神戸のかつての中心地であった元町の駅から山側へしばらく歩くと、山手風情が感じられる通りの中に「けんもつ珈琲店」がある。シックで垢抜けた内装の店内に落ち着き、丁寧に淹れられた珈琲が「ヘレンド」製の美しいカップで運ばれてくると、ここが京都の喫茶店でも東京の喫茶店でもない、まぎれもなく神戸という空気の中にしか存在し得ない場所だということに思いがいたる。

珈琲文化を育んだ神戸の名店「けんもつ珈琲店」

オークがシックな純喫茶

鰻の寝床のように奥行きがあって細長い店内。年を経るごとに色が深まったオークカラーの壁やテーブルに、店の歴史が刻み込まれている
鰻の寝床のように奥行きがあって細長い店内。年を経るごとに色が深まったオークカラーの壁やテーブルに、店の歴史が刻み込まれている

神戸はそもそも1878年に、日本で最初に珈琲豆が販売された地である。その伝説は以後、日本を代表する珈琲のメーカーを生んだことからもわかる。しかし、最初、もの珍しさから広がった珈琲も、生活の中に浸透するにしたがい、味はもとより店そのもののあり様や雰囲気が問われるようになっていく。

神戸に関する著作やエッセーを数多く残した作家・司馬遼太郎は、神戸にある独特の西洋のにおいを、進取の気風と地元愛によるものと考えていた。そのとおり、神戸っ子は珈琲を出す店にこの地の独自性を求め、喫茶店の
内装や接客などすべてを吟味し、今日の珈琲文化を育んできた。

ペーパーフィルターから香る珈琲

店主の監物以和貴(けんもつ・いわき)さんはペーパーフィルターで1杯ずつ珈琲を淹れ、豆を挽くたびにただよってくる香りが心をしずめる効果を実感させる。珈琲はブレンドのほか、ストレートが5種類ある。珈琲を引き立てるカップは、ヘレンドやマイセンなどヨーロッパの磁器でそろえていて、店主が客のイメージに合わせて最適のものを選んで出してくれる。
店主の監物以和貴(けんもつ・いわき)さんはペーパーフィルターで1杯ずつ珈琲を淹れ、豆を挽くたびにただよってくる香りが心をしずめる効果を実感させる。珈琲はブレンドのほか、ストレートが5種類ある。珈琲を引き立てるカップは、ヘレンドやマイセンなどヨーロッパの磁器でそろえていて、店主が客のイメージに合わせて最適のものを選んで出してくれる。

そんな神戸の薫陶を受けた「けんもつ珈琲店」は、無駄をそぎ落とした空間にしんとした静寂をたたえて迎えてくれる。そして、珈琲を飲むと、ここが男にとって理想的な思索の場だということがわかってくる。

けんもつ珈琲店
住所:兵庫県神戸市中央区下山手通4-11-1
TEL:078-332-3868
営業時間:9時~21時
土曜休
http://www7a.biglobe.ne.jp/̃kenmotsu-coffee/
店主自らデザインした暖簾が、神戸で思索する場の目印だ。

※2011年夏号取材時の情報です。

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名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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