世界最高水準のベストセラーサルーン

かつて、メルセデス・ベンツにコンパクトモデルはなかった。1968年に独自のボディを用いた4気筒モデルが登場し、「コンパクト メルセデス」と呼ばれるようになったが、あくまでも従来モデルとの相対的なものであり、本当の意味でのコンパクト(5ナンバー相当)は1982年に誕生した「190シリーズ」がはじまりだ。好景気の日本でも大いに売れた「190シリーズ」はモデルチェンジを機に「Cクラス」と名を変え、現行型は4世代目。もはやコンパクトとはいいがたいほど大きくはなっているが、それでもDセグメントと呼ばれるサルーンのなかでトップクラスの完成度と人気を誇っている。

 

 

一見すると普通のCクラス、だが実は......

使いやすいサイズと手の届きやすい価格帯(427万円~)で、高品質なファミリーカーを望む層には理想的な「Cクラス」にも特別なモデルがある。それがメルセデスAMG「 C36S」だ。偏平タイヤに合わせてフロントフェンダーが左右それぞれ15㎜ずつワイド化され、空気抵抗を低減するエアロパーツをまとうとはいえ、クルマ好きでない人がみれば普通のCクラスにしか見えないに違いない。だが、ボンネットを開けると、そこにはメルセデスのモータースポーツ部門であるAMGがてがけた4リッターV型8気筒ツインターボエンジンが収まり、特別なモデルであることを静かに主張する。

ハイパフォーマンスは密かに愉しむべき

 
 

エンジンを始動させれば、その"特別感"はいっそう際立つ。体の芯まで響く野太いサウンドと大きいが不快ではない振動がドライバーを包み込み、アクセルを踏み込めばすさまじい加速で軽々とボディを引っ張っていく。強大なパワーを受け止めるために足回りも強化されていて、乗り心地は相当固めだ。普段使いでは少々快適さを損なうレベルだが、そのぶんワインディングでは路面に吸い付くように走ってくれる。ダイレクトなシフトチェンジが楽しめるメルセデス独自のスポーツ・トランスミッション「AMGスピードシフトMCT」でエンジン回転を高めにキープしながらの走りは実に猛々しくレーシーだ。

近年、F1をはじめとするモータースポーツで華々しい活躍をみせているメルセデス・ベンツ。その中核を担うAMGのパフォーマンスをワインディングで楽しみ、オンタイムではジェントリィなサルーンとしてさりげなく乗りこなす。そんな使い方ができるクルマはそう多くない。もっとも、手荒なドライビングは厳禁だ。アクセルをラフに踏み込んだり、急ハンドルでタイヤを鳴らすのは危険きわまりないし、第一格好悪い。サルーンであるかぎり、ハイパフォーマンスカーであることをパッセンジャーに気付かせないよう乗りこなすのが、大人の嗜みである。

〈メルセデスAMG C36S〉
全長×全幅×全高:4755×1840×1430㎜
車両重量:1790kg
排気量:6747cc
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
最高出力:510PS/5500~6250rpm
最大トルク:700Nm/1750~4500rpm
駆動方式:RWD
トランスミッション:7AT
価格:13,250,000円(税込)
(問)メルセデスコール ☎0120-190-610

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.2.11 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。