【目次】

【第41回のあらすじ】

徳川家康(松下洸平さん)を臣従させるためのカードとして、秀吉(池松壮亮さん)が断腸の思いで妹のあさひ(倉沢杏菜さん)を嫁がせたのは前回のお話。ところがそのカードだけでは効果がなかったようで、一向に家康の上坂はありません。そこで次の策は…と石田三成(松本怜生さん)が口にしたのは、いまは大政所(おおまんどころ)と呼ばれる、秀吉たちの母なかを家康に差し出すということ。なかの孫である秀次(山田涼介さん)は「おばば様を差し出すなんて!」と声を荒げますが、秀吉と秀長(仲野太賀さん)もそれしかないと思っていたようです。

とはいえ、妹に次いで実母まで…と逡巡する気持ちを抱えたふたりが訪れたのは、侘びた風情の千利休(吉岡秀隆さん)の茶室。「コテコテの大坂商人から、やっと茶人らしい風情になったな」と感じたのは、剃髪した頭に頭巾をかぶっていたから。筆者には、利休の肖像画で見慣れた姿だったのです。ちなみにこの頭巾は「宗匠頭巾」や「茶人頭巾」「利休頭巾」などと呼ばれます。

(C)NHK
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苦い茶を飲んで腹をくくった兄弟は母なかの元へ。すべてを飲み込んで息子たちを歓待し、徳川の人質になることを受け入れていた母の強さと深い愛情に、多くの人が涙なくしては見られなかったでしょう。

妹のみならず大政所まで差し出すとは…と秀吉を卑下する家康でしたが、それを咎めれば徳川家康は礼儀知らずの臆病者と世間は見るというあさひの言葉に、意外にもあっさり上坂を決意。「礼儀知らずの臆病者」は、家康にとって(たぶん…身に覚えがあるからこそ)耐えがたい評価だったのでしょう。

が、食わせ者の家康です、そうすんなりいくわけがありません。今回裏切ることになった北条方から上坂途中に狙われたのだと小芝居を演じ、実は自身の手下に秀長を狙わせようという魂胆です。なぜ秀吉ではなく秀長なのか? 秀吉にとっての最大のダメージ――“秀吉の心臓部”が秀長だからです。

6万の軍勢と共に上坂するという魂胆スケスケな家康に、真(まこと)の心を得るにはわれらの真を見せるしかないと接待役を仰せつかった秀長は、秀吉の豪奢な大坂城を間近に望む自身の屋敷に家康を迎えました。

秀長の屋敷では、家康と秀長の緊迫したやり取りが見ものでした。兄さえいなければ天下をとれるやもしれない、わしの元へ来ぬかと挑発する家康。しかし、兄者を天下人にすると腹を括っている秀長の心は1ミリも動きません。

(C)NHK
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そして「最もつらく苦しかったことはなんじゃ」という問いかけに、百姓だったころの友が野盗に首をはねられたことや、いいなずけの直が村のいさかいに巻き込まれて殺されたことなど、秀長は全身から絞り出すように吐露します。そこにオーバーラップするように家康のつらい出来事が重なり…秀長も家康も、戦やいさかいで大切な人を失ってきました。「もう…争いで人が無駄に死ぬのを見とうはござらぬ」「戦ごときに大事なもん奪われてたまるか!」といった秀長のセリフは、そのまま家康の真でもあったのでしょう。

秀長をかばって矢に打たれた家康は、北条の仕業に見せかけて秀長の命を狙ったと告白。ついに真の心を見せ、秀吉に臣従すると腹を決めたのです。

「誰にもできないことをやってのけるのじゃ」「恐れず、己を信じて突き進むのじゃ」「熱意が人を動かし勝敗を決する」という、かつて家康に言われた言葉(出まかせでしたが)を信じ、前へ進んできた秀吉。本作第5回「嘘から出た実(まこと)」の“本当の真(まこと)”が、ここで完全回収されました!

(C)NHK
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しかし…秀吉はなぜ大坂で家康を迎えたのか? それは、豊臣政権の権力と財力の象徴である大坂城を披露したかったのではないでしょうか。ドラマでも秀長の屋敷に到着した家康の背後に、黒と金のド派手な天守をもつ大坂城がチラチラ映っていましたね。圧倒的なスケールを誇示する大坂城への家康登城が、臣従のクライマックスとして視聴者にも強く記憶に残ったはずです。

月代を剃り落した家康は関白秀吉に拝謁し、「本日ただいまより身命を賭して殿下にお仕えいたす所存」と正式に臣従。ここで秀吉の陣羽織を「いただきとうございます」とおねだりしましたね。自身の分身をともいえる陣羽織を家康に授けるのは、秀吉の強い信頼の証しです。ついに最大の宿敵・家康を、“義弟”とした瞬間でした。

家康の第一の腹心でありながら出奔して豊臣側についた石川数正(迫田孝也さん)の元を訪れた家康は、約束の酒を酌み交わしながら「あやつらより長生きして、最後に笑ってみせるわ」「おまえはそれまで秀吉に仕え、わしに通じよ」と、ほっこりするシーンも。

(C)NHK

今回放送「家康の野望」は、秀吉と秀長が大坂城の天守で太陽に向けて手をかざし、「お天道様のようになれとるかのう」と己を顧みて終わりました。さぁ、あとは境目のないこの空のように国をひとつにするだけです。 


【次回タイトルの「北野大茶湯」をさくっと予習!】

■「北野大茶の湯」とは?

