ロー&ワイドの美しいクーペボディにパワフルな大排気量エンジンを積む、新しいBMW・8シリーズが日本にお目見えした。贅沢なクルマならではのロマンは、BMW一流のロジックで形作られている。一足早くポルトガルで試乗したライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その魅力をリポートする。

伸びやかなスタイルの2+2クーペ

全長4855ミリ、全幅1900ミリ、全高1345ミリ。キドニーグリルは薄くなり、大型化したエアダム一体型バンパーとともにアグレッシブな印象を作っている。キャビンはルーフの前後長を短くしてパーソナル感を強調している。
全長4855ミリ、全幅1900ミリ、全高1345ミリ。キドニーグリルは薄くなり、大型化したエアダム一体型バンパーとともにアグレッシブな印象を作っている。キャビンはルーフの前後長を短くしてパーソナル感を強調している。
ボディパネルには抑揚が強くつけられリアホイール回りの存在感が強調されているのも特徴。リアは空力を重視して複雑な造型。リアコンビネーションランプはL字型でBMW車のアイデンティティをもたされている。
ボディパネルには抑揚が強くつけられリアホイール回りの存在感が強調されているのも特徴。リアは空力を重視して複雑な造型。リアコンビネーションランプはL字型でBMW車のアイデンティティをもたされている。

 クルマでドライバーの性別をどうこう言うのはおかしな話かもしれないが、男が乗って、とりわけカッコいいクルマがある。それは大型クーペだ。

 大型クーペがいいのは、スモーキングジャケットやシガーのように、乗るひとのライフスタイルのシンボルになる点だ。

 セダンなどは実用性が重視されるから、趣味性で勝負する余地は薄い。それに対してクーペは実用で買うものではないので、もろ、オーナーのテイストが反映される。

 英国人を例にとっても、彼らは伝統的に大型クーペが好きで、ロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンなども1950年代から魅力的なスタイルのクーペを作ってきたし、外国メーカーにとって大きな市場になってきた。米国も同様だ。

 私が最近いいなと思ったのが、BMWの新型「8シリーズ」である。のびやかなスタイルの2プラス2クーペで、まっさきに登場した「M850i xDrive」は4.4リッターV8という大きなエンジンを搭載している。スタイルもサイズも性能も、多くの点で「わかっている」おとなの紳士に勧められる内容だ。

 フロントマスクは上下幅を薄く、横に広げたキドニーグリルとやはり薄型のヘッドランプと大型エアダムを特徴とする。どちらかというとアグレッシブな印象が強い。

 側面に回ると全長4851ミリあるボディは伸びやかで、いっぽうフェンダーが力強くふくらんでいる。キャビンはあえてルーフの前後長が短く小ぶりで、前席を中心にしたパッケージが強調されているのだ。

 BMWはこういうデザインがうまい。しかも、たいていのスタイルに合うのが魅力である。それがファッションスタイルであっても、ライフスタイルであっても、マッチするというか、引き上げてくれるような気がする。

 新型8シリーズが最初にお披露目されたのは2018年6月のルマン24時間レースの会場だった。このタイミングを選んだのも、BMWならではといいたくなる。

 いまでこそルマンというと「LMP(ルマンプロタイプ)」というカテゴリーに属するモンスターマシンが幅を効かせているが、元来はスポーツカーのレースだった。

 BMWはその「伝統」に忠実に新型8シリーズをベースに開発したM8GTEというマシンを開発。2018年は各地の耐久レースで走らせている。新型8シリーズは紳士がレースを真剣にやっていた時代の雰囲気をよみがえらせてくれるクーペでもあるのだ。

スムーズに速く走れるM850i xDrive

エストリルサーキットはかつてF1グランプリで使われ、いまはモトGPの舞台となっている。4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、390kW(530ps)@5500~6000rpmの最高出力と750Nm@1800~4600rpmの最大トルクを発生。静止から時速100キロまで加速するのに要する時間は3.7秒だ。リアアクスルに組み込まれた電子制御式ディファレンシャルロックがすばやいコーナリングを可能にしている
エストリルサーキットはかつてF1グランプリで使われ、いまはモトGPの舞台となっている。4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、390kW(530ps)@5500~6000rpmの最高出力と750Nm@1800~4600rpmの最大トルクを発生。静止から時速100キロまで加速するのに要する時間は3.7秒だ。リアアクスルに組み込まれた電子制御式ディファレンシャルロックがすばやいコーナリングを可能にしている
着座位置は低めで操作類も機能的。シートはベンチレーション機能つきメリノレザー。メーターパネルには12.3インチの液晶が使用され地図表示もできる。8段スポーツトランスミッションにはクリスタルを使ったシフトノブが組み合わされている。
着座位置は低めで操作類も機能的。シートはベンチレーション機能つきメリノレザー。メーターパネルには12.3インチの液晶が使用され地図表示もできる。8段スポーツトランスミッションにはクリスタルを使ったシフトノブが組み合わされている。

 さきに触れた4.4リッターV8エンジン搭載のM850i xDriveにポルトガルはリスボン近郊で試乗することが出来た。ラインナップでもとくにパワフルなモデルを表す「M」をかかげていることからも、肝いりのモデルとわかる。

 最高出力は390kW(530ps)、最大トルクは750Nmと実際にパワーはたっぷりだ。後輪駆動主体の4WDシステムが組み合わされている。大きなトルクを4輪で吸収するのが、いまのBMWの考えかたなのだ。

 走りだしからトルクがたっぷりあり、加速していくときに力強い。その加速感が気持よく、多気筒エンジンならではの太いトルク感が好きなひとは、きっとすぐ気に入るだろう。

 操縦感覚はカリカリのスポーツカーではない。競合としてBMWの開発者は「アストンマーティンDB11や、ジャガーFタイプ(おそらくSVRだろう)」をあげていた。M850i xDriveはそれらよりはもう少し快適志向が強いモデルである。

 リスボン近郊は高速あり、細い山岳路あり、優雅なコーストラインありと、試乗コースは多彩だった。どの道でもしっかり楽しめたが、とりわけ高速と、ゆったりと流す海岸線の道では、インテリアもぜいたくに作られている8シリーズの美点を堪能できた。

 本当にスポーティなモデルが好きなひと向けには、近い将来、「M8」というよりレースカーに近い性能をもった車種の投入が発表されている。しかし今回、エストリルというF1でも知られたサーキットでの走行を含めての印象は、スポーティなドライブも充分楽しめるというものだ。

 とりわけドライブモードセレクターで「スポーツ」とか「スポーツ+(プラス)」を選択すると、スポーツエグゾーストシステムによる、いさましいエンジン音が室内に響き渡り、しかもそれだけでなく、実際にもっとも力の出るトルクバンドを維持しながら走行できるので、予想いじょうに活発なドライブが可能だった。

 四輪駆動システムは基本的にスポーツドライブを主眼としているので後輪へのトルク配分が多めになり、とりわけコーナーへのターンインなどでの素早さが追究されている。

 電子制御ダンパーを使ったアクティブサスペンションシステムには「アクティブスタビライザー」も組み込まれているし、左右輪の差動をつかさどるディファレンシャルギアにもスポーツ走行用のセッティングが施されている。

 電子の力を借りてより速くよりスムーズに、というのがM850i xDriveの特徴のようで、サーキットでも電子デバイスの介入が感じられる場面があった。ホイールスピンもなく、挙動が不安定になる場面もいっさいなかった。M850i xDriveの日本での価格は1714万円だ。

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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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