アルデンテという言葉を知ったのは、大学時代の終わり頃。それまでスパゲッティといえば、弁当にちょこっと入っているケチャップ味の添え物か、洋風の食堂やカフェで出されるナポリタンくらいしか食べたことがなかった。アルデンテ初体験は、外苑前の『タヴェルナ・アズーラ』。今や老舗のこの店で、ガツンと衝撃を受けた。

スパゲッティって、噛んで美味しいモノなんだ。ゆるゆるのうどんが普通だった京都出身の私にとって、ここからイタリアンを巡る旅が始まったといっても過言ではない。ちなみに、この店のレジ横にはいつも小学館の伊和辞典が置いてあったのも何かの縁かもしれない。

美食の街、代々木上原で新感覚のイタリアンを食べる

イタリアレストラン『クインディ』

ビールはイタリアのクラフトビールがありました。リッチテイスト。
ビールはイタリアのクラフトビールがありました。リッチテイスト。

以来、イタリア渡航歴も10回を超え、国内外で訪ねたイタリア料理店は1000軒を上回り、いつの頃からか数えるのも面倒になった。そんなイタリアン愛好家の私が、ここ数年の都内の状況にはがっかりしていた。新しくオープンするイタリアンは、みな同じようなスタイルばかりだったからだ。少量多皿のコース、ビジュアル重視で美味しくはあるのだが、パスタがなければフレンチでも北欧系でもみな同じ。イタリアの個性、気概はどこへ行ったんだ、と日本のイタリアンの将来に一抹の不安を感じていた。何も量が多くて味が濃ければいいというわけではない。アジアの国々の中で日本の料理が、日本の中で京料理が個性的であるように、ヨーロッパ料理の中でイタリアンの独自性というものは、東京でも常に魅力あるものであってほしい。

10年ほど前から私は、料理人やフードジャーナリストと話すとき、スーパー・ローカルという言葉を何度も口にしてきた。地方料理は単なる郷土料理ではなく、地方の個性、独自性、創造力があり、記憶にも歴史にも残り、世代を超えて引き継がれていく食の文化だと。ガストロノミーという言葉が一般的になり、モダンスパニッシュ、北欧系といった流れに席巻された感のある東京で、イタリアンの立場が微妙な感じになってきた中、イタリア各地方の料理やその考え方を前面に押し出した印象の強いお店を期待したくなるのだ。

大人気で予約が全く取れない亀戸の『メゼババ』、いくらでもワインが飲めそうな神泉の『オルランド』、ローマ料理に特化した目黒の『ダル・ビルバンテ・ジョコンド』、会員制になり注目を集めている戸越の『ピッツェリア恭子』など、骨のあるイタリア魂炸裂のレストランが、私は個人的に大層気に入っている。

そんな私が今年最も注目しているイタリアンが代々木上原の『クインディ』だ。インディと名前が似てるから親戚の店でしょ、って赤の他人。でも他人とは思えなくて(笑)、出かけてみたら、とてもユニークなスタイルで素敵な味わいの店だった。

こんなメニューリストが、この日は8枚。
こんなメニューリストが、この日は8枚。

基本的にアラカルト。メニューを渡され見てみると、「おつまみ」から「メイン」までめくってもめくっても料理について書かれてあり、食材と簡単な調理の説明のみなのに8枚もあるぞ。

前菜2種、水茄子とキュウリを盛り合わせにしてもらいました。爽やか~白ワインが進む。
前菜2種、水茄子とキュウリを盛り合わせにしてもらいました。爽やか~白ワインが進む。

まずは「おつまみ」として、「大阪・泉州の水茄子と下蒲刈島のレモン」(700円)と「京都・上賀茂 田鶴さんの胡瓜」(600円)を注文。水茄子とレモンを組み合わせるとは! 瑞々しいキュウリはタイムとケイパーで和えてある。

鮮魚の前菜盛り合わせ「舟盛」。名前のイメージと違い、洗練された盛り付け。鱧から小肌(!)まで。
鮮魚の前菜盛り合わせ「舟盛」。名前のイメージと違い、洗練された盛り付け。鱧から小肌(!)まで。

次に魚介類が充実しているというので、迷った末、「舟盛」(1人前2500円)を注文。その後は迷うことなく「愛知 蝦蛄」のリゾット(1600円)、メインには「鳥取 次郎鹿」のグリル(3600円)を選んだ。

日本各地のこだわりの食材を巧に調理して、どれもしっかりインパクトのある味わいに仕上げている。日本の食材を使いこなすというのも、ある意味、スーパー・ローカルだろう。イタリアワインも充実しているが、日本ワインを多数用意しているところもいい。お酒は料理に合わせたペアリングも可能。じつはこの店、エントランス部分がショップになっていて、イタリアや日本のワイン、塩やオリーブオイルなどの調味料などがずらりと並んで販売されている。『Quindi』という店名はイタリア語の接続詞で、生産者と生活者をつなぐ意味合いがあるという。私は入店の際に物色していたのだが、それだけで楽しく、帰りがけにはお土産をゲット。しっかりつながってしまった(笑)

客の心をよく分かっている店なのだ。

シャコのリゾット! イタリアの魚屋でもシャコは普通に売られています。日本のイタリアンでももっと使って欲しい。
シャコのリゾット! イタリアの魚屋でもシャコは普通に売られています。日本のイタリアンでももっと使って欲しい。

確かにイタリアやオーストリアなどでレストラン併設のショップはよく見かけたし、東京でも昨年から『EATALYグランスタ丸の内店』などのように、レストランで食事をしてもらい商品の販売につなげるグローサラントも増えており、こうしたワインや食材を購入できるレストランは町場にも増えていくかもしれない。

鹿のグリル。噛んで旨いお肉。赤ワインが進む。
鹿のグリル。噛んで旨いお肉。赤ワインが進む。

しかし、単にそうした複合型のスタイルだからというのではなく、料理もサービスも客の心を分かってくれる店が、我々には一番嬉しい。最近では、あの山田宏巳シェフ(65歳!)が開いた『テストキッチンエイチ』は、客席数96席とグランドスタイルで、バブルの頃にイタリアンを堪能し尽くしたアクティブシニアも満足できるスタイルでもてなしてくれるという。2020年に向けて、東京のイタリアンもまた面白いことになってきた。

問い合わせ先

  • クインディ(QUINDI) TEL:03-6407-0703
  • 住所:東京都渋谷区上原2-48-12 東洋代々木上原コーポ 101
    営業時間:11時30分~14時(最終注文)、18時~22時(最終注文)
    ※店頭のショップは11時~23時(閉店)
    定休日:水曜日
    アクセス:代々木上原駅より、徒歩約5分

本文中に登場したお店の詳細はこちらからご覧いただけます。

この記事の執筆者
インド生まれの京都育ち、というのは冗談。京都で生まれ育ち、東京へ。人より長い大学生活を送るなか、バイトで漫画『セイシュンの食卓』に関わり、出版社に就職。雑誌編集者として食べ歩きをするうちに、ワインにハマり、週末自宅でMEN’Sクッキングをするように。訪ねたイタリアン・フレンチなどの軒数は国内外で2000軒超。サライ増刊『男のだいどこ クッキングサライ』、『美味サライ』編集長を経て、今は“なんでもやる課”(笑)。辻調理師専門学校の料理検定1級。クックパッドでのレシピ投稿数は100目前。
公式サイト:インディ藤田 のキッチン