さて、次回タイトルの「北野大茶湯(きたのおおちゃのゆ)」とは何のこと? 秀吉も茶人であったことはこの連載で何度も話題にしてきましたし、この時代の戦国武将と茶の湯が密接な関係にあったことはご存知でしょう。茶の湯はよくわからないけれど日本美術なら少々…という人なら、江戸時代末期に浮田一蕙(うきたいっけい)という絵師によって描かれた「北野大茶湯図」に覚えがあるかも? 秀吉の伝記『太閤記』などでも主要エピソードとして取り上げられたりもしています。

北野大茶湯とは、天正15(1587)年10月1日、秀吉が京都の北野天満宮とその周辺で開催した大茶会のこと。

この茶会のすごいところは、身分にかかわらず広く参加を呼びかけたことにあります。しかも客としてだけではなく、茶碗や茶筅などの道具さえあれば誰でも茶席をもてました。“空のように身分の隔たりも境目のない茶会”だったのです。

■前代未聞の茶の湯大イベント開催!

しかもそのスケールがハンパない! なんと建てられた茶屋は800とも1500ともいわれています。茶屋を建てる財力のない庶民は野点(屋外茶席のこと)でしたから、一体どれだけの茶席が設けられたのでしょう。北野大茶湯は、日本の茶の湯の歴史において最大規模かつ異彩を放つ歴史的な茶会でした。

なぜこんな突拍子もない大茶会を催したのか?

紀州、四国、九州平定を成し遂げて天下統一へと突き進んでいた秀吉ですが、京都にも基盤をと建設していた自身の大豪邸「聚楽第(じゅらくてい)」が完成。天下統一は目前だし、すんごいお屋敷もデキちゃったもんね…と、自慢したかったのでしょうか。天下人としての圧倒的な力に加え、文化的な主導権を誇示するパフォーマンス的な意味合いもあったともいわれています。

この大茶会は、秀吉のほか「天下三宗匠(てんかさんそうしょう)」と称えられた、堺の豪商で茶人の千利休、今井宗久(いまいそうきゅう/和田正人さん)、津田宗及(つだそうぎゅう/マギーさん)が茶頭(ちゃとう。主人のようなもの)を勤めました。

彼らの席に入ることができるのは…なんとくじ引きの当選者! 参加者はまずくじを引き、その結果によって秀吉、利休、宗久、宗及のいずれかの席へ数名ずつ振り分けられました。大名や公家、高僧などの特権階級や裕福な町人だけでなく、一般庶民や身なりの粗末な百姓までが、公平なくじ引きで席が決めれたという、まさにあとにも先にも真似できないような茶会だったのです。

神主で公家の吉田兼見の日記『兼見公卿(かねみきょうき)』によると、秀吉や利休の茶席に入れたのは803人とか。ところが奈良・興福寺の僧侶による『多聞院日記』によると約1600人とも記され、実際の数字は不明です。

しかも10日間の予定が、開催されたのは10月1日限り。これは、身分にかかわらず人を集めた結果、治安が悪化してトラブルが多発したとか、九州平定直後に全国の大名を京都に呼びつけることが不測の事態を招くリスクがあったとか、秀吉の政治的なパフォーマンスは初日で十分示すことができたとか、秀吉や利休など茶頭がヘトヘトになって続けられなかったとか…さまざまいわれています。(※)

※僧侶の英俊が記した『多聞院日記』には、茶会が突然中止になった理由として、「肥後国で一揆が起きたため、武将たちが九州へ下向しなければならなくなったから」という旨が書き残されており、これも有力な中止説(通説)のひとつとなっています

次回「北野大茶湯」で、この前代未聞の茶会がどう描かれるのか…楽しみです!


【次回『豊臣兄弟!』第42回「北野大茶湯」のあらすじ】

秀吉(池松壮亮さん)が普請(ふしん/建築や修理、土木工事のこと)させた京の聚楽第が完成。秀次(山田涼介さん)は、その祝いに盛大な茶会を開くことを提案する。天下一統も道半ばのなか時期尚早だと秀長(仲野太賀さん)は反対するが、秀吉は利休(吉岡秀隆さん)に命じ、大名も商人も百姓も参加できる大茶会を北野で催すと決める。

(C)NHK
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茶会は盛況となるが、会場でキリシタン追放令に恨みを抱く者による刃傷沙汰が! さらに佐々成政(白洲迅さん)が治める肥後で大規模な一揆が勃発し…。

※『豊臣兄弟!』第41回「家康の野望」のNHK ONE配信期間は2026年11月1日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 完結編』(NHK出版)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/秀吉の智略「北野大茶湯」大検証(淡交社) :