毎回、さまざまなテーマで私たちに新鮮さや発見をもたらしてくれる銀座メゾンエルメス フォーラム。2017年夏には、メキシコシティを拠点に活動する現代アーティスト、アブラハム・クルズヴィエイガス氏による、「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展が開催されました。

銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展時のアブラハム・クルズヴィエイガス氏
銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展時のアブラハム・クルズヴィエイガス氏

アブラハム・クルズヴィエイガス氏は、イギリスやアメリカでの個展や、各国でのビエンナーレなどの国際展に参加するなど、世界各国で精力的に活動を続けているアーティストです。

その作品の特徴は、訪れた土地のローカルな素材を作品に取り入れていること。石や段ボール、バケツやプラスチックケース、廃材や鉄屑、また動物の排泄物や植物などあらゆる素材を用いて、単体のオブジェから大規模な建築的インスタレーションまで、多岐にわたる制作を行っています。

今回も東京で手に入れた素材をふんだんに使用して、即興的な手作業や介入によって全く新しい彫刻を再構築。私たちが見慣れているものが、驚きの形でオブジェとなって使われています!

いったいどんなものがオブジェに変身?

銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の新聞や割りばしを使った作品
銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の新聞や割りばしを使った作品

エルメス・スタッフのご実家のレストランで使われた割り箸をリサイクルした枠に、古新聞を貼ったオブジェ。麻ひもで吊るされた鉢に植えられているのは朝顔。「この会期中に植物が伸びたり、あるいは腐ったりしても構わない。何かが起きていることが重要」とクルズヴィエイガス氏。

銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の葛飾北斎に影響を受けた作品
銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の葛飾北斎に影響を受けた作品

メキシコ西部の古い湖の写真を使ったポストカードを、引き伸ばしてキャンバスに印刷。この印刷物の上には、葛飾北斎の描いたナマズのタッチを参考にした両生類を手描き。金と黒の絵の具を混ぜて、日本画の雰囲気を意識。

銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の資料展示。廃材を使った椅子も並ぶ。
銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の資料展示。廃材を使った椅子も並ぶ。

クルズヴィエイガス氏のインスピレーションのもととなった資料などを閲覧できるスペースには、こちらも廃材を利用した椅子が設置。

銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にて、手押し車の椅子に座るクルズヴィエイガス氏
銀座メゾンエルメス フォーラムの「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にて、手押し車の椅子に座るクルズヴィエイガス氏

手押し車を使った椅子に自ら座るクルズヴィエイガス氏。

「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にてビデオを投影したのは段ボールのスクリーン
「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にてビデオを投影したのは段ボールのスクリーン

メキシコから来日した演奏家たちが、前出の新聞のオブジェの中でワステカ族の伝統音楽を奏でたビデオを上映。このオブジェの中で演奏することで、オブジェが音の反響装置のような役目を果たしたんだそう。

このビデオのスクリーン替わりにしたのは、リサイクルの段ボール。このスクリーンの台は、イサムノグチの家具からインスピレーションを受けて、エルメスで使用していたガラスや木材をリサイクルして組み上げています。

「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にて余った木材を利用したオブジェ
「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展にて余った木材を利用したオブジェ

友達に持ってきてもらった木材が余ったので、予定外に制作されたのがこちらのオブジェ。そんな即興性もクルズヴィエイガス氏の表現の魅力です。

「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の展示準備にまつわる紙袋やビニール袋を作品に変身させた。
「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展の展示準備にまつわる紙袋やビニール袋を作品に変身させた。

こちらも予定外のアート。新聞や雑誌の切り抜き、封筒、作業する中で食べたおつまみの袋、今回の展示を制作するために行った無印良品や東急ハンズの袋などを集め、青い絵の具を塗ったもの。これは“ブラインドセルフポートレート”という、自分がどこでどのように暮らしているかを表現しながらも、自分は写っていないポートレート、というシリーズのひとつとなりました。

その土地ならではの素材に、クルズヴィエイガス氏が幼少を過ごしたメキシコシティ郊外の文化が混じりあいながら生まれる新しいものたち。クルズヴィエイガス氏は作品の解説をすることを好みませんでした。そこから生まれたものの解釈は、見た人の中に委ねられているといいます。

私たちの見慣れたものが、違う文化や視点で新しく生まれ変わるのを目にしたとき、いったい何を感じるでしょうか? 目にした瞬間に感じる不思議さ、そして問いかけにより自らの中に生まれる感情、そういったものすべてを含めてのアート作品なのだなと思いました。

この「水の三部作」はパリから始まり、今回は東京、そしてロッテルダムへ移動していきます。クルズヴィエイガス氏はその旅の経験を次々と作品に重ねていくのでしょう。その履歴も追ってみたくなりました。

問い合わせ先

  • 「水の三部作 2」 アブラハム・クルズヴィエイガス展
    銀座メゾンエルメス フォーラム
    会期/2017年7 月2 日(日)まで ※終了
    営業時間/月~土曜11:00~20:00 (最終入場19:30)、日曜 11:00~19:00(最終入場18:30)
    定休日/不定休 ※エルメス銀座店の営業時間に準ずる。
    入場料/無料
    TEL:03-3569-3300
    住所/東京都中央区銀座5-4-1 8F
この記事の執筆者
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クレジット :
構成/安念美和子