ぎっしりと密度が詰まっているため、力を込めてブラッシングしても、毛が寝たり広がったりすることがない。服地を傷めないばかりか艶が出て、うれしいことに、風合いが増してくる。横浜郊外の団地の一室で石川和男さんがつくるのは、そんな洋服ブラシだ。

ブラシの曲線は熟練の職人にしかできない

おしゃれな方への贈り物としても最適なイシカワブラシ

力いっぱい払い出さないと埃は落ちない。だが、服地を傷めないか心配だ。それを解決した、当たりはやわらかなのにコシのある高級ウール、カシミア用の洋服ブラシ。¥100,000。全長は21㎝
力いっぱい払い出さないと埃は落ちない。だが、服地を傷めないか心配だ。それを解決した、当たりはやわらかなのにコシのある高級ウール、カシミア用の洋服ブラシ。¥100,000。全長は21㎝

一般に、洋服ブラシに用いられるのは豚毛か、本毛と呼ばれる馬の尾の毛だが、石川さんのブラシの素材は「尾脇毛」。馬の尻尾の根元に生える毛で、本来は筆の素材に用いられるものである。

長年勤めたブラシ屋から独立した石川さんは、20年ほど前に筆職人の扱う尾脇毛と出合った。やわらかなのに、しっかりとしたコシの強さがあることに驚いた。

分けてもらった尾脇毛で、洋服ブラシをつくってみることにした。筆職人に倣って、ブラシづくりの工程にはない、丹念な素材の選別も行った。こうして、かけすぎるほどの手間をかけて誕生したのが、デリケートなウールやカシミアの服地にふさわしい、これまでにない洋服ブラシだったのである。

2002年に「高級洋服ブラシ イシカワ」のウェブサイトを立ち上げる。ようやく1年が経ったころ、イタリアの高級洋服ブランド「キートン」から声がかかる。その最初の取引で、六本木ヒルズのショップを訪れた石川さんは、究極の素材、ビキューナを初めて手にする。その後、ビキューナのためだけに、やわらかな羊の毛でブラシをつくってしまったのだ。

そんなこだわりが功を奏して、ダンヒル銀座本店に、Dunhillのロゴ入りのブラシを置くまでになった。

また、ウェブサイトにも、「こういう洋服ブラシが欲しかった」「毛玉まで解れた」と様々なメッセージが書き込まれるようになった。「皆さんの声を聞くたびに、自分は間違ってなかったと感じます」

尾脇毛を選別する手を止めて、石川さんはうれしそうに語った。

※価格はすべて税抜です。※2008年秋冬号取材時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2008年秋冬号、あっぱれ! メイド・イン・ジャパンの極上名品より
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)
PHOTO :
戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材)