はいっ、ようやくご登場の兆しが見えました! 前回の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』での東洲斎写楽と同じように、本作『豊臣兄弟!』では「秀吉と蜜月を共にしながら自害に追い込まれた千利休の登場はあるのか?」「誰が演じる?」と、話題になっていましたね。7月に発表された新キャストのなかに「千利休 吉岡秀隆」の名前を見つけたネット民は、おおむねこのキャスティングに好意的。筆者の周りの茶人たちも、「イメージ通り!」と拍手喝采でした。

秀吉といえば、えげつない政と金の茶室…というイメージをおもちの方もいるでしょう。戦国時代、茶の湯は政治の重要ツール。天下一統を成し遂げるには、さまざまな奇策や裏工作も必要です。毛利家の外交役だった安国寺恵瓊(立川談春さん)が素晴らしい働きをしたように、吉岡さん演じる千宗易にも期待が高まります!

強行した大徳寺での葬儀の最中に刺客侵入というハプニングが起きますが、秀吉は捕えた刺客の縄を解き、「行き場を失ったらわしの家来になれ」と懐の深さを見せて赦免し、久しぶりに人たらしっぷりを見せたりも。

そして信長から賜った草履――覚えていますよね? 秀吉がまだ足軽だったころ、鼻緒の美しい草履を盗もうと懐へ入れたことを信長に見咎められ、小一郎が「雨が降りそうなので懐に入れて濡れるのを防ごうとしておりました」と機転を利かせたあの草履です。桶狭間の戦いで功績を挙げた際に、信長は「片方だけでは役に立たない、互いに大事にせい」という言葉と共にこの草履を褒美としてふたりに下賜しました。片方ずつ託されたこの一足の草履は、羽柴兄弟の絆の象徴になったのです。

葬儀の仕舞、秀吉はその片方の草履を懐から持ち出してひと言、「これで、お別れにございます」。信長の遺志を継いでの天下一統のはずですが、そこには織田家との決別も織り込み済み。織田家を守るのではなく、あくまでも自分が天下を統一しておもしろき世の中をつくる。その決意が、このひと言なのでしょう。

葬儀後、小一郎は秀吉の使いとして北庄城の市と勝家の元へ赴きます。「共に生きる道があるはず」と説得を試みますが、市は秀吉への屈服の条件として「播磨以外の全領地の譲渡と、身内3人を人質に」という無体な要求を突き付けます。信長を失った今も誇りをもって織田家を守る市と、わが手で新しき世をつくるため織田を滅ぼす覚悟を決めた秀吉。兄の本意にようやく気付いた小一郎は苦悩の表情を見せますが…。

秀吉は卓越した根回しや工作力をもって織田諸将や丹羽長秀を味方につけ、勝家と市を孤立させていきます。これでいいの、小一郎!? 兄者の猛進は、賤ヶ岳での血戦へと突き進むのですよ!


【『豊臣兄弟!』にも登場する?秀吉ド派手プロデュース3選】

勝秀を喪主として大徳寺で葬儀を執り行ったあたりから、秀吉の派手好み、大掛かり好みが始まります。さまざまなエピソード、逸話をもつ秀吉プロデュースのイベントのなかから、ド派手な3選をピックアップ! 天下人へと駆け上がる過程で、政治や権力示威の武器として「魅せる演出」を最大限に活用した秀吉を象徴する3選です。

■使用した金は60kg!「黄金の茶室」

千利休をはじめとする当時の茶人が重んじたのは質素で静かな雰囲気の美意識「侘び・寂び」でしたが、その真逆を好んだ秀吉。その派手好きを最も象徴する造形物が「黄金の茶室」です。

壁、天井、柱、障子の骨組みに至るまで、金箔や薄く延べた金の板を張り付け、畳代わりに金襴織物を、障子には赤い絹地を張った茶室。茶碗や茶入、茶杓、茶釜や柄杓、道具を飾る台子(だいす)などは純金(24金)製だったとか。金箔、金の板、金塊あわせて60kgが使用されたといわれています。

