60年代から70年代にかけて、日本の男性ファッションを席巻したのが、アイビー・ルックを打ち出したブランド「VAN」だった。そのスタイルは銀座に「みゆき族」を生み、社会現象にまでなっていった。同じころ、文化出版局から発行されていた雑誌『NOW』が、斬新な誌面のデザインと記事で男性ファッションやカルチャーをリードしていた。

大坊珈琲店はクリエイターたちが好む時空間

香り立つ大きな木のカウンターが迎える

大きな木のカウンターとテーブル席が配された店内は、常に香ばしい珈琲の香りに包まれている。カウンターの上には、司馬遼太郎や池波正太郎など、店主の好みを反映した本がずらりと並び、『NOW』のバックナンバーもそろっている。店主がこだわりぬいた珈琲は、5種類のブレンドがある。30ℊ100㏄は珈琲豆30ℊを使い100㏄淹れたもの。25ℊ50㏄の最も濃いエスプレッソタイプからアメリカンタイプまでそろっている。ストレートはモカとブラジル
大きな木のカウンターとテーブル席が配された店内は、常に香ばしい珈琲の香りに包まれている。カウンターの上には、司馬遼太郎や池波正太郎など、店主の好みを反映した本がずらりと並び、『NOW』のバックナンバーもそろっている。店主がこだわりぬいた珈琲は、5種類のブレンドがある。30ℊ100㏄は珈琲豆30ℊを使い100㏄淹れたもの。25ℊ50㏄の最も濃いエスプレッソタイプからアメリカンタイプまでそろっている。ストレートはモカとブラジル

そんな70年代半ば、青山通りにできた「大坊珈琲店」にはVANの創始者であるデザイナー・石津謙介や、NOWの編集スタッフたちが訪れるようになっていた。それは、表参道がファッションの中心地となっていったころと重なっている。

珈琲の焙煎の煙に燻され、深い飴色になった現在の大坊珈琲店の中は、時間が止まったかのように静かだ。何人のアーティストや作家がここで、ひとりの時間や打ち合わせの時間を過ごしたのだろうか。大坊勝次さんが丁寧に淹れる珈琲は強い苦みの後にかすかな酸味と甘みがあり、口に含むと感性が研ぎ澄まされるようだ。この静かな空間にクリエイターたちが訪れた理由が、そこにあるのか。

  • 店内と調和するようにウォーターポットもいぶし銀
  • 雑誌『NOW』がそろう

窓の外はファッション・文化の聖地として時代を動かした、青山通り。窓からのやわらかな光が片隅のテーブルの小さな珈琲カップにさすと、そこで石津氏が柔和な笑顔で珈琲をすすっていた時間が思い出される。

※2011年夏号取材時の情報です。現在は閉店しています。

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2011年夏号より
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