世界最薄といわれるムーブメントの搭載など、時計愛好家の間でも大きな話題となったブルガリのタイムピース「オクト フィニッシモ」。この度、その独特な八角形のダイアルを舞台として、日本を代表する画家・千住 博氏とコラボレーションした限定コレクション「オクト フィニッシモ 千住博」が登場する。
千住 博氏に聞く、ブルガリ「オクト」とのコラボレーションとは?
滝と八角形、東西の美意識が邂逅した奇跡
「オクト フィニッシモ 千住博」は、世界最薄記録のオートマティック・ムーブメントを持つ「オクト フィニッシモ オートマティック」をベースに、千住作品の重要なモチーフである「滝」をマザー オブ パールのダイアルで表現した限定モデル。サンドブラスト加工を施したチタン・ロジウムコーティングのステンレススティール・ピンクゴールドの3種のケース&ブレスレットに合わせた、グレー・ブルー・ピンク各色が基調の「滝」がダイアルに配されている。
これら「オクト フィニッシモ 千住博」の発表に合わせて実現した、千住 博氏と、ブルガリのタイムピースのデザインを担うファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏との対話。
かたやニューヨーク、かたやスイスと拠点が遠距離にも関わらず、事前の「濃密なメールのやりとりゆえに、お互い旧知の友人のように仲良くなりました」と千住氏は笑った。当日ふたりの身を包んでいたのが、ともにイタリアのサルトの手になるブルーのスーツだったことも、心が通じ合うさまを象徴しているようだった。
「時の大切さを感じることが、本当の贅沢」(千住 博)
【編集部】今回の千住氏とのコラボレーションは、どのような経緯だったのでしょうか。
【ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(以下、ファブリツィオ)】この「オクト フィニッシモ」は、男性向けのタイムピースとしては、私たちにとって大変重要なもので、「アンバサダー・ウォッチ」とも表現しています。もともと、さまざまなやり方で「時」を表現できるアーティストとコラボレーションしたい、というアイディアがありました。
千住さんは通常とても大きなキャンバスに描かれるということで、そのことと、小さな文字盤との対比が面白く、興味深いコラボレーションになるのではと思いました。もちろん実現にあたってはさまざまな制約やチャレンジがありましたが、私たちは千住さんという素晴らしいアーティストとコラボレートする機会を持つことができて、とてもラッキーだったと思います。
【編集部】アートと時計とのコラボレーションと聞いて、当初どのような印象を受けましたか。
【千住 博(以下、千住)】僕は作品のなかで滝というモチーフを採っていますが、滝とは何かというと、時の流れなのです。美術とは見えないものを見えるようにするものです。例えば印象派は「光」を描きました。そして時間は、どんな人にも平等に与えられていて、ときとして無慈悲に過ぎ去り、まったく人の手に負えない存在です。時はいわば神の領域に属するものであり、その時間を芸術家がテーマにできるということは、素晴らしいことだと僕は常々思っています。
今回、時計について考えた時に、やはり滝がふさわしいと思いました。時間の流れが形となった滝がいいだろうと。この「オクト」、つまり八角形はギリシャ時代から使われてきた形で、以来さまざまなヨーロッパの文化とともにある洗練されたものです。そこには可能な限り洗練された絵を描きたい。オクトと滝、双方のエレガンスを掛け合わせて生み出されたものを通じて、時の大切さを感じてもらう、それは本当の豊かさだと思うのです。
豊かさとは単に贅沢なものを持つことではなく、今与えられているものの価値に気づくことだと思います。そういう意味において、今回のコラボレーションはすべての人を幸せにすることができる、ひとつの企画になると僕は思います。
【編集部】限定モデルはダイアルにマザー オブ パールを採用していますが、通常自然由来の岩絵具などで描かれる千住氏の作品を時計とするのにあたって、どのようなところが難しかったでしょうか。
【ファブリツィオ】千住さんの滝が持つパワー、力強さを、この文字盤のスケールで、しかもディテールにこだわって再現する、そこが一番難しかったと思います。マザー オブ パールという素材は多層の構造を持っていますが、各層ごと、違うエリアで違う層にプリントすることで、色のグラデーションや引き込まれるような暗部の感じを出すようにしています。実はさまざまな素材を試して、この文字盤の仕上がりにたどり着くまでに8か月ほどかかりました。私たちの工房はこれまで多くのことを可能にしてきましたが、これは本当に、一番難しい文字盤でした。
【千住】限定モデルの各ダイアルは、いわば「版画」のようなものです。ひとつずつ、プリントの限界を超えた工程を経て生み出されています。さらに正確に言えば、この滝の絵には「原画」というものは存在しません。きっかけとなったオリジナルの滝の絵、100種以上の案からファブリツィオが選び出した滝の絵はありますが、3色の滝のダイアルは、それぞれに細かく調整して仕上げられたものなのです。
「これは本当に、一番難しい文字盤でした」(ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ)
【編集部】それはアートというより、どこか工芸的なアプローチのようにも感じます。
【千住】アートや工芸というバウンダリー(境界)はすべて無くして、とにかくいい時計をつくりたいということなのです。
【ファブリツィオ】機械によってつくられるわけではなく、ひとつひとつの文字盤が手づくり、という感覚です、色によって異なる調整が必要でしたから。
【千住】そして、これは僕とファブリツィオのコラボレーションであると同時に、マザー オブ パールという素材の素晴らしさとそこに盛り込まれた技術があり、さらにこの時計を生み出す上での複雑な工程があります。僕はこの偉大な作品の、ひとつのパートを担当したにすぎません。さまざまな要素が組み合わされて作品が生まれる、いわば化学変化のような創造に参加できた喜びがあります。
【編集部】ダイアルをじっと見ているとつい引き込まれていくというか、滝がどんどん立体的になるようにも感じます。
【千住】例えば日本の襖絵、襖にはそれぞれ縁があって、引手が付いています。でも、襖絵を見て引手が邪魔という人は誰もいなくて、むしろその引手の奥が見えてくるような感覚があります。この時計のダイアルも、針やインデックスがあるからこそ、その奥が入ってくる、そして暗部にぐんと奥行きが感じられます。実は滝が描かれていない余白こそ宇宙、ともいえます。そこはぜひ感じていただきたいところですね。
「オクト フィニッシモ 千住博(OCTO FINISSIMO HIROSHI SENJU)」のラインナップ
■1:チタンモデル
■2:ステンレススティールモデル
■3:ピンクゴールドモデル
※商品の価格はすべて税抜です。
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