梅雨という実感がないまま、夏本番になってしまった。この後も猛暑が続くに違いない。京都で生まれ育った私は、比較的暑い夏には強いのだが、じりじりと照りつける日差しに閉口することもある。夏の京都も蒸し暑い。

普通は夏休みに京都へ観光しようなんて、誰も言い出さないようだが、じつは夏の京都こそ、暑さを押してでも行く価値のある美味食材にあふれている。

美山町で獲れる天然の鮎は絶対的だし、野菜では賀茂茄子、万願寺とうがらし、丹波の黒枝豆など、夏の疲れを癒やしてくれる恵ばかり。中でも鱧(ハモ)はなくてはならない食材だ。京都人は鱧がなければ夏を越せない。

夏の京料理に欠かせない食材

京都の伝統的な鱧料理

もちろん京都にも「鱧落とし」はある。炙りが品切れで仕方なく注文。京都で予約至難店となってきた『東寿し』にて。

東京で鱧といえば、いわゆる鱧落とし。さっと湯通しして氷水でしめ、梅肉ソースで食べるのが一般的。しかし京都では鱧の食べ方は、天ぷら、唐揚げ、照り焼きなど多岐にわたり、イタリアンではリゾットやパスタに、スパニッシュではパエリアに使われたりもする。

私が個人的にも好きな調理法は炙りだ。これは鱧の皮目を軽く炙っただけのもので、ほぼ生の刺身に近い。お造りとして出す店もある。京都の夏の鱧といえば、これに尽きる。

繊細な食感と強い旨みがある鱧のお造り

京都の注目の『わしょく宝来』で出された「鱧のお造り」

先日、京都に立ち寄った際、急な夕立にずぶ濡れになりながらたどり着いた祇園の割烹で、鱧に出会った。ご存じの方も多いと思うが、鱧は骨の多い魚だ。食べるには骨切りという包丁の技術で細やかな仕事が必要となる。京料理の老舗にもなると、一夏の間に4000尾の鱧を骨切りするという料理人までいるほどだ。それほど京都の夏に鱧は不可欠。

まだ開業して日も浅い祇園の『わしょく宝来』も、ご主人が手際よく骨切りをして鱧を供してくれた。その透明感のある身は、宝石のようにきらめいて見える。トップクラスの素材を選んだうえで高い技術が繊細な食感と強い旨みを感じさせる。絶品だ。この日は淡路産のものだった。これが食べられるなら、ずぶ濡れになっても文句は言えまい。

夏季限定の名物「鱧すき」

東京・代々木八幡の『大野屋』、夏季限定の名物「鱧すき」。暑い夏に敢えて鍋だ。

この鱧を、逆にしっかり熱を通して食べるのも、また一興。暑い夏に汗をかきながら舌鼓を打つ、鱧の鍋だ。京都にも鱧しゃぶを出す店はあるが、東京・代々木八幡には「鱧すき」として出す蕎麦屋『大野屋』がある。すき焼きのようなものを想像してしまうが、実際には鍋。蕎麦屋なので、出汁にはうるさい。それで野菜などとともに煮るのだから、旨みの相乗効果となる。このお店、蕎麦屋なのに本格的なテキーラを出すことで有名で、日本酒やワインの品揃えも専門店やフレンチを凌駕するほど。店主は、この鱧すきにはシャンパンが合うと言うので、男ふたりでオススメの1本を空けてしまった。シメには残った出汁を使った卵とじを盛り蕎麦に添えてくれる。こればかりは、さすが東京だ。京都には真似できっこない。

鹿児島県・志布志市の鱧の天ぷらが載った特製丼。暑い夏は昼から食べたい。

鱧の産地は徳島や山口のほか瀬戸内が有名だが、早い時期は韓国産も立派。そして、鰻で有名な鹿児島県志布志市も鱧の産地。以前、都内で開催された鹿児島県のフェアで、志布志湾の宝石箱と呼ばれる鱧の天ぷらが載せられた丼を食べたが、ボリューム満点、酒が欲しくなる味わいで驚いたことがある。鰻が高騰して鰻丼もなかなか手が出せない中、夏バテ防止には鱧丼、という新しい流れを作ってほしい。東京在住の京都人として切なる願いだ(笑)

この記事の執筆者
インド生まれの京都育ち、というのは冗談。京都で生まれ育ち、東京へ。人より長い大学生活を送るなか、バイトで漫画『セイシュンの食卓』に関わり、出版社に就職。雑誌編集者として食べ歩きをするうちに、ワインにハマり、週末自宅でMEN’Sクッキングをするように。訪ねたイタリアン・フレンチなどの軒数は国内外で2000軒超。サライ増刊『男のだいどこ クッキングサライ』、『美味サライ』編集長を経て、今は“なんでもやる課”(笑)。辻調理師専門学校の料理検定1級。クックパッドでのレシピ投稿数は100目前。
公式サイト:インディ藤田 のキッチン