どんなにグローバル化が進んでも、ものづくりにはそのブランドがもつ個性やお国柄が滲みでるもの。クルマがいい例で、英国車にはどこか貴族的な品格があり、ドイツ車は理詰めのきっちりとしたつくり、そしてイタリア車はデザインや運転のフィーリングという感覚的な部分を強調している。

ではフランス車はというと、飛び抜けた派手さやパフォーマンスでは控えめなものの、ほかとは違うこだわりが随所に感じられる。そのいい例が「Alpine(アルピーヌ)」。アルプス山脈に由来するブランド名をもつここのクルマは、独創的で快活さにあふれ、まさにアルプスの美しい山並みのように男たちを虜にする。

ラリーで伝説をつくったフランスの名門

1963年、ルノー「R8」をベースに開発されたのが、「旧A110」だ。写真は初期型。改良を重ね、1977年まで製造された。
1963年、ルノー「R8」をベースに開発されたのが、「旧A110」だ。写真は初期型。改良を重ね、1977年まで製造された。
1973年、モンテカルロ・ラリーでの「旧A110」。雪のアルプスを自在に走り抜け、伝説をつくった。
1973年、モンテカルロ・ラリーでの「旧A110」。雪のアルプスを自在に走り抜け、伝説をつくった。

アルピーヌというロマンティックなブランド名にピンと来た貴方は、きっと洒脱な着こなしを実践していると思う。クルマに詳しいかどうかは、あまり重要ではない。言葉だけでブランドイメージをつかみ、ファッションとしてのクルマを考えられる人。乗りこなす自分がイメージできるから、本当の“人馬一体感”も生まれる。

ではそのアルピーヌは、いったいどんなクルマをつくっているのか。現在、新車で手に入るのは、2017年にリリースされた「A110」という、2人乗りのスポーツカー。曲線主体でデザインされた、この美しいクルマは、昔も同じ名前で存在した。ここでは便宜上、「旧A110」とする。

アルピーヌはレーシングドライバーにして、ルノーのディーラーを所有するジャン・レデレによって、1955年にパリで設立された。手始めにルノーの小型車、「4CV」をもとに「A106」をつくりあげ、ミッレ・ミリアやモンテカルロ・ラリーといった世界的な戦いの場で、確かな存在感を示した。

そして、レースで得た技術と経験をもとに開発されたのが、「旧A110」だ。デビュー時のエンジン排気量は1リッター程度で、それ自体は猛烈にパワフルというわけではなかったものの、軽量なFRP製ボディ、そしてボディ後部に重量のあるエンジンを搭載することで、駆動輪である後輪に路面との摩擦力をしっかりと発生させる仕組みにより、とても機動性の高いスポーツカーとなった。

1971年には、欧州の強豪が集うモンテカルロ・ラリーで、「旧A110」は初優勝を遂げる。さらに1973年のWRC(ラリー世界選手権)では、初代のコンストラクターズ(製造者)チャンピオンに輝き、ラリー界を席巻した。

「フランスらしさ」とはなにか

「旧A110」のあとを受けて登場した、「A310」(1971〜1984年)。スタイリングはモダンになり、後期型は2.7リッターV6エンジンを積む「アルピーヌ・ルノー A310 V6」となり、ラグジュアリーなフレンチGTとして人気を博した。
「旧A110」のあとを受けて登場した、「A310」(1971〜1984年)。スタイリングはモダンになり、後期型は2.7リッターV6エンジンを積む「アルピーヌ・ルノー A310 V6」となり、ラグジュアリーなフレンチGTとして人気を博した。
80年代らしく直線的なラインを盛り込んだ「V6ターボ」(1984〜1991年)。
80年代らしく直線的なラインを盛り込んだ「V6ターボ」(1984〜1991年)。車体のレイアウトが近い「ポルシェ 911」(あくまでも構造上であって思想ではない)が日本で人気を誇った当時、通はこちらを選んだ。
好景気を背景にクルマが高級化していった90年代初冬に登場した、「A610」。構造が似た「ポルシェ 911」(あくまでも構造上であって思想ではない)が日本で人気を誇った当時、通はこちらを選んだ。生産終了後、A110の名前が復活する2017年まで、アルピーヌの名を冠したモデルは途絶える。
好景気を背景にクルマが高級化していった90年代初頭に登場した、「A610」。生産終了後、A110の名前が復活する2017年まで、アルピーヌの名を冠したモデルは途絶える。

一般的に、フランス人は物事に対してとても合理的だといわれる。シンプルで、必要十分な機能を求め、壊れたら直して使い続ける。いい例が自転車で、フランスではレースも盛んだが、それには「自転車は一度買えばずっと乗っていられる」という合理主的精神が含まれている。

アルピーヌのクルマづくりをみると、やはりフランスらしさがある。それも強烈に。上述した、必要十分なエンジン出力を創意工夫で活かしきる設計は、大排気量エンジンを積み、直線でのパワー勝負に重点を置いたライバルたちとは一線を画す。それはフランスのもうひとつの特徴である「自分は自分。他人と同じことはしない」という意識の強さの現れだ。

