ぼくのようなサッカー好きにとっては、Jリーグの新シーズンが開幕し、欧州各国リーグとチャンピンズリーグが終盤を迎える2月後半から5月末までの3か月は、1年で最もテレビという文明の利器の世話になる時期である。

 6月には日本代表(ただしアジアカップに出場した選手は除外される)がゲスト参加する南米選手権(ブラジル開催)まで加わり、こいつが7月七夕まで続く。要するに、のべつまくなしフットボールアワーであって、仕事も手につかぬ。

  さて2019年のサッカーシーンでぼくの一番注目は、リーガ(スペインリーグ)で既に400ゴールをあげている天才メッシの活躍と、「戦術はメッシ」のバルセロナが何冠取れるかであるが、同じぐらい英国プレミアリーグの優勝争いにも目が離せない。

   昨年(2017−18シーズン)の覇者マンチェスター・シティ(通称シティ)が2連覇なるか、いやそう簡単にいかせるわけねえだろとリバプールが1992年のプレミアリーグ移行(以前はフットボールリーグと呼ばれる大会方式だった)後初の優勝をもぎとるか、その後ろからあわよくばを狙う、トットナム、マンチェスターユナイテッド、アーセナル、チェルシー。まったくとてつもないハイレベルの戦いがくりひろげられているからである。

 この両チームはUEFAチャンピオンズリーグのベスト16にも残っているので、そのトーナメント戦の結果も選手のやりくり等プレミアリーグの戦い方に大いに影響する。シティの場合はですな、おまけにFAカップとリーグカップ(カラバオカップ)にも勝ち残っているので、現状4冠制覇の可能性もある。だが、そのためにはターンオーバー(選手入れ替え)を駆使し、中3日、2日の連戦地獄を勝ち抜かなければならない。監督の手腕が問われるのはまさにこういう状況ではないか。

 このブログを書いている現時点ではシティとリバプールは勝ち点65で並んでいるが、シティが一試合多く消化しているので、ガッツあふれるジェスチャーで知られるドイツ人監督ユルゲン・クロップ率いるリバプール優位は動かず。

オール・オア・ナッシング ~マンチェスター・シティの進化~より

 Amazon Primeのオリジナルシリーズ『オール・オア・ナッシング~マンチェスター・シティの進化~』は、昨年ワンシーズン、完全にシティに密着したドキュメンタリーで、この「監督の手腕」なるものの実体を描ききったおそるべきテレビ映画である。

 みなさんがプレミアファンかサッカーファンかなどあえて尋ねまい。これは戦う人間集団をどう仕切り、勝利を勝ち取るかというリーダー論映画でもあるからね。

 シティの監督は、現在世界ナンバーワン監督と誰もが認める、ジョゼップ・グアルディオラ、通称ペップ。この名前ぐらいはごぞんじですよね? 選手としてバルセロナやスペイン代表として大活躍し、2008年からはバルサの監督に就任。その年に三冠(スペインリーグ、コパ・デル・レイ、チャンピョンズリーグ)を成し遂げたトンデモナイ男は、その後ドイツのバイエルン・ミュンヘンでもリーグ優勝。英国マンチェスターシティに移り、昨期(17-18シーズン)プレミアリーグ優勝を成し遂げている。スポーツ紙的な形容をするなら「優勝引受人」である。

オール・オア・ナッシング ~マンチェスター・シティの進化~より

 だが、いかなペップであろうと、現在世界ナンバーワンサッカーリーグと言われるプレミアで勝つのはたやすいことではない。世界一の報酬レベルにひかれて蝟集するサッカー選手はいずれも各国代表のトッププレイヤー。外国人選手の人数制限もないから、先発イレブンにほとんど英国人がいないということもしばしば(だからといって英国人サッカー選手は、他リーグにはいかない。それほどプレミアのステイタスと報酬は上ってことだ)。下位のチームもまったく油断ならない実力を備えている。そこが他リーグとはまったく違う。加えて英国サッカー特有の激しさがある。

 ぼくは選手時代からペップのことは知っている。とんでもなくクールな男だったねえ。姿勢がよい。すくっと立って、渋い、気の利いたパスで試合をコントロールする、そういうミッドフィールダーだった。バルサの監督時代もピッチ上のペップはクールで、それがライバル、レアルマドリードの監督ジョゼ・モウリーニョの激情家ぶりと好対照をなしていた。

 う~む。実際のペップはまったく違っていたね。

 おそらく、初めてであろう試合前後・ハーフタイムのロッカールーム取材! ペップはもちろん論理的ではあるのだが、それ以上に熱い! 恐い! 引かない! 弱みをみせない!戦う男だった。

 サッカー世界最強国のフランス、ベルギー、ドイツ、スペイン、イングランド、ブラジル、アルゼンチン代表の、お山の大将たちが神妙にペップのプレゼンに聞き入っている姿は傑作だ。あのアグエロが、あのダビド・シルバが、あのコンパニーが、である。このカリスマはすごいや。以前からこんな選手たちをひとつのチームに結束させる言葉の力はなんなんだとぼくは思っていたが、その言葉はロッカールームにすべてあった。これは番組になるわな。

オール・オア・ナッシング ~マンチェスター・シティの進化~より

 以前、当時チェルシーの監督だったモウリーニョのドキュメンタリーを観たことがあるが、意外や男気と人情味あふれる男だったので、これが選手がついてくる秘密かと得心した。ペップの場合「オレのこと憎むなら憎めよ!」だからね。ピッチや会見では見せないあんな情熱があったか……。いやあホンモノはやっぱり迫力が違うは。

 世界ナンバーワンの監督の「現場」とはこんな世界だったか。

 おそらくぼくなどここに紹介するずっと前にサッカー業界では話題になっていただろうから、Jリーグの監督たちはみな見ているだろう。だが、このドキュメンタリーのペップの姿は、他のスポーツ監督はもちろん、仕事でチームをひきいるビジネスマンにも多いに参考になると思う。とくにチームが多国籍の場合は。

 番組を観ている途中からぼくはこの監督のニックネームが偶然でもなんでもないように思えてきた。「ペップのしゃべり」つまり”Pep Talk”は、英語で「激励」「勇気づけ」の意味なのである。

この記事の執筆者
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。