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「1週間先、1か月先はどうなっていくのか。舞台は繰り返し積み上げていくもの」(伊藤英明さん)
――多くの映像作品に出演し、さまざまなキャラクターを演じ、年齢を重ねるほど深みがある役になっていると感じます。
「演技は現場で学んでいきました。先生に付いたり、学校に行ったりしたことはないんです。監督やカメラマン、共演者と一緒に演技を続けてきたとも言えます。先ほど「舞台が苦手だ」と繰り返してしまいましたが、実は稽古は大好きなんですよ。
自分の中でのルーティンができますし、ああでもない、こうでもないとみんなで話し合いながら、作品を作っていくことはとても楽しい。映像作品も、リハーサルが一番好き。ずっと作品作りをしていたいんです。『本番が来なければいいのに』と、いつも思っています(笑)」
「少ない舞台の経験で、映像作品との差異を語るなら、舞台作品は物語が時系列で流れていと言うことでしょうか。舞台は稽古を繰り返し、時間の流れを作って要素を積み上げていくから、持久力が必要。一方で、ドラマや映画は撮影の時系列がバラバラです。ラストシーンを最初に撮ったりすることもありますので、そのシーンにどれだけ演じられるか瞬発力が勝負。まったく別物だと感じます。
今は、舞台の稽古に入っていますが、1週間先、1か月先はどうなっていくのかと、楽しみです。この期間中、自分が何に気付いて、どのように本番に臨み、それを終えたときに、どんな自分に変わっていくのでしょうね」
「オファーをいただいてから、舞台俳優の先輩方にアドバイスを求めるようになりました。セリフの覚え方ひとつとっても、千差万別なんですね。ある人は、相手のセリフを聞き込み自分のセリフを引き出すと言えば、セリフを書いて覚え、台本にブレス(息つぎ)の位置まで書き込む人もいる。僕にはどれが向いているのが全くわからない。これは自分でとらえていくしかないんでしょう。
ただ、皆が口をそろえるのは、『本番はお祭りみたいなもんだから、何をやってもいいよ。楽しむことが大切』ということ。僕はまだまだその境地には遠いので、頑張るしかありません」
――『橋からの眺め』の原作はアーサー・ミラー。個人と社会が接する部分から、ドラマを構築して行く作風で知られています。この作品も、1950年代の移民問題を扱っています。
「オファーを受けてから、作品についての知識を深めました。まずは1955年にブロードウェイで初演してから、70年近く繰り返し再演を重ねている作品だと知り驚きました。ここまで壮大で、長い時間愛されているスケールの大きな作品に関わったことがありません。多くの人にとって、とても大切な戯曲をやらせていただく重みは日に日に増していきます (笑)。移民や家族の問題など、さまざまなテーマを扱っている。共演者も演出家もスタッフもいますから臆してはいられません。あとは、やるだけ! まるで新人のような気分です」
「役者としてみると、逆上したり激怒したりする、感情の起伏こそ表現には必要」(伊藤英明さん)
――伊藤さんが演じるエディは、真摯に生きているのに周囲の人間とずれていき、本人の思いとは異なる結末を迎えます。
「僕自身、そういう大きな”ずれ”を感じたことがないんですよ。この”ずれ”を生むのは、人と人の思考の違いだと思います。本人にとっては愛がある言動でも、相手にとっては、憎しみの言葉に聞こえることもありますからね。思考が感情を生み、それはやがて暴走していき、人をどん底に落としてしまう。
これは今年公開の映画『怪物』(是枝裕和監督)を観たときにも思いました。自分の思考だけで怪物を作り、落ちていく様子にゾワゾワしました。
エディは姪を溺愛し、我が子として育ててきた。結局、親子とはいえ男女じゃないですか。やがて、姪に恋人が現れる…生まれた嫉妬心は、親としてなのか、それとも男としてなのか…思考の”ずれ”に追い込まれていく。細かな感情の変化が、時系列で流れる舞台だからこそ、伝えられることのひとつだと感じています」
――実生活で「ずれ」や誤解があったときは、ケンカになると思うんです。プライベートで日々起こる行き違いなどは、どのように解決していくのでしょうか。
「お互い感情がたかぶっているときは、相手の言うことを聞かないので、ある程度落ち着いてから話すようにしています。余計なことを言ってしまい、相手を傷つけてしまうのは避けたいですから。落ち着くと、自分が相手に何を伝えたいか、相手は自分に何を伝えたいかを想像できるようになります。ケンカは勝っても意味がない。目的とゴールを決めてから話し合わないと、いい結末にはならないんですよ。
今、感情を爆発させることはないのですが、役者としてみると、逆上したり激怒したりすることは必要だとも思います。いろんな感情を体験することで演技に反映できますから。特にエディは入り混じった感情を抱えている。これを演技に落とし込むのは初めての経験です。どこで感情を増幅させ、どこで削るのか…演出家や共演者の皆さんと肉付けをしつつ、丁寧に演じて行きたいです」
アーサー・ミラーが多くの作品で描いているのは、相反する感情を同時に抱えることができる人物像です。それを伊藤さんがどう表現していくのか。「稽古は始まったばかりで、あくまでも今の気持ちを話していますよ」と何度も確認しつつ、誠実に気持ちを語ってくれた伊藤さん。3回目は、より深い役作りやルーティンについて伺います。
■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」
1950年代のアメリカを舞台に、イタリアからアメリカへと渡った移民の一家を描いた物語。港湾労働者のエディ(伊藤英明)は、妻・ビアトリス(坂井真紀)と最愛の姪・キャサリン(福地桃子)とともに暮らし、家族のために懸命に働いていた。そんなある日、違法移民として、妻の従兄弟のロドルフォ(松島庄汰)とマルコ(和田正人)がやってくる。キャサリンとロドルフォはやがて惹かれ合うようになる。我が子のようにキャサリンを育ててきたエディはそこで何を思うのか。“男性らしさ”に固執するエディが選んだ選択肢はとは? ひたむきに生きる男の悲劇を描いた社会派ドラマ。
作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明、坂井真紀、福地桃子、松島庄汰、和田正人、高橋克実
■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」
2023年9月2日(土)~24日(日)
東京都/東京芸術劇場 プレイハウス
2023年10月1日(日)
福岡県/J:COM北九州芸術劇場 大ホール
2023年10月4日(水)
広島県/JMSアステールプラザ 大ホール
2023年10月14日(土)・15日(日)
京都府/京都劇場
問い合わせ先
- ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL:0120-60-1966
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- トヨダリョウ
- STYLIST :
- 根岸 豪
- HAIR MAKE :
- 今野富紀子
- WRITING :
- 前川亜紀