いわば、クルマづくりにおけるダンディズムの貫徹。ファッションの約束事を守りつつ、なんらかの形で自分らしさを主張するダンディのごとく、アルピーヌのクルマは揺るぎない価値観に基づいている。そもそもフランスは、ガソリンエンジン車が発明されてすぐに自動車レースを行ったモーターレーシング発祥の地であり、その誇りがある。

フランスが生んだ粋人、セルジュ・ゲンズブールを思い出して欲しい。彼の破天荒な生き様を象徴する着こなしは、緻密な計算に基づくものだった。だから、表面的な部分をなぞろうと思っても、ただのだらしない男になってしまう。アルピーヌの「旧A110」もまた、斬新で計算ずくの発想を具現化し、その優美なスタイリングと共に、ほかのブランドが真似しようとも本質にはたどりつくことのできない、圧倒的なフレンチダンディズムで貫かれていた。

だから男たちは「A110」に心を奪われる

フレンチブルーが眩しい、「A110」のコーナリングシーン。荒れた路面でも、しなやかなサスペンションでしっかりと衝撃やうねりを吸収していくのが気持ちいい。
フレンチブルーが眩しい、「A110」のコーナリングシーン。荒れた路面でも、しなやかなサスペンションでしっかりと衝撃やうねりを吸収していくのが気持ちいい。
椅子に座る文化が長いせいか、フランス車のシートは伝統的に座り心地がいい。体にフィットする、軽量モノコックスポーツシートの単体重量は、1脚あたりわずか13.1kg。
椅子に座る文化が長いせいか、フランス車のシートは伝統的に座り心地がいい。体にフィットする、軽量モノコックスポーツシートの単体重量は、1脚あたりわずか13.1kg。
高級素材で勝負するのではなく、与えられた範囲内でラグジュアリースポーツの個性を表現するのが、フランス流。センスのよさがほとばしる、ドアのトリムだ。
高級素材で勝負するのではなく、与えられた範囲内でラグジュアリースポーツの個性を表現するのが、フランス流。センスのよさがほとばしる、ドアのトリムだ。

「旧A110」とその系譜にあるスポーツカーのシリーズは、1995年にいったんピリオドを打った。だが、その後もアルピーヌは工場のあるディエップ(フランス北西部の大西洋に面した町)でルノーのスポーツカーを作り続け、2017年からは、「旧A110」をモチーフとしたまったく新しいスポーツカー「A110」を開発し、復活を遂げた。

キャビンの後ろにエンジンを積む設計は、「旧A110」譲り(厳密にいうと「旧A110」はRRと呼ばれる後部エンジン配置・後輪駆動方式で、「A110」はMRと呼ばれる後方エンジン配置・後輪駆動)。センターコンソールのスターターボタンを押すと、背後から252馬力の直列4気筒DOHC 16バルブエンジンのサウンドが聞こえてくる。

車体の軽さも継承された。車体を構成する膨大な部品のグラム単位にまでこだわり実現された軽量ボディは、まるで羽が生えたような、自由で機敏な走りを可能とする。乗り心地は、あくまでソフト。田舎町のラフでうねった道、中世以来の石畳、近代的なオートルート(高速道路)が混在するフランスで磨かれた足回りは、どんな場面でもしなやかで、切れ味も鋭い。

これぞ、不変のフレンチダンディズム!

他人とは違う生き様をよしとし、変態的ともいえるマニアックさに基づき行動する男にとって、これほどふさわしいクルマはない。均質的な生き方が求められがちな日本で、「A110」は無二の洒脱な選択肢として、われわれの前に迫る。

「A110」より最高出力で40PS上回る高性能モデル「A100S」が、昨年11月に日本で発表された。カーボン製のエンブレムやオレンジカラーのブレーキキャリパーなどが付く。
「A110」よりも最高出力で40PS上回る高性能モデル「A100S」が、昨年11月に日本で発表された。カーボン製のエンブレムやオレンジカラーのブレーキキャリパーなどが付く。
「A100S」のセンターコンソール。インテリアには随所にカーボンファイバー製パーツが使われている。
「A100S」のセンターコンソール。インテリアには随所にカーボンファイバー製パーツが使われている。
新旧の「A110」。初代の伝説を受け継ぎながら、よりモードなつくりで洒脱な男を魅了する。
新旧の「A110」。初代の伝説を受け継ぎながら、よりモードなつくりで洒脱な男を魅了する。

【アルピーヌA110 S】

ボディサイズ:全長4,205×全幅1,800×全高1,250mm
駆動方式:MR(後輪駆動)
トランスミッション:7速AT(DCT)
エンジン:1,798cc直列4気筒DOHC16バルブ
最高出力:215kW(292PS)/6,420rpm
最大トルク:320Nm/2,000rpm
価格:¥8,990,000〜(税込)

問い合わせ先

アルピーヌ コール

TEL:0800-1238-110

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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