著名人が通ったバーとして、真っ先に名前があがる山の上ホテルの「バーノンノン」。訪れてみると、思いのほかの小ささに驚くことだろう。このスペースになごみ、グラスを傾けた作家は数知れない。山の上ホテルを定宿とし、晩年は著作だけでなく、趣味を兼ねた作画にいそしんでいた池波正太郎もそのひとりだ。

朝から晩まで山の上ホテルで過ごした池波正太郎

バーではいつもウイスキーを注文

カウンターに9席のみ。決まった時間にいつもの場所に腰掛けて、1日を締めくくるという人が少なくない。

毎朝、ロビーのライティングデスクに腰掛け、コーヒーを飲みながらスタッフと挨拶を交わし、夜はバーでビールやウイスキーをたしなんだ。

その著書『男の作法』(新潮文庫)には、「コップに三分の一くらい注いで、飲んじゃ入れ、飲んじゃ入れして飲むのが、ビールの本当にうまい飲み方なんですよ」と書かれている。「バーノンノン」でグラスを傾ける池波の姿は、そのように酒の美味さを熟知した飲み方だったのだろう。

名作と酒、その密なる関係

  • ダイヤ柄のステンドグラスの扉を開けると、珠玉の時間が待っている。
  • ワインバー「モンカーヴ」が会員制だったころ、池波正太郎も登録しており、ネームプレートが今も残っている。

ここはバーテンダーや隣り合った客との距離が近い。常連が醸し出す独特のムードもある。しかし、マナーさえ守っていれば、恐れるに足らないとバーテンダーはいう。大切なのは「人の邪魔をしない」こと。それさえクリアすれば、おのずと楽しめるわけだ。こんな隠れ家があれば、毎日はもっと楽しくなるだろう。

池波正太郎
(いけなみ・しょうたろう)
1923年に浅草で生まれ、小学校卒業後すぐ働く。長谷川伸に師事し新国劇の脚本・演出をしながら時代小説の執筆を開始。昭和35年、『錯乱』で第43回直木賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』など、戦国時代から江戸が舞台の人情味あふれる小説で人気を集める。美食を追求したことも有名で、『男の作法』や『食卓の情景』『よい匂いのする一夜』など、酒や食に関する随筆は今もファンが多い。昭和61年、紫綬褒章受章。平成2(1990)年、急性白血病で急逝。写真提供/文藝春秋

Data
東京都千代田区神田駿河台1-1 山の上ホテル本館1F
TEL:03・3293・2311
http://www.yamanoue-hotel.co.jp/
営17:00~翌1:30LO(日・祝日16:00~22:30LO)
無休
席数/9
アクセス/JR・地下鉄「御茶ノ水」駅より徒歩約4分。JR「東京」駅より車で約10分
カウンターのみのため予約不可。満席の場合、ロビーでウエイティングができる。

※2008年秋冬号取材時の情報です。

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
TAGS: