究極の肉焼きテクとは?

肉好きなら一度は訪れたいフィレンツェの名店「レジーナ・ビステッカ」

かつては印象派や未来派の画家たちが集うサロン的な古書店を改装ししてレストランとした。
昔の古書店のイメージを残した中二階には、本の代わりにワインが飾られている。

フィレンツェを訪れたことがある人ならば、名物のTボーン・ステーキ「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」を一度は食べたことがあるのではないだろうか? これは約1〜1.5kgの骨つき牛肉を炭火で焼いた豪快な料理で、通常は数人でシェアして食べるもの。名物なので大抵のレストランならメニューにあるが、実はその味わいや出来栄えは様々で「固くて美味しくなかった」とか「大きすぎて食べきれなかった」という声がしばし聞こえてくることも事実。果たして本当に美味しいビステッカを食べられる店はどこか? そんな疑問に応えるべく新しい発想とアプローチでこの永遠の命題に挑んでいるのが「レジーナ・ビステッカ」だ。

ダイニング・スペースも昔の雰囲気を残し、19世紀から20世紀初頭にかけての絵画が壁を埋め尽くす。

「レジーナ・ビステッカ」とはイタリア語で「ビステッカの女王」という意味。なぜ王様でなく女王なのか?というとイタリア語には男性形、女性形がありビステッカの場合は女性形になるから。「レジーナ・ビステッカ」はルネサンスの象徴である大聖堂ドゥオモからほど近い路地にあるのだが、実は最近までアンティーク本を扱っていた老舗古書店があった場所だ。イタリアの場合老舗を回想する場合は昔の雰囲気をうまく残すことが多いが、この店もやはり中世的な建築空間をうまくレストラン・スペースに改装。入り口のウェイティング・バーは重厚なヴィクトリア調で、奥のメイン・ダイニングは天窓からトップライトが差し込むシックな空間。赤いベンチシートは古き良きカフェ・ビストロを思わせるスタイルだ。

あちこちに飾られたアンティーク本や、書棚に使われていた什器が歴史を感じさせる。

「レジーナ・ビステッカ」でビステッカを食べる際はまず肉の種類を選ぶがメニューにあるのは6種類。ビステッカに最適といわれている地元トスカーナ州のキアニーナ。柔らかい肉質で人気があるイタリア中部マルケ州のマルキジャーナ。さらにスコットランドのブラックアンガスなど、いずれも丁寧に熟成させた食べ頃の肉を揃えている。そうしたブランド牛もいいが、おすすめなのがノービレ・セレクションで、これは「レジーナ・ビステッカ」が自らセレクト、熟成させたいわばハウス・ビーフでこの日は22日間熟成のリムーザン牛だった。

え?そんなに?と思うほど豪快に塩を振るヴィンチェンツォ・シェフ。

肉を選んだら次は重さだが、通常は1kgが2人前。1.5kg以上は3〜4人分だ。焼き方はいわゆるレアがアル・サングエで、ビステッカの正統的な食べ方とされるが、実はここに問題がある。

アル・サングエとは「血が滴る」という意味なのだが肉にナイフを入れた途端本当に血が出てくるようなビステッカは困りものだ。それは肉を焼いた後十分に休ませていないことが主な原因だが、カジュアルなトラットリアでは意外とそういうビステッカに会う確率も高い。

「それは経験則に基づいて肉を焼いているからで、わたしたちは科学的アプローチでビステッカを焼きます」というのはシェフのヴィンチェンツォ・ディ・ロレンツォ氏。生まれた時からビステッカを食べてきたような生粋のフィレンツェっ子であるヴィンチェンツォ・シェフにその秘密のテクニックを聞いてみた。

たかが肉焼き、とあなどることなかれ。シンプルな料理ほど難しく、ビステッカ道は奥が深いのだ。

まず肉は十分に室温に戻した後、片面だけオリーブオイルを塗り専用のグリルに乗せて炭火で焼く。炭は自動的に酸素が供給される専用ストーブで常に赤々と燃えるようキープしてある。

時々焼き面をのぞきながらしっかり焼き色がついたら肉をひっくり返し、ここで初めて塩をふる。

脂が焼けてくると通常かなり煙が出るのだが「レジーナ・ビステッカ」の換気扇は水のフィルターを使って、煙を水蒸気として排出する特別製。

これは大聖堂に近いという環境を配慮したもので、いわゆる無煙ロースターだ。反対側も焼けたら同じく塩を振り、今度は料理用温度計で肉の芯温を計測。骨と脂身のちょうど中間部はレアの場合35〜40度、ミディアム48度、ウェルダン50度ときちんと温度管理して焼き加減を決める。

理想的に火が入ったら今度は52度に保たれた専用の保温庫で3〜5分肉を休ませる。こうすることで肉汁が肉全体に周り切った時に血一滴も流れないレアの状態を保つのだ。

よく切れるナイフを使い、肉を切り分けるのはカメリエーレの見せ場。

テーブルにやってきたビステッカは、サービスのカメリエーレが優雅な手つきで切り分けてくれた。そして肉を見てみると確かにレアなのに肉汁は全く流れ出ていない完璧な状態。

試しに一口食べてみると外はしっかりクリスピーだが中はしっとり。和牛と違って赤身と脂が完全に分離しているので、繊維質の赤身は結構食べられてしまうのだ。

味付けは基本的に塩のみ。好みで上質なトスカーナ産のオリーブオイルをかけると炭火の香りと相まって、まるでどこかトスカーナ田舎家の暖炉脇で食べているかのような気分になる。

外はカリカリ、中はしっとり、全く肉汁が流れ出ていない完璧なビステッカ。

一口、また一口と食べ進むうちに気づけば1kgのリムーザンもあっという間に完食。見れば他のテーブルにも次々にビステッカが運ばれてくる。

「レジーナ・ビステッカ」を訪れる客の目当ては当然ビステッカで、毎晩平均で40〜50枚、重さにすれば50〜70kgのビステッカが焼かれるという。

そして日本の鉄板焼き同様、客に見せることもサービスの一環なので、ヴィンチェンツォ・シェフがビステッカを焼く姿がガラス越しに見られるようになっている。目で味わい、香りを味わい、肉を味わう。

「ビステッカ女王」にて、究極のビステッカ体験はいかがだろうか。

Regina Bistecca

www.reginabistecca.com/
Via Ricasoli,14r
Tel+39-055-2693772
12:30〜15:00、19:00〜22:30 月休

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。