大人が乗っても似合う、上質で深みのあるドライブ体験のできるクルマは、大柄で、それも輸入車が多い。そんななか、レクサスからこの冬に発売されるUXは、こなれた上質感と落ち着きのあるキャラクターだという。いち早く海外試乗を果たしたモータリングライターの金子浩久氏が、その出来栄えをリポートする。

大人が満足できる等身大のクルマ

全長4.5メートルに収まるサイズながら、堂々とした佇まい。
おなじみのスピンドルグリルを採用。全幅は1840ミリだ。
クーペのようなスタイリング。

 このごろ、同年代の友人たちから以下のような主旨の相談を受けることが急に増えてきた。

「子供たちもそれぞれ独立したので、もう大きなクルマに乗る必要はなくなった。これから何に乗ったら良いだろうか?

 若い頃はクルマを持つことやその性能次第で自分を拡大させてくれるような気がしていたけれども、これからはもう等身大のクルマで構わない。

 乗るのはひとりかふたり、3人以上乗る時はまれだから2ドアがいい。

 自分たちの時間ができたので、長距離のドライブ旅行によく出掛けるようになったが、楽しくて仕方がない。

 もう引っ越すのは億劫だけれども、田舎暮らしに憧れないこともない。引っ越すとしても家具や身の回りのものを新たに揃えることはもうないだろうから、大きなものをクルマで運ぶこともない。

 スキーに行く時は仲間のSUVに乗せてもらったり、シェアリングやレンタカーのSUVを利用するから、ますます大きなクルマに乗る必要がなくなった。

 そうなると、取り回しやすい小さめのクルマで充分ということになる。使い途を考えると、たぶん、そうだろう。クルマには興味と関心を失っていないけれども、日常のクルマは等身大がいい。

 かといって、軽自動車やコンパクトカーは選択肢に入らない。それらは若者や若い家族向けだからだ。速さとかスペースとか燃費とか「一芸」には秀でているのかもしれないけれども、大人が満足できる品質を備えたクルマがなかった。

 小さくても質感が高く、バランスの取れたクルマに乗りたい。長距離が苦でなく、長く乗り続けても飽きの来ないものがいい。
だったら、具体的には最近のクルマだったら何が良いだろうか?」

 という相談だ。もっともだと思う。

 小さいけれども上質なクルマというのが、これまでありそうでなかったからだ。輸入車の中にはあるが、ディーラーネットワークを考慮すると誰にでも勧められるというわけでもなくなってしまう。

 いつも歯がゆい思いをしていたけれども、レクサスが新たに発表したコンパクトSUV「UX」はかなり良い選択肢になるのではないかと、スウェーデンのストックホルムとその近郊を走りながら膝を打った。

ライフスタイルを見据えたエンジニアのメッセージ

和紙のような質感のパッドを配置。
シートのデザインも上品だ。

 ご覧の通り、UXはSUVとは言っても、アウトドアでのアクティビティを第一に想定したようなクルマではない。「Creative Urban Explorer」というキャッチフレーズが付けられている通り、街乗り主体だ。

 UXのパワートレインは2種類。2リッター4気筒エンジンとそれにモーターを組み合わせたハイブリッド版がある。前輪駆動と4輪駆動も用意され、レクサスの他のモデルのように「Fスポーツ」というスポーティバージョンが用意されているのも変わらない。すべてのバリエーションに乗ったが、UXは友人たちに勧めたくなる完成度を持っていた。

 それらの中で、最も魅力的だったのがハイブリッドの4輪駆動モデル。ハイブリッドならではの静かで、滑らかな加速が印象的で、日本の山道や高速道路などの長距離を走っても満足いけるだろう。

 操縦性や乗り心地なども中庸を得ていて、これならば長く乗り続けても飽きが来ないのではないか。

 和紙のような質感と刺し子をモチーフとしたインテリアの質感も高く、そのセンスも大人っぽくて好ましい。運転中はつねに対面しているわけだから、他人に見せるエクステリアデザインよりも大切だ。それに気付いたのも、自分が歳を重ねたからなのだろう。

 開発チーフエンジニアの加古慈さんが、プレゼンテーションで語った次のひとことが印象的だった。

「クルマを通じて豊かな時を過ごして欲しいです」

 国内外のほとんどの開発エンジニアは、その仕事への熱心さゆえに「クルマそのものを評価して欲しい」と言う。もちろん、それは間違っていないのだが、加古さんは「UXに乗ることで豊かな時を過ごして欲しい」と言った。

 クルマそのものなのか、あるいはクルマがもたらすその先にあるものを提示するのか?

 この違いは大きい。

 ただし、UXにも難点もある。

 ダッシュボードの中心位置という「特等席」に、使用頻度の少ないシートヒータースイッチが鎮座していたり、針を用いた古臭くて大きな燃料計や残量計、あるいは解像度の低いモニター式メーターなど、ドライバー・インターフェイスの構築が丁寧ではない。

 また、せっかく高解像度の大型モニターを中央部分に設けて最新のスマートフォンのようにクリアに見えるのに、メーターはガラケーのように粒子が粗く、ぼんやりとしか見えない。

「メーターはあれを使わなければなりませんでした。開発者として、あれがベストだとは思っていません」

 担当エンジニア氏に訊ねると、正直に答えてくれた。彼も開発者として悔しいのだろう。画竜点睛を欠いてしまっていて惜しい。

 その点を除けば、UXはキャラクターはやや薄味ながらも上質でバランスが採れている。こうした小型車を待ち望んでいた人は多いはずだ。レクサスUXが日本車待望の「小さな高級車」であることは間違いない。友人に勧めてみよう。

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この記事の執筆者
1961年東京生まれ。新車の試乗のみならず、一台のクルマに乗り続けることで得られる心の豊かさ、旅を共にすることの素晴らしさを情感溢れる文章で伝える。ファッションへの造詣も深い。主な著書に「ユーラシア横断1万5000km 練馬ナンバーで目指した西の果て」、「10年10万kmストーリー」などがある。
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