昨年、こちら(https://precious.jp/articles/-/7017)でオフ公演の熱気を紹介した『ビー・モア・チル』(Be More Chill)は、予定通り2月13日からブロードウェイでプレビュー公演を開始。2月27日に観劇したが、目立った変更はなく、観客も変わらず盛り上がっている。

 翌14日に登場したリヴァイヴァル『キス・ミー・ケイト』(Kiss Me, Kate)については、報告第2便に回させていただくとして、まずは、新作『エイント・トゥー・プラウド』(Ain't Too Proud: The Life and Times of The Temptations)から。すでに他の都市で公演を成功させてきただけあって、これが、なかなかの仕上がりだった。

「二匹目のドジョウ」になりそうな『エイント・トゥー・プラウド』

『エイント・トゥー・プラウド』の演出は、『ジャージー・ボーイズ』(Jersey Boys)を手がけたデス・マカナフ。

アメリカを代表するのソウル・コーラス・グループ「ザ・テンプテーションズ」。1960年代に「マイ・ガール」等のヒット曲を世に送り出し、1989年にはロックの殿堂入りを果たした。写真:Shutterstock/アフロ

 ザ・フォー・シーズンズの伝記的ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、2005/2006年のトニー賞でミュージカル作品賞他4部門で受賞し、ブロードウェイで11年を超えるロングランを達成。その後、オフに移って今も上演中だ。この大ヒットを受けて同趣向のミュージカルが複数ブロードウェイに登場してきたが、今のところ成功作と言えるのは、丸5年を超えて続いている『ビューティフル~ザ・キャロル・キング・ミュージカル~』(Beautiful: The Carol King Musical)ぐらい。マカナフ演出の伝記的ミュージカル第2弾として昨年春にオープンしたドナ・サマーが題材の『サマー』(Summer: The Donna Summer Musical)も、残念ながら12月30日に幕を下ろした。やはり同じ演出家による「二匹目のドジョウ」はいないのか、と思っていたところに登場したのがザ・テンプテーションズの『エイント・トゥー・プラウド』。2月28日にプレビュー公演を開始したばかりだが、どうやら、こちらが「二匹目のドジョウ」になりそうな勢いだ。

 ザ・テンプテーションズ(略称テンプス)は、最盛期のモータウンで、ダイアナ・ロス在籍時のザ・スプリームスと並ぶ人気と売り上げを誇った5人組コーラス・グループ。日本での知名度はアメリカに遠く及ばないと思うが、それでも初期のヒット曲「My Girl」などは世代を超えて知られているのではないだろうか。

 そのテンプスの実質的リーダーであるオーティス・ウィリアムズの自伝を元に、モータウンの地元デトロイト出身の劇作家ドミニク・モリソーが脚本を書いている。この脚本が快調。オーティス・ウィリアムズを語り部にした回想形式で、ドラマがテンポよく進む。それに呼応して、マカナフの演出も淀みない展開を図る。ことに、ひとつの楽曲が終わると、ほぼ途切れることなく次に歌われる楽曲の印象的なベースラインを中心にしたリフが流れてくるのが効果的。前述の「My Girl」の時など、イントロの3音で客席がドッと沸いた。意図のよくわかる映像使いも過剰にならず、いい感じ。

デイヴィッド・ラフィン役のアクションが見もの!

インペリアル劇場裏のザ・テンプテーションズ黄金期のメンバーを演じる役者写真。亡くなった4人のメンバーへの追悼の意も込められたこの作品にはファンならずともグッとくる。筆者撮影

 4人のオリジナル・メンバー全員を順繰りに語り部にした『ジャージー・ボーイズ』に比べて、構成が単純すぎると感じるむきもあるかもしれないが、そこは別の持ち味。あちらは、終盤に波瀾を呼ぶリーダーの借金話をはじめとするメンバー個々の隠された事情を異なる視点から描き出そうという意図もあっての複雑な構成だったと思うが、『エイント・トゥー・プラウド』には、オーティス・ウィリアムズ1人の視点にする違った意味がある。両作とも、若い仲間が集って成功を収め、やがてそれぞれに問題を抱えて別れを迎える、という話の大筋は同じだが、テンプスの場合、黄金期のメンバーは――これは周知の事実だし、劇中でも冒頭に明かされるので書いてしまうが――オーティス以外の4人が亡くなっている。彼らを偲ぶオーティスの追悼の気持ちというのが『エイント・トゥー・プラウド』の支柱になっているのだ。

デイヴィッド・ラフィン役の映像が印象深いインペリアル劇場表玄関の動画看板。筆者撮影 

 その少しばかり感傷的な気分と、ある年齢以上のアメリカ人なら知らない者はいないヒット曲の数々とで盛り上がる……というだけなら「二匹目のドジョウ」になるかどうかは怪しいが、そこがブロードウェイ。演者の技量が素晴らしい。歌はもちろん、アクションに魅了される。テンプスと言えばバックに回ったメンバーの一糸乱れぬアクションを様々に工夫したことで知られるが、この舞台では、それに加えてリード・シンガーも激しく動く。ことに、デイヴィッド・ラフィン役のエフレイム・サイクスのダンスはジェイムズ・ブラウンばり。ひと際目を惹く。賞レースの目玉になりそうだ。

上演日時および劇場は、Playbill(http://www.playbill.com/production/aint-too-proud-the-temptations-musical-imperial-theatre-2019-2020)でご覧ください。

作品の公式サイトはこちら(https://www.ainttooproudmusical.com/

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年。オンのミュージカルは99.9%網羅。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
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