日本の名喫茶の多くが京都にあるのは、この街が持つ、文化を育む度量の大きさゆえだろうか。今では東京から消えてしまった、パリやウィーンのような濃厚なカフェ文化は、京都ではまだ現役で輝いているのだ。

太宰治や藤田嗣治が愛した喫茶店「フランソア」

店内は現代のベルエポック

ドーム型の天井や今は再現することが難しいステンドグラスなどを配した店内は、クラシックそのもの。壁には絵画やジャン・コクトーの手紙が掲げられ、ベルエポックなカップやマッチが、芸術サロンとしてにぎわった時代の息吹を今に伝える

その一端を知ることができるのが、西木屋町にある「フランソア喫茶室」。町家が並ぶ一角に1934年に創業し、1941年に改装した店は、イタリア人の建築家ベンチベニの設計によるもの。豪華客船のキャビンをイメージしたというそのデザインは、昭和初期という時代にあって、非常に画期的なものだった。

画家、ミレーのファーストネームから付けられたという店名が示すように、芸術の香りに満ちた店には、当時まだ珍しかったステレオがあった。海外から届けられたばかりのクラシック音楽が流れる西洋スタイルの店は、新しい芸術に対して興味津々だった京都の人たちの心をとらえ、ほどなくして芸術や文化のサロン的な存在になっていく。

町家が並ぶ通りに現れる、パリのカフェのような店の外観。

フランスで成功を収めた画家・藤田嗣治が第二次世界大戦のため帰国し、この店に通いつめたのは1940年前後のこと。モンパルナスの「ル・セレクト」や「ラ・クーポル」といった名門カフェで、あまたの画家や文化人と議論をつくした藤田にとってフランソアは、パリ時代のかぐわしい思い出をよみがえらせてくれる場所だったのであろう。

写真家・土門拳がこの店に入りびたったのは戦後のこと。当時、土門は代表作『古寺巡礼』の撮影で京都・奈良を歩きまわり、合間にここで飲む一杯の珈琲は、撮影プランを練るための時間であったのかもしれない。

太宰治、フランス文学者・桑原武夫、音楽家・黛敏郎と多くの文化人、芸術家が時間を費やした店内は今も昭和初期の空気に満ちている。ステンドグラスからもれる光や壁に飾られた絵画は、長い時間が醸成した美にあふれている。そんな空間を日常的に愛し、今も利用する京都の人たち。カフェという文化が根付いている地の、深みがそこに見て取れる。

フランソア喫茶室
住所:京都府京都市下京区西木屋町四条下ル
TEL:075-351-4042
営業時間:10時~23時
1月1日、8月5日・6日、12月31日休
http://www.francois1934.com/

※2011年夏号取材時の情報です。

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