BMWのベストセラー「3シリーズ」が2018年秋にフルモデルチェンジを受けた。期待大だが、本国でも発売は2019年3月になってしまう。ただしその前に試乗する機会があったのでご報告しよう。

ブランド特有のキャラクターを極めて濃厚に体現

全長4709ミリ、全幅1827ミリ、全高1442ミリと一回り大型化した(写真は330i M Sport)。
全長4709ミリ、全幅1827ミリ、全高1442ミリと一回り大型化した(写真は330i M Sport)。
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ロングフード、ロングホイールベース、ショートオーバーハングのボディを特徴としている。
ロングフード、ロングホイールベース、ショートオーバーハングのボディを特徴としている。
スポーティな330i M Sportは大型エアダムを備えている。
スポーティな330i M Sportは大型エアダムを備えている。

 新型3シリーズはまずセダンが発表された。車体は少し大きくなり、イメージは5シリーズに近くなったといえるかもしれない。エンジンラインナップは、2リッター4気筒のガソリンとディーゼル、3リッター6気筒のガソリンとディーゼル。後輪駆動が基本で、4WDの車種もある。

 私が乗ったのは、「330i」と、ディーゼルの「320d」だ。330iの2リッター4気筒エンジンは、190kW(258ps)の最高出力を持つ。いまBMWは2種類の2リッターガソリンエンジンを持つが、パワフルなほうである。しかも試乗車は「M Sport」仕様だった。

 このクルマの印象から書くことにする。日本でもスポーティな味付けの「M Sport」は3シリーズのなかでも人気が高いが、今回はよりキャラクターがはっきりして、足回りなどはかなり硬いのが印象的だった。

 このエンジンのパワフルぶりは驚くほどで、日本でも5シリーズやX4に設定があるものの、私にとっては初めての経験だったかもしれない。ごく低回転域からもりもりと力が出て、レッドゾーン近くまでパワー感が継続する。

 それに対して、新しいパーツで構成されたサスペンションシステムは、ある意味よいマッチングを見せる。コーナリングの速さも期待以上なのだ。車体のロールは少なく、スポーティなドライビングが好きなひとなら「気持ちいい!」と感激するのではないだろうか。

「過去6世代を通じてBMW3シリーズは世界で最も多く販売されたプレミアムカーであり、高性能パワートレインおよびサスペンションテクノロジーの先駆者」

 これがBMWによる定義なので、だとすると、まさに今回の第7世代は狙いどおりのモデルチェンジを受けたことになる。昨今のBMWは新しい技術によって代替燃料の可能性をさぐるいっぽう、スポーティなクルマづくりを得意としてきた自社のヘリティッジをことさら強調している観がある。

「BMWブランド特有のキャラクターを極めて濃厚に体現」とBMWが新型3シリーズを表現しているだけに、スポーツ志向が強まったのは故あることなのだ。

ウィンドウの輪郭は「ホフマイスターキンク」と呼ばれるBMWセダン伝統のかたちが守られている。
ウィンドウの輪郭は「ホフマイスターキンク」と呼ばれるBMWセダン伝統のかたちが守られている。

注目すべき2つの新技術とは

「BMWオペレーティングシステム7.0」により指先のスワイプやピンチアウトでインフォテイメントシステムの操作ができ、音声認識システムも使える。
「BMWオペレーティングシステム7.0」により指先のスワイプやピンチアウトでインフォテイメントシステムの操作ができ、音声認識システムも使える。
リバースアシストを作動させるとステアリングホイールボスに緑のライトが灯り、複雑なルートでもクルマは自動で後退する。
リバースアシストを作動させるとステアリングホイールボスに緑のライトが灯り、複雑なルートでもクルマは自動で後退する。
後席空間は広くなっているうえ、バックレストを倒すと長尺物も搭載できる。
後席空間は広くなっているうえ、バックレストを倒すと長尺物も搭載できる。
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 全長が85ミリ延長されるなど車体はひと回り大きくなっているが、軽量化も進められている。前後の軸重を50対50にすることをはじめ、重心高を効果的に下げるなど走りのために、軽量化技術は重要なのだ。最大で50キロ強軽くなったそうだ。

 ディーゼルの320dも、スポーティだった。まずこのエンジンがよい。140kW(190ps)の最高出力を発生する2リッターユニットには、低回転用と高回転用、2つのターボチャージャーを備える。その効果は走りだしてすぐわかる。

 ぐいぐいと加速していくうえに、トルクの頭打ち感がない。まるでガソリンエンジンのようにスムーズに力が盛り上がっていくのは痛快である。ディーゼルへの逆風が吹くなか、有効な環境対策を施しながらその未来を信じる技術者の信念のようなものを感じる。

 日本で売れている3シリーズのディーゼル仕様は現行モデルもいい出来だが、試乗車はオプションのスポーツサスペンションを備えていて、明らかに一線を画すスポーティさを持っていた。

 同時に、静粛性があがった感がある。Aピラー内部に遮音材を仕込んだことに加え、ウィンドシールドに遮音性の高いアコースティックグラスを採用したせいだろう。さらにロードノイズの遮断も効を奏している。

 室内の快適性の点ではスペースも重要なポイントである。ホイールベースが延びて後席が広くなったうえに、ドア開口部が広くなり、シートの座面高も上がり乗降性が向上しているのだ。

「革新的テクノロジー の先駆者」というのもBMWによる3シリーズの定義のなかに含まれている。新型では、2つ、注目すべき新技術が採用されているのだ。

 ひとつは「BMWインテリジェントパーソナルアシスト」である。AIによる音声認識システムだ。「ヘイ、ビーエムダブリュー」の呼びかけて作動し、多くの操作が音声で行える。

 試乗車では英語を選択して、「ヘイ、ビーエムダブリュー、アイム・コールド」と言ってみた。すると「室温の設定を1度cあげます」と(英語で)返ってきて、室内の設定が変わった。

 この調子で、カーナビの目的地設定や所要時間や現地の天候なども問い合わせることが出来る。スマートフォン(ドイツではギャラクシーだった)と連動しているので、予定を入れておけば、それを呼び出すことも出来、電話会議に車内から参加できるのだ。

 もうひとつのデジタル技術は「リバースアシスト」という。時速が36キロまでなら常にクルマは最後に前進した50メートルを記録している。ドライバーがモニターでリバースアシストを起動させて、ギアをリバース(後退)に入れると、車両が自動で同じルートをたどって後退をはじめるのだ。

 狭い道で後退しなくてはならないときや、駐車場で頭からパーキングスペースに突っ込んで出なくてならないとき(欧州では多い)に、効果を発揮してくれるシステムだ。実際に体験すると驚くばかりである。

 前に進む、ということを広義に解釈すると、新型3シリーズはスポーティであると同時に、技術の面でも大きく前に進んでいるのだ。そこに感心させられた。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。