弱冠25歳で会社を設立し、『パーカー』を誕生させたジョージ・サッフォード・パーカー氏。偉大なる曽祖父をジェフリー氏はどのように見ているのだろうか。
「『Stay hungry, stay foolish』というスティーブ・ジョブス氏の有名な言葉があります。これは曽祖父が持ち続けた好奇心に通じるものがあると思っています。育った家庭は裕福ではありませんでしたが、曽祖父は一般的な人以上に好奇心の強い人物でした。それは一種の才能と呼べるほどに。
世界を自分の目で見ることで『パーカー』の信念は築き上げられた
世界最高の万年筆はこうして生まれた
実際にその目で見て学ぶことを大切にし、興味深いことがあれば、すぐさま行動を起こしていました。ペンを創り始める前から持ち続けていた夢は、世界を旅すること。エッフェル塔や万里の長城といった有名なスポットも巡りましたが、思いもよらない風景や予測もできない出来事をとりわけ楽しんでいました。観光地よりも、予期しない出来事の方が大きく心が動き、思い出として深く心に刻まれたのでしょう。
旅の中で様々な人と出会い、話をすることで視野を広げました。これが優れたペンを作り、壊れたら修理をする、実にシンプルなアイディアへとたどり着きました。この発想がビジネスを発展させ、成功に導いたと確信しています」
『パーカー』の創業者として非常に重要な存在であるジョージ氏。ジェフリー氏にとって、曽祖父はどのような存在なのだろうか。
「ペンはパーソナルなもので、お客様の要望を聞いていかなければなりません。その点、彼は誰に対しても学ぶ姿勢を持っている人でした。『パーカー』は国ごとのマーケットに耳を傾け、そのニーズに応えるように努力しています。その姿勢は彼から受け継いだもので、今も大切にしています」
七宝焼にインスパイアされたモデルで『パーカー』人気を不動のものに
『パーカー』の象徴であり、“ビッグレッド”の愛称を持つ『デュオフォールド』、外観のみならず、手にした時の心地よさも追求している『ソネット』。『パーカー』にはアイコニックなモデルが数多く存在する。時代を彩ってきたペンの中で、ジェフリー氏が考えるエポックメイキングなモデルはどれだろうか。
「曽祖父は旅先で得たインスピレーションや体験を『パーカー』の商品に反映しました。アール・ヌーボーに影響を受け、ゴールドとスターリングシルバーを採用した『スネークペン』は、万年筆にラグジュアリーな要素を加えた歴史的なモデルだと思います。それは『スネークペン』が今ではコレクターズアイテムになっていることからもわかるでしょう。
もう一つは『デュオフォールド マンダリンイエロー』。これは1926年に日本を訪れた曽祖父が七宝焼の鮮やかな色合いに心奪われ、誕生しました。七宝焼の独創的な色合いをボディカラーで再現し、『パーカー』の人気を不動のものとした大切な1本です」
ブランド創業130年を記念し、今年は様々な特別モデルが登場している。その中の一つ、『ソネット スペシャルエディション』はジョージ氏が持ち続けた旅への情熱をデザインに反映している。『ソネット スペシャルエディション』の中でジェフリー氏が気に入っている1本はなんだろうか。
「それは難しい質問ですね(笑)。自宅にはたくさんのペンがあり、1本を選ぶのが本当に難しい。今日も『デュオフォールド』と『ソネット スペシャルエディション アトラスCT』の2本を持っていますしね。
「パーカー」130年記念モデル
『ソネット スペシャルエディション』は曽祖父が持っていた情熱と好奇心をみなさんにも知ってほしいと思い、旅をモチーフに開発したコレクション。『アトラスCT』は7大大陸の世界地図と北極から見た地球のダイアグラムがデザインされ、旅で抱くエモーショナルな感覚を呼び起こします」
これからも時代に合う高品質のペンを作り続ける
目まぐるしいITの進化で筆記具に触れる機会も減っている。そんな状況下で、『パーカー』はどのような道に進むのだろうか。
「デジタルは後々ものとして残りません。ペンはパーソナルなものですし、書いた文字は残り続けます。コミュニケーションする上で手書きは大切な手段で、滅びることはないでしょう。
ただ『パーカー』は、130年の歴史に甘んじていてはいません。品質のいい材料、高いレベルのクラフトマンシップ、革新の3つはこれからも大切にしながら時代に合ったモデルにチェンジしていくことで新しい道を見つけていくことが必要。商品を進化させ、若い人にも受け入れられるよう変えるべきところは、変えていきます。そして一人でも多くの人に『パーカー』の商品を“親友”としてもらいたいですね」
- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター