優美な美しさの極みであるティアラは、お伽話のお姫様の象徴として出合い、幼少期にあこがれた記憶があるのではないでしょうか。宝石のなかでもただ美しいだけでなく、デザインには意味があり、時代も反映して実はさまざまなスタイルが存在します。

現在、三菱一号館美術館で開催中の「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界―1780年パリに始まるエスプリ」は、ナポレオン1世の皇后ジョゼフィーヌゆかりの品の初来日を含む、究極のティアラを鑑賞できるまたとない機会。あなたのなかのジュエリー観が、一気に変わるはずです。

目のくらむような、ショーメの眩いジュエリーの歴史の渦に没入

フランス・パリにおいて、ヴァンドーム広場に店を構えているのは、フランスの歴史において重要な役割を果たしてきたメゾンに限られています。なかでも1780年に設立されたジュエラー、ショーメは、創設者のマリ=エティエンヌ・ニトが王妃マリー・アントワネットのジュエラーとして協力。その後ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌ御用達となり、ヨーロッパ各国の上流階級の女性が儀礼や社交の場で身につけるなど、ショーメの歴史は18世紀後半から現代まで、約240年に及んでいます。

本展示では、現代まで受け継がれてきたショーメの様式美を、現在の作品を取り交ぜながら提示する、日本初の展覧会となっています。なかでも、「パリュール」と呼ばれる王冠とネックレスなどがひとそろいでつくられた装飾具の優美な美しさは、じっくりと鑑賞してほしいポイントのひとつ。実際に身につけたところが描かれた絵画も展示されているので、ぜひ見比べてみてくださいね。

皇妃ジョゼフィーヌに授与されたカーネリアン・セット
「皇后ジョゼフィーヌに授与されたカーネリアン・セット」1809年
皇妃ジョゼフィーヌが所有していたマラカイトのカメオつきパリュール
「皇后ジョゼフィーヌが所有していたマラカイトのカメオ付きパリュール」1810年
ブドウの房のパリュール
「ブドウの房のパリュール」1825年ごろ

女性の美しさを引き立てる「ティアラの芸術美」に感動

一度はお姫様のように身につけてみることに憧れるティアラ。イラストではなんとなく凹凸がある形を描いて表現しがちなティアラですが、実際にはそのスタイルはさまざま。実はナポレオンの権威を示すべく、皇后ジョゼフィーヌからティアラが脚光を浴びるようになったそうです。3つ目の部屋では、美しいデザインのティアラ19点を展示しています。

ベイン・ホイットニー夫人(ガートルード・ヴァンダービルト)の翼のティアラ
「ベイン・ホイットニー夫人(ガートルード・ヴァンダービルト)の翼のティアラ 1910年
カロリーヌ・ミュラ(ナポレオンの妹)のインタリオ・ティアラ
「カロリーヌ・ミュラ(ナポレオンの妹)のインタリオ・ティアラ」1810年ごろ

また、反対側の壁面にはニッケルでつくられたティアラのレプリカを展示。ショーメのヴァンドーム広場にあるティアラのサロンでは、顧客が新たなティアラを注文する際は、「マイヨショール」と呼ばれるレプリカを見本に、新たなティアラを創り上げています。そのティアラ制作の前段階のマイヨショール200点を壁面にディスプレイし、ティアラを下から見上げるという新たな視点も演出。こちらの部屋は撮影可能となっています。

黄金の壁に飾られたティアラ
ティアラ制作の前段階のマイヨショール200点を壁面にディスプレイ
整然と並ぶティアラ
宝石がなくとも、その優美なスタイルのみで美しいことがよくわかります

キネティック・アートであるジュエリーの魅力

ジュエリーは身につけてその美しさの真価を発露する芸術品。ショーメがこれまで創り上げてきた意石のカット、フォルムの美しさに加え、自然の生き物を無機物を使いながら躍動感を感じさせる宝飾品へと仕上げた到達点の数々は、200年の時を経た今も私たちに感動を与えてくれます。

今回の展示では、現代にも通じるマルチに使えるコスチュームジュエリーの数々も展示しています。

「アカスグリの葉の形をした髪飾り」 1853年
頭部に冠のようにつけたり、片側にまとめるなど、多彩な使い方が可能
「アカスグリの葉の形をした髪飾り」 1853年
頭部に冠のようにつけたり、片側にまとめるなど、多彩な使い方が可能
「ライジング・サン エグレット」 1914年
ベルエポック期にはティアラよりもカジュアルに、短いスタイルに似合うエグレットが登場。その重要な制作者もショーメでした
「ライジング・サン エグレット」 1914年
ベルエポック期にはティアラよりもカジュアルに、短いスタイルに似合うエグレットが登場。その重要な制作者もショーメでした
「6羽のダイヤモンドのツバメの連作」 1890年
幸運の伝達者の象徴であるツバメが6羽、徐々に小さくなる組み合わせでつくられています
「6羽のダイヤモンドのツバメの連作」 1890年
幸運の伝達者の象徴であるツバメが6羽、徐々に小さくなる組み合わせでつくられています

見た目の美しさを競うことについて是否はあります。しかし、その競い合いによりこのような芸術が求められ、より高みへと磨かれ、現代まで受け継がれてきた事実を鑑みると、自分へのご褒美として美を求めることは現状に満足しない向上心の現れなのかもしれない。数々の女性の肖像画や写真にみる誇らしげなまなざしに触れるなかで、ふとそんなことも感じられる展示です。

問い合わせ先

  • 「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界―1780年パリに始まるエスプリ」
  • 会場/三菱一号館美術館
  • 会期/2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
  • 開館時間/10:00~18:00(金曜、第2水曜、9月10日~13日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
  • 休館日/月曜(但し、9月10日、9月17日と、トークフリーデーの8月27日は開館)
  • 8月13日(月)〜17日(金)は10:00〜21:00まで開館
  • 住所/東京都千代田区丸の内2-6-2 三菱一号館美術館

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
北本祐子