30年以上に渡り、南青山で成長を続けてきた
『バー ライペン』の前身は、1984年同じ南青山にオープンした『シエナ』というバーだ。もともとフレンチ料理店で修行していたオーナーの岡村康紀氏は、修行中にリカーのおもしろさに目覚め、バーテンダーになった経緯を持つ。当時から岡村氏の遊び場だったこともあって、南青山でバーを始める決意をした。
「80年代の南青山は夜遊びする人が多く、活気があってワクワクしましたね。『バー・ラジオ』が大人気で、その影響もあって街場でバーをしたいと思いました」
前店『シエナ』時代は20代だった岡村氏。リカーも、それ以外の知識もゲストに認められたい一心でできるだけゲストに合わせる接客を心がけていた。
「自分では一生懸命していたのに、あるお客様に『この店は熟成途中だね』と言われてムカッときたことがありました。それが澱のようにずっと心に残っています」
しかし、その意味を考え続けるうちに、じょじょに受け取り方が変わってきたという。
「全部だめな店は2度と行かなくなるし、かといってすべてが最上の店は堅苦しくて普段使いはしにくい。その点、発展途上の店なら気軽に通いたくなるのかな、と考えるようになりました」
そして15年続いた『シエナ』を閉め、英語で熟成するという意味を持つ『バー ライペン』を2004年にオープンさせる。店名には自身がいつか熟成できるよう、成長し続けたいとの思いを込めた。『バー ライペン』オープン時には岡村氏の接客に対する心構えも変わっていた。
「『シエナ』ではお客様に合わせていましたが、本来の自分は間違っていることには、率直に『違う』と言うタイプ。お客様には適度に歩み寄りつつ、自分が思ってもいなことは言わないスタンスに変えました。それが正解かどうかはわからないけれど」
女性の一見客でも訪れやすいバー
『バー ライペン』は、第2回で紹介した『アーツ』と同じビルにある。少しわかりづらい場所のため、ビルの前にはゲストに気づいてもらえるようサインを出してある。
そのまま階段を上がって店へ。カウンター9席、10名が腰掛けられる3つのテーブル席がある。女性の一見客が多いというが、アットホームなムードで、確かに初めてでも訪れやすい雰囲気だ。
カウンターで一人じっくり味わってもいいし、仲間とソファで寛ぎながら飲むこともできる。そんな雰囲気だ。
苦味、渋み、酸味が三位一体となったジントニック
1杯目はジントニックをオーダーする。
岡村氏が苦味、渋み、酸味が好みとあって、その味わいを引き出す工夫を様々にしている。ボンベイ・サファイアにジュニパーベリーを漬け込んでいるのも風味を出すためであるし、酸味が足りない場合はライムジュースをプラスすることもある。ライムを絞る際にだんだんとグラスから遠ざけていくのも苦味を加えるためだ。
一口含むと、酸味を強く感じる。岡村氏いわく「一口目もおいしいけれど、三口目においしさのピークがくるように作っています」とのとおり、苦味、渋み、酸味が渾然一体となって口中に広がっていく。
もちろんそれらの味が苦手であれば、ゲストの好みに合わせて調整してくれる。
「20代で年上のお客様に必死で合わせていたからこそ、合わせられるのだと思います。その経験がなければ、我が出て自分の味を押しつけていたかもしれません」
尖っていた20代の頃に年長のゲストに揉まれて丸くなった。すべての経験が生きている。
問い合わせ先
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バー ライペン
住所/東京都港区南青山3-2-6 セントラル青山No.5 2−A
営業時間/平日19:00〜26:00、土曜・祝日19:00〜24:00
定休日/日曜(月曜が祝日の場合は日曜営業。月曜が休み)
- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター
- PHOTO :
- 渡邉茂樹
- COOPERATION :
- ARTS