「男らしさとは”女々しさ”と同義。強がり本心を隠したがることこそ男らしさ」(伊藤英明さん)
――公式サイトのエディの解説に「イタリア系アメリカ人の港湾労働者で、“男性らしさ”に固執し一家に悲劇をもたらす」とあります。ジェンダー意識について解釈や思考が深まっている時代に、あえて“男らしさ”という言葉を使っています。伊藤さんが考える“男らしさ”とはなんでしょうか。
「逆説的ではありますが、“女々しい”ということだと考えます。これは、実は結婚してから思うようになりました。いつまでもくよくよ悩み、いろんなことを引きずっているのに、それを隠そうとする。これが“男らしさ”だと考えています。
僕も若いころは、“女々しさ”を隠していました。ホントはやきもちを焼いているのに平気なふりをしたり、電話したいのにしなかったり、甘いものが好きなのに嫌いと言ったり…。そういう“女々しさ”を隠すのが“男らしさ”なんですよ。まさにエディですよね。本心を隠し、世間体を優先させたり、強く見せたりし続けていますから」
「でも、エディは自分の気持ちにウソをつき続けるから、やがて破綻していく。演じるにあたり、いろんなアプローチを重ねていくしかありません。そのひとつの方法として、エディの人物像を考えています。アメリカになぜ移民したのか、日々の生活の中で何を幸せに感じていたのか、家族を大切にして、仕事も一生懸命やっている人間が、なぜ悲劇を起こしてしまったのか…リアルにどういう生活をしていたかを突き詰めるからこそ、内面に抱えている何かがわかってくると思うのです。
そしてその内面から出ているものをどう表現していくのかということも大切。それを演出家と一緒に引き出していけたらと思っています」
――家族という近しい関係の人に、抱える嫉妬や愛情めいた感情は、実体験をすることはなかなか難しいとも思います。
「そうなんですよね。エディとはかなり違いますが、相手の行動を制限するようなことは、ひとつ年下の妹にしたことがあります。あれは中学生とか、高校生くらいだったかな。当時の僕は、妹に「早く帰ってこい」と親よりも口うるさいことを言っていました。妹が心配だったし、親に迷惑をかけさせたくない気持ちが強かったんでしょうね。「オヤジが言ってんだから早く帰ってこい」なんて親のせいにしちゃってね。僕が心配している気持ちを隠したかったんですよ」
「原作者のアーサー・ミラー氏は、マリリン・モンローさんと結婚していたこともあるんですよね。あんなに素敵な女性と結婚しているのだから、それは心配になるし、嫉妬もするだろうな…などと想像してみたりも。こういう、身近な経験からの想像が、役のヒントになったりするので、芝居は面白いです。」
「緊張したっていい。そのパワーをいい方向に使って行けたら」(伊藤英明さん)
――長い稽古の末に、1か月近くの公演が控えています。体力づくりのために意識していることはなんでしょうか。
「長丁場ですから、自己管理だけは気を付けます。例えば体調を崩した時は『なんで体調を崩したのか』と理由を考えるようにしています。あとは、早寝早起き。僕はだいたい22時に寝て、5~6時に起きることが多いですね」
「本番のことを考えると、緊張します。でも『橋からの眺め』に出会うまでは、緊張してはいけないという強迫感がありました。でも今は、緊張していいんだと受け入れ、いい方向に使っていきたいと思うようになりました。共演者もほとんどが初めての方です。マルコ役の和田君(和田正人)と、何度か共演したことがあるくらい。ただ、姪のキャサリンを演じる福地桃子さんは、彼女が小学生の頃から知っており、一緒に舞台に立てることが、楽しみです。
稽古を通じて、みんなでパフォーマンスを引き出し合い、僕自身も上がっていきたい。これが今の目標。おかげさまで、充実した稽古の日々を過ごしています。きっといい作品になりますし、してみせます。ぜひ、観に来てください」
最後まで飾らない言葉で話す伊藤さんに、今後の目標を聞くと「先輩方のように、後進に背中を見せられる俳優になりたい。それには人としてどうあるべきかを、問い続けるしかありません」と真剣な表情で語ってくれました。名作『橋からの眺め』が、どんな作品に仕上がるか、開幕はすぐそこです!
■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」
1950年代のアメリカを舞台に、イタリアからアメリカへと渡った移民の一家を描いた物語。港湾労働者のエディ(伊藤英明)は、妻・ビアトリス(坂井真紀)と最愛の姪・キャサリン(福地桃子)とともに暮らし、家族のために懸命に働いていた。そんなある日、違法移民として、妻の従兄弟のロドルフォ(松島庄汰)とマルコ(和田正人)がやってくる。キャサリンとロドルフォはやがて惹かれ合うようになる。我が子のようにキャサリンを育ててきたエディはそこで何を思うのか。“男性らしさ”に固執するエディが選んだ選択肢はとは? ひたむきに生きる男の悲劇を描いた社会派ドラマ。
作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明、坂井真紀、福地桃子、松島庄汰、和田正人、高橋克実
■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」
2023年9月2日(土)~24日(日)
東京都/東京芸術劇場 プレイハウス
2023年10月1日(日)
福岡県/J:COM北九州芸術劇場 大ホール
2023年10月4日(水)
広島県/JMSアステールプラザ 大ホール
2023年10月14日(土)・15日(日)
京都府/京都劇場
問い合わせ先
- ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL:0120-60-1966
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- トヨダリョウ
- STYLIST :
- 根岸 豪
- HAIR MAKE :
- 今野富紀子
- WRITING :
- 前川亜紀