映画監督なら誰しもアタマの中に「使ってみたい俳優リスト」が保存されていて、それを常に更新しているだろう。映画を観るほうのぼくたち映画好きも同じだ。勝手にそれぞれの「観たい俳優リスト」を作りあげ、イロイロ妄想するのが愉しいのである。
ここんところ10年、どちらのリストでもかなり上位にいて動かないのが、日本の役者なら、カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞の『万引き家族』のリリー・フランキーだという確信がぼくにはあるね。
作家・中村文則のデビュー作『銃』が映画化!
「村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキー」の役どころに注目せよ!
最近では、芥川賞作家中村文則原作の『銃』(武正晴監督・村上虹郎主演・制作はアノ奥山和由)の刑事役で出演している。正直申し上げて、たいして期待もしないで試写に赴いたわけだが、フランキーの凄まじい存在感に圧倒され、落ち武者のようになって帰宅したのだ(笑)。
主人公の、銃に見入られた学生、西川トオルを追い詰める役なのだが、そのネチネチぶりがなんともイヤらしい。なにかこうマインドコントロール的な、真綿で首をしめるようなアプローチなんですわ。どなるわけでもない、机を叩くわけでもない。カフェでブレンドコーヒーを二杯飲みながら、トオルの稚拙な受け答えの矛盾をやんわり指摘し、迫っていく場面の力は、フランキーの「得体の知れなさ」がなければ成立しない。
フランキーが映画監督に好まれるのはまさにその部分でしょう。
悪役を演っても悪役だけに終わらない。お人よしの好人物の裏に蠢く妖しさ。そういったものをセリフすらなしに出せてしまうのがフランキーなんでありますね。一筋縄じゃいかないこの「得体の知れなさ」を持っている俳優、そんなにたくさんいるもんじゃない。
「リリー・フランキーさんも、もう物凄かったです」
と、原作者中村文則にいわしめたフランキーのカフェシーンを観るためだけに劇場にいく価値アリです。
『銃』詳細
映画『銃』
公開時期:2018年11月17日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
キャスト:村上虹郎、広瀬アリス、日南響子、新垣里沙、岡山天音、後藤淳平(ジャルジャル)、中村有志、日向丈、片山萌美、寺十吾、サヘル・ローズ、山中秀樹、リリー・フランキー
企画・製作:奥山和由
監督:武正晴
原作:中村文則「銃」(河出書房新社)
脚本:武正晴・宍戸英紀
制作プロダクション:エクセリング
企画制作:チームオクヤマ
配給:KATSU-do、太秦
製作:KATSU-do
2018年/日本/カラー&モノクロ/DCP/5.1ch/97分
レイティング:R15+
『銃』公式サイト
ほかにこのテの役者さん、誰がいるかなあ。ぼくの「観たい俳優リスト」海外部門でもベスト5に入る、アメリカのビリー・ボブ・ソーントンなんかもそうだね。
予測不能の海外ドラマ『弁護士ビリー・マクブライド』シーズン2
近頃シーズン2がAmazon Primeで公開された『弁護士ビリー・マクブライド』(以下『マクブライド』と略。シーズン1でソーントンは、昨年のゴールデングローブ主演男優賞受賞)でもその特異な魅力は存分にでている。
役どころは、全米屈指の弁護士事務所を創設したエリート法律家が、担当した事件の綾で零落。カリフォルニアはサンタモニカの安モーテルに住み、昼間っから酒をあおって世を拗ねている……というところなのだが、その程度の設定ならハリウッドにはいくらでも候補俳優はいるだろう。だが、そこに何をしでかすか予測不能の「得体の知れなさ」という条件が加わると、ソーントンは候補者リストのトップに踊りでるのである。
2014年の主演作品テレビ版の『ファーゴ』(ソーントンはゴールデングローブ主演男優賞)の殺人者役でも発揮された「得体の知れなさ」ぶり。『マクブライド』ではその逆の立場になる弁護士役だが、関係ないんだね(笑)。ソーントンが演ると普通じゃなくなってしまう。
そもそもなぜ強大な相手(兵器メーカーとマクブライドが創設した弁護士事務所)を被告に勝ち目のない裁判を起こすのか。正義心や義侠心だけじゃ説明できない、なにかクレージーなところがあるんですね。そこの説明されない部分がぼくはいいわけ。きわめて今日的であるとすら思える。裁判中も、幾度となく悪質な妨害を受けるのだが、強烈なボディブローでダウンした矢吹丈のようにヘラヘラ笑いながら立ち上がり、相手に喰らいついていく。うまくいかなければサンタモニカの海岸で飲んだくれるわけさ(笑)。
お洒落も素敵なヨットやクルマもいいけどさ、ぼくとしては、一度見たら捕らえられ、ロックされてしまうフランキーやソーントンの目が欲しいね。