和食を食べるとき、見られているのは箸使いだけではありません。実は、正しい食器の持ち方・扱い方をすることも、意外と重要な要素。食器を雑に持ったり扱ったりすると、周囲にがさつな印象を与えてしまいかねません。また、間違った所作をすると、うっかり”そそう”をしでかす可能性も高まります。
特に12月を迎えるこれからは、忘年会などの飲み会が増える時期。社内の人だけでなく、取引先の前で恥をかくのは避けたいですよね。そこで今回は、マナー講師の平川直央子さんに、和食の食器の持ち方・扱い方でのNGマナーについて教わりました。誰かと気持ちよく食事をしたいなら、以下の8つは忘れないようにしましょう。
和食器の持ち方&扱い方に関する「NGマナー」8選
■1:小さな食器を「テーブルに置いたまま」食べるのはNG
洋食では原則として食器をテーブルの上に置いたままであるのに対し、和食では持ち上げる器と持ち上げない器があります。持ち上げる器と持ち上げない器は、どう区別すればよいのでしょうか?
「小鉢やお茶碗、刺身の醤油皿など、手のひらサイズのものは持って食べ、焼き物や天ぷらを盛り付けた平皿など大きいサイズのものは、テーブルに置いたままにします。
手のひらサイズより大きな器でも、汁物やご飯類の入った器は持ち上げても構いません。たとえば、うな重は重箱を持って食べてもよいですし、重箱を持ち上げにくければ、テーブルの上に置いたままでもOKです」(平川さん)
器のサイズや中身で判断。意外とシンプルなルールですが、これを押さえておくと安心ですね。
■2:熱い器を「無理に持ち上げる」のはNG
サイズ的に、茶碗蒸しは器を手で持って食べるのがマナーにかなっています。とはいえ、器が熱くて手で持ちにくい場合は、どうすればよいのでしょうか?
「茶碗蒸しに受け皿が付いていれば、受け皿ごと持ち上げます。もしくは、熱い器は無理に持ち上げず、テーブルに置いたままでもよいでしょう。ただ、食器をテーブルに置いたままでは、猫背になりやすいので要注意です。背筋を伸ばすことを意識しましょう。
それから、茶碗蒸しのように汁気を含むものを食べるときは、こぼさないように手のひらを添える“手皿”をやってしまいがちですが、これはマナー違反です。手のひらを添える場合は、直接添えるのではなく、手のひらに懐紙を乗せて添えるようにしましょう」(平川さん)
手皿を上品だと勘違いしている人は多く、グルメ番組でも見かけるほど。マナー違反をやってしまわないよう、和食の席では懐紙を持参しましょう。
■3:お椀のフタを「勢いよく」開けるのはNG
お吸い物のフタが、固くて開かない!……というのは、和食の席でありがちな事態ですよね。お椀のフタは、どうやって開けるのがスマートなのでしょうか?
「固いフタは両手をうまく使えば簡単に開けることが可能です。まず、右手(利き手)でお椀のフタを持ち、次に左手(利き手と反対の手)の親指と他の指でお椀の縁をそっと押しましょう。そうすると、お椀とフタの間に隙間ができてお椀のフタを開きやすくなります。
ポイントは、右手で“の”の字を描くように手首をひねってフタを開けること。フタが開いてもパッと勢いよく持ち上げず、お椀上でフタを斜めに傾けて、フタの裏側についた水気を椀の中に落としましょう。そうすることで、テーブルを濡らしてしまうのを防ぐことができます」(平川さん)
手首で“の”の字を描きながらフタを開ける所作は、見た目的にもとてもエレガント。また、フタから水滴がポタポタ落ちてテーブルを濡らすとお行儀の悪い印象を与えてしまいがちなので、一呼吸おいて、しっかり水気を落としましょう。
■4:はずしたフタを「片手で置く」のはNG
フタを開けて、水気を椀の中に落としただけで、気を抜いてはいけません! ここから先の所作にも、品性の違いが現れます。
「フタは逆さにして、両手でテーブルに置きましょう。置く場所は、お椀が一品で出てきたときはお椀の奥、複数の料理がある場合、テーブルの右手の料理はフタの右側、左手の料理のフタは左側です」(平川さん)
お椀のフタは小さくて軽いので、開けた後つい右手だけでテーブルに無造作に置いてしまう人も多いのでは? フタやテーブルを傷つけないためにも、左手を添えてそっと置くようにしましょう。
■5:フタをはずして「すぐに食べる」のはNG
さきほどお椀のフタを両手で扱うマナーをお伝えしましたが、もちろん、お椀も片手で持ち上げてお吸い物などをグビッと飲むのはNG! 両手で丁寧に取り上げましょう。さらに、ワンランク上のマナー美人を目指すなら、次の点も押さえておくべし。
「和食は味覚だけでなく、視覚や嗅覚でも味わうもの。お椀を取り上げて即、食べ始めるのではなく、一呼吸置いて香りや具材の見た目も楽しみましょう。それから最初の一口は汁をいただき、あとは具と汁を交互にいただきます」(平川さん)
食事の種類を問わず、あまり急いで食べるのはみっともないもの。とりわけ和食はゆったりと“間”を大切にしましょう。
■6:「フタに貝殻などを入れる」のはNG
食事中や食後において、お椀のフタの扱いでほかにも注意することはあるでしょうか?
「テーブルに殻入れがあれば、貝殻はそこに捨てますが、もしない場合、貝殻は椀の中に残しておきます。蒔絵などを傷つけてしまうおそれがあるので、フタに貝殻を出さないようにしましょう。また、食べ終わったらフタは開けたままにせず、元通りに戻します」(平川さん)
お椀のフタをゴミ箱のように扱うのはNG! また、食べ終わったフタを逆さにして、戻すのがよいと勘違いしている人もいるようですが、器を傷つけるおそれがあるので元通りに戻しましょう。
■7:土瓶蒸しの具を「土瓶から直接食べる」のはNG
和食のなかでも食べる機会が少なく、食べ方がよくわからない土瓶蒸し。器の扱いにおいて、何か注意することはあるのでしょうか?
「土瓶蒸しを食べるときは、まず土瓶からお猪口に出汁を注いで、出汁の香りと味を楽しみます。すだちを搾るのはその後ですが、土瓶に直接搾っても、お猪口に搾ってもかまいません。具は、土瓶から直接食べるのではなく、お猪口に移してからいただきましょう」(平川さん)
食べ慣れない土瓶蒸しの、上記の基本マナーを押さえておけば、お店で自信をもって食べられそうですよね。
■8:食べ終わった「食器を重ねる」のはNG
最後に食べ終わった食器の扱いについて。店員さんが片付けやすいように……という気遣いのつもりで、器を重ねるのは、NGなマナーです。
「デリケートな漆器や蒔絵のついたものなどは、重ねることによって傷つくおそれがあります。食べ終わったものは、そのままにしておきましょう」(平川さん)
どんなに美しい所作で食事をしていても、最後の最後で器重ねをやってしまうと、途端に残念な印象になってしまいます。自分で何かと手出しするのではなく、お店におまかせするのも、気配りやマナーの一種と心得ましょう。
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箸使いだけでなく、器の持ち方・扱い方もエレガントに! 和食を食べる機会に、今回ご紹介したNGマナーをやってしまわないように注意していきましょう。
愛されマナー学
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美