しかもこの茶室、どこかに建てたのではなく、なんと解体して持ち運べるポータブル茶室! 秀吉の大阪城に設置されたほか、御所へ持ち込んで天皇に茶をふるまったり、九州遠征の拠点となった名護屋城に運んで出兵の景気づけに茶を点てたりと、各国の武将や公家らに自らの絶対的な富と権力を見せ付ける演出道具として使われました。

神奈川県熱海市にあるMOA美術館、大阪城天守閣、佐賀県立名護屋城博物館などで、この黄金の茶室の復元展示が見られます。

■身分を問わず参加OK!「北野大茶会」

天正15(1587)年10月1日、九州平定と京都の秀吉の邸宅「聚楽第(じゅらくだい)」の完成を祝して、北野天満宮の境内全体で開催した前代未聞の超ビッグ茶会です。

この茶会、「茶の湯の心得があれば大名から農民から町人、外国人まで、身分不問で参加可能」といった札を出したとか。筆者も茶道の稽古に通った経験があるので、当時に生きていれば参加できたというわけですね。当日、北野天満宮の境内には、なんと数百ともいわれる茶席が設けられたのだとか。

拝殿にはあの「黄金の茶室」が鎮座し、秀吉自慢の名物茶器がずらりと並び、その力を見せ付けました。その一方で、秀吉自ら一般の人々に茶を振る舞ったのです。茶人としてというより、名イベントプロデューサーとしての顔を広めることで、己の価値を下々の人々へも知らしめようという狙いがあったようです。

正式な参加人数は不明ですが、公家・吉田兼見の日記『兼見卿記』には、約800名の参加者は8人グループに分けられ、くじ引きによって秀吉、千利休、津田宗及、今井宗久いずれかの席に入り、彼らが点てた茶を飲んだ、と記載されています。秀吉ら亭主4人がそれぞれ約200人分の茶を点てたことになります。

開催は10日間と案内されていましたが、実際に行われたのは初日の1日限り。肥後国で大規模な一揆勃発の報が入ったためとか、想定より客が集まらなかったとか、茶を点てまくった秀吉が疲れて嫌になった…など、理由はさまざまに想像されています。

■桜を700本植樹!「醍醐の花見」

慶長3(1598)年3月15日、秀吉が亡くなる数か月前に京都の醍醐寺で開催した、人生最後の壮大な宴です。この花見のために、全国から選りすぐりの桜の木を約700本取り寄せ、醍醐寺の境内に植樹させました。

北政所(寧々)や、淀殿(茶々)をはじめとする正室、側室、女房衆をはじめ、約数百人が参加したといわれています。秀吉は身内に最高級の着物を何着も新調させ、「2回のお色直しを含む計3着の豪華な衣装で境内を練り歩く」という演出までプロデュースしました。

この茶会の様子は美術作品の題材にも。名古屋市博物館所蔵の『太閤花見図屛風』にも描かれていますが、本作は同館で2026年9月5日(土)から11月1日(日)まで開催される特別展「名古屋には秀吉がおるでよ!―秀吉と尾張の歴史―」に出品されますよ。


【次回『豊臣兄弟!』第32回「賤ヶ岳の決闘」あらすじ】

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信雄(山脇辰哉さん)を味方につけた秀吉(池松壮亮さん)は、信孝(結木滉星さん)との戦に圧勝、三法師(清水伊織さん)を奪還する。勝家(山口馬木也さん)が雪解けを待ちつつ秀吉との戦の準備を進めていると、利家(大東駿介さん)の元の思わぬ人物が訪ねてくる。やがて春が訪れ、羽柴・柴田両軍は賤ヶ岳で対峙。にらみ合いが続くなか、信孝が岐阜で再び挙兵したという知らせが入る。秀吉は小一郎(仲野太賀さん)にあとを任せ、岐阜へ向かうが…。

※『豊臣兄弟!』第31回「これで、お別れにございます」のNHK ONE配信期間は2026年8月23日(日)午後8:44までです。

※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料: 『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/『大河ドラマ 豊臣兄弟! 超おもしろファンブック』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『戦国大名の遺宝』(山川出版社) :