【目次】

【第26回のあらすじ】

寺の一室での“茶飲み会談”で始まった第26回「信長を笑わせろ!」。明智光秀(要 潤さん)の回想として映し出された、女物の装束姿ではない姫若子(ひめわこ)…一瞬、誰だかわからなかったのでは? 信長に四国切り取りの約束を反故(ほご)にされ、怒り心頭の土佐国主・長宗我部元親(磯部寛之さん)でしたね。

(C)NHK
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「のめぬなら、それまでじゃ」と元親の討伐を平然と告げる信長(小栗旬さん)は、信長たちに茶を振る舞っていた堺の商人・今井宗久(和田正人さん)に元親を討つのに十分な数の鉄砲を注文します。

当時、宗久は信長の茶頭(ちゃどう、さどう/茶の湯のことにあたった者)でしたが、政治的密談も行われる茶室は宗久にとっては格好の営業の場。ほんと、「毎度おおきに」ですね。

この安土城下の桑実寺(くわのみでら)は、天智天皇の勅願によって藤原鎌足の長男・定恵和尚が開山した古刹。寺名は、定恵和尚が留学先の唐から持ち帰った桑の木がこの地で栽培され、日本に養蚕技術を広めたことに由来するのだとか。室町幕府第12代将軍足利義晴が仮の幕府を置いたこともあり、一時は2院16坊と繁栄しましたが荒廃。信長が堂宇の再建に尽力して手厚く保護しました。

『豊臣兄弟!』では寺側も信長の命を狙っていた…という設定だったので、信長によって寺自体取り壊しの憂き目にあうようですが、実際には現在も西国四十九薬師霊場会の一院として参詣者を迎え入れていますよ。

この寺で命を狙われた信長は、かつて裏切り者として弟・信勝(中沢元紀さん)を斬ったことへのトラウマが再発。養子にした信勝の息子・信澄(緒形敦さん)に、弟の姿を重ねてしまうのです。実弟さえ信じられなかったことへの後悔でしょうか、己への憐憫でしょうか。ホントこの人(信長)、生きづらそうで気の毒です。

信長のためなら「死ぬ覚悟はできている」と言う信澄に、「共に上様のつくられるおもしろき世を楽しもうではござりませぬか」と、どこまでも“信長LOVE”な秀吉(池松壮亮さん)は天真爛漫な笑顔を見せます。でも…信澄を信じ切ってもいいの!?

(C)NHK
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案の定、信澄は元親と通じていました。それを信長にとがめられた信澄は、元親に毛利方へ寝返られて天下一統が遠のくのを防ぐため談判をしていたのだと弁明するのですが…。信長の思い過ごし? 被害妄想? いやいや、やっぱり信澄はどこか嘘っぽい!

秀吉が心配なのは、信澄ではなく信長。「わしの一生の恩人だで」と語る秀吉の姿に、(表向きは)かつて仕えていた足利義昭の信長への恨みを晴らすべきか…と光秀の心は乱れます。

さて、今回の「信長を笑わせろ!」というサブタイトル、「一体どういうこと?」と思った人も多いのでは? 命を狙われ心休まることのない信長を案じ、なんとか信澄を許してもらえないかと秀吉が考えたのが、“上様を笑いで元気にする作戦”です。

子を授からなかった秀吉&寧々夫妻は信長の五男を養子に迎えていましたが、その秀勝(柊木陽太さん) の初陣を激励してほしいと信長を長浜城に招きます。信長を楽しませ、機嫌がよくなったところで信澄を許してくれるよう頼む…という算段ですが、うまくいくのでしょうか。

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この作戦で活躍したのは羽柴家の女性たち。踊りの指導と琴の演奏は小一郎(仲野太賀さん)の妻・慶(吉岡里帆さん)、踊り手は寧々、母・なか(坂井真紀さん)、姉妹のとも(宮澤エマさん)とあさひ(倉沢杏菜さん)。ほか、家中総出の歌や踊り、美酒佳肴(かこう)で信長と市(宮崎あおいさん)をもてなします。

結果、信長の心をほぐしたのは歌や踊りではなく酒に酔い潰れた女たちでしたが、そこはご愛敬。信澄の処遇は酒の飲み比べで決めるとし、ギリギリで秀吉が勝利したのでした。ここ、「信澄の件では引っ込みがつかなくなっていた信長に、酒の飲み比べという、わざと負けることもできる勝負を提案した」という可能性もありでしょうか?

翌朝、長浜城の天守閣から城下を眺める信長は、争いが起きることのない、境目がなくどこまでもひとつである空のような国をつくりたいと秀吉に語ります。ここのところ、光秀を足蹴にしたり、食膳を蹴散らかしたりする信長ばかり見ていたので、この天守閣でのシーンに、視聴者はひととき心和ませたことでしょう。


【気になる!安土城と長浜城での信長の“キンキラ背景”】

さて、今回の放送で筆者が注目したポイントは、安土城の障壁画(しょうへきが)です。日本美術の展覧会や寺院での寺宝鑑賞時に必ずといっていいほど目にするのが障壁画や屛風ですが、安土城は完成からわずか3年、天正10(1582)年6月2日早朝に起こった本能寺の変の直後に、天主閣(※)および中心部をなんらかの理由で焼失しているため、安土城内部を飾っていた障壁画は残っていません。

※一般的には「天守閣」と書きますが、安土城は「天主閣」と表記します。これはキリスト教で神を意味する「天主」に由来するという説や、信長が自らの権威を象徴するために用いたという説があり、その意図についてはさまざまな見解があります。

安土城は敵の襲撃から身を守る城ではなく、為政者としての権威を見せつける城。地下1階、地上6階の、5層7階建てで、最高峰の職人や絵師を起用した絢爛豪華な城郭でした。

■まずは…障壁画とは?

