メンズプレシャス世代の多くが、まだ若く背伸びしていたであろう1980年代。メルセデス・ベンツの一番小さなモデルは190シリーズ(現在のCクラス)だった。190シリーズは上位のSクラスやミディアムクラス(Eクラス)をそのまま小さくしたつくりで、その高い完成度は、日本の自動車メーカーのクルマづくりにも少なからず影響を与えたといわれている。時は流れ、いま最も小さいメルセデスといえばAクラスだ。3世代目に進化した新型は、かつての190シリーズにも劣らない、クラスレスな魅力にあふれている。いち早く海外でハンドルを握ったライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、改めて日本仕様の出来栄えをリポートする。

基本がよくできていて日本の道でも扱いやすい

1331ccエンジンながら意外なほどよく走る(撮影=安井宏光)。
精悍なフロントマスクは新型CLSなどと共通の新世代のデザイン。
A180 Styleは全長4420ミリ、全幅1800ミリ、全高1420ミリ。

 クルマに仕える。これはクルマ好き男性の楽しみといえる。たとえばスポーツカーを手に入れたら、操縦の腕前に磨きをかける。あるいはサーキット走行を習う。いっぽう、クルマに仕えさせるのも、またよい。日常生活でかゆいところに手が届くようなクルマというのも、また愛着がもてるものだ。

 2018年12月に日本で発売されたばかりの新型メルセデス・ベンツAクラスは、ふだんの生活のベストパートナーになってくれるクルマの1台だろう。A180というモデルに乗ると、サイズをはじめ、走りも機能も、本当に使いやすいのに感心させられるのだ。

 最新のAクラスは、かなり気合いの入ったモデルだ。ボディ構造は徹底的に剛性と安全性を追求したものであり、操縦性も同時に高いレベルを目指したとメーカーでは言う。

 私がこのクルマに初めて乗ったのは、2018年秋のクロアティアである。そのときは上級セダンのようなハンドリングを与えられたことを知ったのが、嬉しい驚きだった。「こんなに上質感のあるハッチバックに乗ったことない」という記憶はいまも鮮明だ。

 2019年1月の日本が、二度目の本格的な試乗体験である。当面(?)日本に導入されるA180は、ルノーと共同開発(といってもメルセデス・ベンツが設計も開発も担当)した1.33リッター4気筒搭載モデルだ。変速機はルノーが担当した7段のツインクラッチタイプで、前輪駆動である。

 このクルマがいいのは、よく走り、よく曲がり、よく止まるという基本がじつにしっかりしているところだ。その印象は変わらなかった。エンジンは100kW(136ps)の最高出力と200Nmの最大トルクを発生する。トルクは1460rpmから最大に達するので、発進から加速していくときにも力強い。

 エンジンは(私にとって)意外なことに3000rpmから上を使って走ると楽しい。下の回転域で力がスカスカということもないのだが、アクセルペダルへの反応がよくなり、痛快さとともに走れるのはエンジンを回したときだ。ガソリンエンジンならではの楽しみでもある。

 乗り心地は総じて快適だ。上下動は抑えられているし、フロアの振動もきっちり遮断されている。騒音はエンジンルームからがもっとも大きいように思えたが、逆をかえすと、ピラーやウィンドウやタイヤハウスからの音が静かなのだった。

 私は今回、東京と葉山を往復する過程で、16インチタイヤ装着車と、「AMGライン」というオプションパッケージに含まれる18インチタイヤ装着車を試すことが出来た。通常はタイヤ径が小さいクルマほど乗り心地がいいものだが、A180では大きな違いは感じられなかった。

 全長4420ミリ、全幅1800ミリのボディは、フォルクスワーゲン・ゴルフより155ミリ長い(全幅は同一)が、依然として、日本の市街地では扱いやすいサイズだ。低回転域でアクセルペダルへの反応がよく、かつステアリングもダイレクト感があるため、日常的な機能性にたいへんすぐれていそうだ。

気の利いた答えも仕込んであるMBUX

スマートタブレットのようなモニターがユニークなデザイン。
「ハイ、メルセデス」と呼びかけるとこのようなメッセージが出る。

 もうひとつ、ユニークであり、かつ、日常的に使い勝手がいいと思われるのが、今回用意された「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザーエクスペリエンス)」である。UXはいま自動車メーカーが最も力を入れている分野のひとつで、操縦者と車両とを結びつける技術のことをいう。

「ハイ、メルセデス」と呼びかけるとシステムが起動する。そして「どうしますか?」と訊いてくる会話型の音声操作方式が新しい。「暑い」と言うと「温度を1度C下げます」などと応えてくれる。シートヒーターやサンルーフなども操作できるし、ナビゲーションやハンズフリーフォンも音声で操作できるようだ。

 おもしろいのは「隠しコマンド」みたいなものだ。「ハイ、メルセデス、いま何歳?」と呼びかけると「気持ちは若いままです」というように応えてくれる。それがいくつかあるので、オーナーになったら発見する楽しみを持てるだろう。

「メルセデスミーコネクト」というサービスの利用も可能だ。これによって、スマート端末を使った車両管理システムが使える。リモートでドアの施錠と解錠を行えるし、駐車位置検索もできる。スマートフォンとのある種の一体化が進んだモデルなのだ。

 安全運転支援システムは「Sクラスと同等」と日本法人であるメルセデス・ベンツ日本では謳う。「レーダーセイフティパッケージ」には、速度調整に加えて自動再発進機能とステアリングアシストで先行車を追随する機能や、ウィンカーレバーの操作により車両が車線を変更するアクティブレーンチェンジアシストなどが備わる。

 歩行者との衝突の危険があるときは回避しながら走行車線に戻るようドライバーのステアリングホイール操作をアシストしたり、死角に車両がいる際に車線変更をしようとすると自動でブレーキをかけえるなど、「レーダーセイフティパッケージ」の内容は豊富なのだ。

 仕事に追われる日々など、移動のための頼りがいのあるパートナーになってくれそうだ。かつ、荷室も従来型より大きく、かつ開口部が大きくなっているため、ゴルフやデイキャンプなども積極的に楽しめるだろう。いちど試してみる価値がありそうな1台ではないか。

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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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