「ヴァンテージ GT8」
「ヴァンテージ GT8」

創業時からモータースポーツに力を入れていた

アストンマーティンは1913年の創業以来、高性能スポーツカーだけを少量生産してきた。レースに没頭していた創設者(ライオネル・マーティンとロバート・バムフォード)は第二次世界大戦終結後に経営から退くが、続いてオーナーとなった実業家のデヴィッド・ブラウンは、同じ英国の高級車ブランド、ラゴンダを買収し、現在に続くプレミアムブランドとしての基礎を作った。ちなみにラゴンダでエンジンを設計していたのはベントレーの創始者、W.O.ベントレーであり、彼が作った軽合金ブロック製の直列6気筒エンジンは、新オーナーのイニシャルを冠した「DB」シリーズのうち、2番めのモデル「DB2」に搭載された。

ラグジュアリーとスポーツ性を兼ね備えた稀有なブランド

「ヴァンキッシュ ザガート」
「ヴァンキッシュ ザガート」

創業者はもとより、のちに手に入れたラゴンダもモータースポーツで輝かしい実績を誇り、「DB2」のエンジンを設計したW.O.ベントレーにいたっては、戦前のル・マン24時間レースで5回の創業優勝を成し遂げている(ベントレーとして)。時は流れ、デヴィッド・ブラウンも経営から身を引いたが、現在もアストンマーティンはモータースポーツ部門の「アストンマーティン・レーシング」によって、WEC(世界耐久選手権)への参戦が続けられている。「DBシリーズ」が映画「007シリーズ」のボンドカーに採用されたこともあり、ラグジュアリーな面ばかり強調されがちだが(もちろんそのクオリティは素晴らしい!)、一方でスピードに賭ける情熱は、ドイツやイタリアのスポーツカーブランドにも決して負けていないのである。

すでに2モデルとも受注済みだが...

「ヴァンキッシュ ザガート」
「ヴァンキッシュ ザガート」

そんなアストンマーティンの哲学を如実に示す魅力的なモデルが登場した。ひとつは「ヴァンテージ GT8」(2770万円/MT)で、446馬力を絞り出す4.7リッターV型8気筒エンジンを搭載し、外装にカーボンファイバー製の空力をまとった硬派仕様。サーキット走行を想定した設計で、150台の限定生産だ。このスペシャルなモデル、日本への割り当ては4台で、残念ながらすでに受注は完了しているという。もう1台は、V型12気筒エンジンを積む「ヴァンキッシュ」のスペシャルモデル、「ヴァンキッシュ ザガート」(8510万円)。サガートは航空機の製造技術を生かした、空力性能に優れた車体設計を得意とするイタリアのカロッツェリアで、アルファロメオやランチアのスペシャルモデルをてがけてきたことで知られる。このサガート、実はアストンマーティンとの結びつきも強く、両社のコラボレーションは今回で5度目となる。600馬力の圧倒的なパフォーマンスもさることながら、曲線を強調した優雅なスタイリングが目を引く「ヴァンキッシュ ザガート」、こちらも99台の限定生産で、日本に割り当てられた2台はやはり受注済みだとか。ステアリングを握ることのできる紳士がうらやましい限りだが、美しさと速さをその時代最新の技術で表現し続けるアストンマーティンは、今後も魅力的なスペシャルモデルをリリースするに違いない。憧れのオーナーとなる可能性は、まだ十分に残されているのである。

(問)アストンマーティン ジャパン ☎03-5797-7281

この記事の執筆者
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。