「障壁画」とは、建造物に付属する襖(ふすま)や壁などに描いた、生活空間を彩る室内画の総称です。

古くから建造物と共に発達した絵画には、古墳の墓室や寺院の堂塔などに描かれた「壁画」がありますが、それらは聖なる空間のための荘厳画で、人間の営みからは隔絶された絵画。信長の安土城のように、公家や貴族、武将や大名などの上層階級が、邸宅や城といった人間が営む空間を飾るために絵師に描かせたのが「障壁画」です。

■安土城の障壁画担当は稀代の天才絵師・狩野永徳

15世紀後半の室町時代中ごろから、19世紀中盤の江戸時代の終わりまで、約400年間も日本の美術界のトップに君臨したのが絵師集団「狩野派(かのうは)」です。天正4(1576)年正月から近江国蒲生郡の安土山に築城を始めた信長が、この絵師集団に依頼しないはずがありません。しかも当時は、のちに狩野派400年の歴史のなかで最もその才能を称えられることになる狩野永徳の時代。狩野永徳が信長の命を受けて総指揮を執り、天主(※)すべての空間を金碧(きんぺき)障壁画で埋め尽くしたともいわれています。

※「天守」のことですが、信長は「天主」という文字を使いました。これは上述したように、キリスト教で神を意味する「天主」に由来するという説や、信長が自らの権威を象徴するために用いたという説があり、その意図についてはさまざまな見解があります。

最上階は金箔が張り巡らされた3間四方の空間に、三皇五帝や孔子、老子、七賢など、中国の伝説上の聖人や哲学者を描き、信長が理想とした天下布武(てんかふぶ/戦乱の世を終わらせ、社会に平穏と秩序を取り戻すという信長の政治的スローガン)を表したといわれています。劇中で家臣たちと対面する下層の会見の間に描かれていたのは、永徳率いる狩野派絵師集団が階層ごとに趣向を凝らしたとされる内容をミックスしたようなものでしょうか。

すべての障壁画は焼失してしまったので想像の域を出ませんが、信長の生涯を記した『信長公記(しんちょうこうき)』には、安土城天主内部の絢爛豪華なさまが記されています。儒教や仏教、道教、花鳥、故事など、身近な自然や風俗も描かれていたそう。もし安土城が現存していたら…間違いなく“永徳美術館”と呼ばれそうですね。見てみたかった!

■長浜城でのもてなしには金屏風も

一方、湖北(琵琶湖の北東部)に構えた秀吉の長浜城も金碧ではありますが、安土城よりぐーーーーっと明度を抑え、描かれているものも素朴な花鳥や雲間にのぞく波濤(はとう/大きな波)と岩など、家臣らしく控え目な障壁画です。が、信長お運びの背景には、障壁画とはトーンの異なるキンキラの屛風が配置されていたことに気付きました? 上様をもてなす精いっぱいの設(しつら)え、というわけでしょう。

■秀吉の大量発注で永徳過労死!?

信長亡きあと新たな天下人へと上り詰めた秀吉は、狩野永徳をビジネスパートナーのように重用。永徳が得意とした「大画面」「金箔の多用」「巨大樹木や動物をダイナミックに描く」といった画風は、派手好みの秀吉にピッタリ!

次々と制作を発注し、永徳は秀吉の“お抱え絵師”となります。天下人としての秀吉の拠点となった大坂城、京都に造営した邸宅の聚楽第(じゅらくだい)、秀吉が指揮を執った京都御所の御殿、京都・東福寺法堂の天井画と、10年に満たない期間でこれだけのビッグプロジェクトを務めた永徳は、東福寺法堂天井の龍図を制作中に過労死したともいわれています。しかしその後も秀吉の普請は続きます。朝鮮出兵の拠点とした肥前名護屋城や、秀吉が晩年を過ごした伏見城では、永徳の長男・光信や、弟子の山楽が秀吉の期待に応えました。

史実とフィクションが織り交ぜられた戦国大河『豊臣兄弟!』ですが、城郭の普請や障壁画、茶の湯など、美術的にも見応え十分。そんな目線で楽しむのも一興ですね。


【次回 『豊臣兄弟!』第27回「本能寺の変」あらすじ】

(C)NHK
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戦国最強といわれた甲斐武田氏を滅亡に追い込んだ信長(小栗旬さん)は、信孝(結木滉星さん)に四国攻めを命じる。一方、備中で毛利攻めの任にあたる秀吉(池松壮亮さん)は、戦の総仕上げのため信長を連れてくるよう小一郎(仲野太賀さん)に依頼。小一郎は遠路はるばる安土へ向かう。

折しも安土城では信長が家康(松下洸平さん)を接待していたが、食事に毒が盛られていたことが発覚。饗応役の光秀(要 潤さん)が首謀者をかばっていると察した信長は逆上する。

※『豊臣兄弟!』第26回「信長を笑わせろ!」のNHK ONE配信期間は2026年7月11日(日)午後8:44までです。

※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/『信長公記―戦国覇者の一級史料』(中公新書)/『日本美術全集17桃山の障壁画 永徳/等伯/友松』(学研)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版) :