できる限りの情報を排した洞窟のような空間

何も情報を持たずに『バー カフカ』へ訪れたのなら、きっとどこに店があるか、迷うだろう。店の情報を示す看板は、何も書いていない黒板である。

『バー カフカ』の店頭

サインも店名がエンボス加工してあるだけで、わかりにくい。とてもではないが親切な店構えとは言い難い。

『バー カフカ』のサイン

店へつながる階段は薄暗い。一歩一歩ゆっくりと降りる。

店内へと続く薄暗い階段

扉を開けると真っ暗だが、奥からオーナー佐藤博和氏の「いらっしゃいませ」の挨拶が聞こえ、営業中だということがわかる。BGMは流れておらず、自分の息遣いだけが伝わってくる。洞窟の中に迷い込んだような気分だ。ほのかに白檀の香りが漂っていることに気づいた頃、目が慣れてきた。

『バー カフカ』のカウンター

店外の壁をはじめ、店内の壁や床、カウンターはコンクリートで無機質な印象を与える。そしてバックバーにはほとんどボトルを並べていない。

「私にとって良いバーとは、非日常性があること。そのため視覚からの情報量を極力抑え、お客様には日常から解放されていただきたいのです」

だから店頭にも必要以上の情報を出さない。徹底している。

非日常性を感じてもらうため、メジャーな銘柄を置かない

非日常性を大切にしていることは、置いてあるリカーにも現れている。メジャーな銘柄はほとんど置かず、希少なボトルを中心に揃える。

「加えて、限定品などは造り手の思いが込められているのでお酒として個性があるところも好きですね」

せっかくなら、この店ならではの1杯から始めようではないか。そこで出されたのがスコッチウイスキーのアンバサダーだ。

アンバサダーのボトル

アンバサダーは20世紀初頭には英国の公式レセプションで用いられていたが、1990年代には造られなくなった、今では手に入らない酒だ。このボトルは1970〜1980年頃に造られたものだという。水割りを注文する。

アンバサダーを注いだモーゼルクリスタルのグラス

19世紀に作られた金彩が美しいモーゼルクリスタルのグラスにアンバサダーを注ぐ。そこに常温の水を加え、ウイスキーと水をなじませるように、ゆっくりと50回ほど混ぜる。

丹念に水割りを混ぜるオーナー佐藤博和氏

最後に氷を入れ、水割りが完成する。

『アンバサダーの水割り』1,600円

30年以上かけてエイジングされたウイスキーのせいか、角が取れたまろやかな口当たりだ。冷えすぎた水割りはウイスキーの渋みが強く出るが、嫌な感じもない。

そしてこの1杯に合うと出されたマンチェゴチーズがまた合う。

サンルイの金彩プレートで出されたマンチェゴチーズ

アペタイザーも全てのリカーに出すわけではないと言う。

「お酒に合うものを出すのは当然ですが、お酒単体で味わっていただいた方がおいしいのであれば出しません」

と、真摯にリカーと向き合っている。

そしてさりげなく出された皿だが、サンルイだ。よりおいしく飲むための器を現在進行系で集めているとのことで、カウンター内のキャビネットにも希少なグラスが並ぶ。

カウンター内のキャビネットに並ぶグラス

徐々にこの静謐な空間が居心地よくなってくる。2杯目はジントニックを注文しよう。

問い合わせ先

  • バー カフカ
    住所/東京都港区南青山3-5-3 ブルーム南青山B1F
    営業時間/15:00〜L.O.23:3
    定休日/火曜
この記事の執筆者
フリーランスのライター・エディターとして10年以上に渡って女性誌を中心に活躍。MEN'S Preciousでは女性ならではの視点で現代紳士に必要なライフスタイルや、アイテムを提案する。
PHOTO :
渡邉茂樹
COOPERATION :
ARTS
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